【第一部-拾伍】誰かを見つめる夕立と扶桑 #見つめる時雨

夕立 扶桑
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夕立視点

とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

夕立、いま、膝の間に座らされて頭を撫でられてる。とっても優しい手つきで、頭と言うよりは髪を撫でてるって言った方がいいっぽい…? 少しくすぐったくて、でも心地良い。時雨に撫でられるのも気持ちいけど、同じくらい気持ちいいっぽい。…背中の方から鼻歌が聞こえる。とっても綺麗な声。

2014-02-13 23:55:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

今日は秘書艦の扶桑さんのお手伝いをした。提督は出張中なんだって。だから今日一日、扶桑さんと一緒だった。扶桑さんと二人っきりになるなんて今まであんまりなかったから、少し緊張したっぽい。でも扶桑さん、とっても優しかった。いっぱい撫でてくれた。

2014-02-14 00:01:06
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

夕立の跳ねた癖っ毛をくいくいと引かれる。嫌じゃないけど、ちょっと変な感じがする。 「…扶桑さん、そこ、気になるっぽい…?」 扶桑さんは、んー…と言いながら髪を弄るのを止めない。そんなに楽しいのかな。 「髪の毛、サラサラね」 扶桑さんが言う。褒められたっぽい?えへへ

2014-02-14 00:05:41
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

扶桑さんの細い指が夕立の顎をくすぐる。綺麗に手入れされた爪で擦られて、とっても気持ちいい。 「んっ…んっ…」 つい顎が持ち上がっちゃって、気づいたらそのまま後ろに仰け反って、ひっくり返りそうになった。そしたら、扶桑さんの柔らかいところが受け止めてくれた。大っきかった…。

2014-02-14 00:10:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「あら…大丈夫?」 扶桑さんが夕立を覗きこむ。夕立のよりも深い色をした真っ赤な目が、夕立を見下ろしてた。 「大丈夫…っぽい」 「……?」 扶桑さんが首を傾げた。いけない。綺麗だなって思って、まじまじと見ちゃった…。

2014-02-14 00:15:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…よいしょ」 「…ぽい?」 夕立、そのまま扶桑さんに抱き抱えられた。扶桑さんがまた、夕立の頭を撫でる。とっても優しく、柔らかく…。とっても気持ち良くて、嫌な気分はしないんだけど、なんだか夕立、扶桑さんの犬になったみたい…。 「…夕立。貴女、時雨のこと…好き?」 えっ?

2014-02-14 00:20:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

胸がドキドキしてる。それってどういう意味だろう…。どういう好きのことを聞いてるんだろう…。でも、どんな意味にしても、時雨のことは…。 「…好き…っぽい…」 「…そう。好きっぽいのね」 扶桑さんはずっと夕立の頭を撫でていた。

2014-02-14 00:25:25
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「ふぅ…」 扶桑さんが一息ついた。そして…静かな口調で、ゆっくりと喋り始めた。 「…あのコはね、あの戦争で…ひとりぼっちになったの。いえ、私から言うなら…ひとりぼっちにしてしまったの…」 …扶桑さん…?

2014-02-14 00:30:31
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

扶桑さんが語り始めた話。それはあの戦争の話。多分…レイテ沖海戦のこと。話は聞いたことがあるっぽい。夕立が沈んだ後だから、詳しくは知らないけれど…。時雨が、ひとりぼっちになってしまった戦い…。

2014-02-14 00:35:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「レイテ以前で時雨と一緒に行動した中で印象的だったのは渾作戦かしらね…。ビアク島の戦いを支援する為の輸送任務だったわ。時雨達のいた第二十七駆逐隊は私の直接の護衛ではなかったけれど、共に艦隊行動をしたわね。二十七駆…その時は時雨、白露、五月雨、春雨で構成されていたわ…」

