笠井潔氏が語るファシズムと安倍政権 ― 都知事選の結果を受けて

63
前へ 1 ・・ 4 5 次へ
笠井潔 @kiyoshikasai

明治政府に裏切られた尊王攘夷派のウルトラ天皇主義と神国思想が、観念右翼の源流となる。また日本の右翼運動には、自由民権運動の国権論に由来するアジア主義的勢力も含まれる。前者が神話的な保守主義を、後者が侵略的なナショナリズムを体現したとも整理できそうだ。

2014-02-17 16:27:26
笠井潔 @kiyoshikasai

天皇主義や神国思想は観念的に過激化し、凡庸で通俗的な近代社会に革命的切断を加えようとする。昭和維新運動に革命性をもたらしたのは、こうしたウルトラ保守主義だった。この復活を第二次大戦後の日本で目指したのは三島由紀夫だが、結果は見ての通りである。

2014-02-17 16:39:55
笠井潔 @kiyoshikasai

知識人のバーク的な正統保守主義は福田恆存などに体現されたが、それと原理的に異なる大衆の俗流保守主義は、道徳教育や良妻賢母のノスタルジーや根性主義という微温化された形態で戦後も延命したし、今日も一定の影響力を保っている。しかし、それが昭和維新運動のような革命に通じる可能性はゼロだ。

2014-02-17 16:48:11
笠井潔 @kiyoshikasai

革新官僚として出発した岸信介は合理主義者だから、天皇主義や神国思想というウルトラ保守主義の精神とは無縁だ。利用できるものはなんでも利用するという、リアリストとして判断はあったとしても。政治家として岸を駆動していたのは、あくまでも帝国主義的ナショナリストという要素だった。

2014-02-17 16:58:03
笠井潔 @kiyoshikasai

外務官僚としては英米派だった吉田茂は、日米安保と抱き合わせでサンフランシスコ条約を成立させ、対米従属・経済優先という戦後保守本流の路線を定めた。総力戦体制を平和的形態で継続した戦後復興・高度成長路線は、労資協調の日本型福祉国家に結実する。

2014-02-17 17:06:38
笠井潔 @kiyoshikasai

民党右派の岸信介も、総力戦体制の戦後的形態で経済成長を追求する点では吉田路線を継承した。異なるのは、対米従属・経済優先のうち前者のほうだ。岸による1960年の安保改定は、日米関係を多少とも対等化する方向を目指していた。この点の把握は、当時の共産党より新左翼のほうが妥当だった。

2014-02-17 17:13:57
笠井潔 @kiyoshikasai

GHQによって監獄に叩きこまれた岸が、素直に改心して親米派に転向したわけがない。とはいえ、戦前の帝国主義的ナショナリズムをそのまま復活させることもできない。可能なのは日米反共軍事同盟をより対等化することで、世界戦争の敗北形態である半国家日本を「普通」の帝国主義国家に戻すことだ。

2014-02-17 17:20:06
笠井潔 @kiyoshikasai

岸の実弟の佐藤栄作や、中曽根康弘の政権は自民党右派に属するが、政権運営は大枠で自民党主流派の対米従属・経済優先路線の枠内にあった。たとえば非核三原則が佐藤政権によって定められたように(もちろん「持ちこまず」は当初から空文だったわけだが)。

2014-02-17 17:28:40
笠井潔 @kiyoshikasai

集団的自衛権から武器輸出三原則にいたるまで、戦後平和主義の「見直し」を猛烈な勢いで進めつつある安部政権は、あれこれと反動攻勢をしかけて戦後左翼と小競り合いを演じてきた従来の自民党タカ派政権とは、もはや異次元の存在である。「来た」とすれば、それは狼以外・狼以上のなにかだ。

2014-02-