2014-02-14 00:40:32
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…次に一緒になったのはもう…レイテ沖海戦に向かうとき。二十七駆は私たち西村艦隊に組み込まれたわ。…でも、その時、二十七駆には白露も、五月雨も、春雨もいなかった。二十七駆は、時雨ひとりだったのよ…。そんな時雨に…山城が、私のところに来なさいって、手を差し伸べたの」

2014-02-14 00:45:19
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「でも…私たち西村艦隊は、スリガオ海峡で時雨をひとり残して全滅した…。本当に…可哀想なことをしてしまったわ…。私達は、あのコをまた、ひとりぼっちにしてしまった…」 夕立を抱く扶桑さんの腕が、きゅっとなった。

2014-02-14 00:50:28
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…時雨は自分に対してすごい悲観的なところがあるわ。自分はここに居ていいのか…そんな風に考えてしまう。…時雨は戦いで生き残る中で沢山の僚艦の死を目の当たりにしてきた。だから、また自分の周りから皆いなくなってしまうんじゃないかって、そう考えてしまう時があるのね…」

2014-02-14 00:55:25
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…その気持ちは、誰よりも仲間を大切にしているからこその気持ち。誰もいなくなって欲しくないからこそ…」 …扶桑さんがため息をついた。 「でも、そのせいで人からの好意に少し鈍感みたいなの…。自分が想うばっかりで、あんまり自分が誰から想われてるってことは考えたことないみたいで…」

2014-02-14 01:00:38
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

扶桑さんが夕立の頭を撫でながら、言葉を続けた。 「…だからね、夕立の時雨への気持ち…諦めないで伝えてあげて欲しいの。夕立が望むような答えが返ってくるかはわからないけれど…伝えることができれば、時雨はちゃんと受け取って、大切にしてくれると思う。あのコは、そういうコだから…ね?」

2014-02-14 01:05:27
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

扶桑さんが夕立の身体を扶桑さんの方へ向けさせた。扶桑さんと目が合う…。 「このままじゃ…誰も前に進めないわ。貴女も、時雨も…。だから…」 そこまで言われて…扶桑さんの言いたいことが全てわかった。扶桑さん…全部知ってたっぽい…。夕立のことも…。

2014-02-14 01:10:23
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「でも…もし、ダメだったら…」 そう考えると、やっぱり怖いっぽい…。…暗い気持ちになって項垂れてたら…扶桑さんに引き寄せられた。扶桑さんのおっきな胸に抱かれる。 「…それを決めるのは時雨よ。貴女じゃない。それに…言ったでしょ。夕立の気持ちを無碍にするようなコじゃないって」

2014-02-14 01:20:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

時雨…。 「…あのコは…この先、自分にとって辛い選択をすることになるかもしれないわ…。もしかしたら、もうしてるかもしれない…。時雨はそういうコだから…。でも、それに対して私からは何もしてあげられない…。だから夕立が…時雨の傍にいてあげて欲しいの…」 …え?どういうことだろう…

2014-02-14 01:25:27
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…もうこんな時間になってしまったわね。お話に付きあわせてしまってごめんなさいね」 扶桑さんが立ち上がった。 「…扶桑さん、何で夕立にこんな話…してくれたの…?」 夕立がそう聞くと、扶桑さんは優しく微笑んだ。

2014-02-14 01:30:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…私はね、艦隊の皆のことは家族だと思っているわ。艦隊旗艦として、皆を導いていきたい。そして…あの時叶わなかった私の夢を…ここで叶えたいの。山城と、一緒に」 そう言って扶桑さんは部屋に戻っていった……

2014-02-14 01:35:26
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

一人残された部屋で、扶桑さんの話を思い返す。扶桑さんの言う辛い選択って話が何なのか、それはよくわからなかった。けど、夕立は時雨が好きだから…時雨の助けになりたいって思う。 …この鎮守府で時雨に会った日のことが頭に浮かんだ…。 うん…夕立は、時雨のことが、好き…。

2014-02-14 01:40:21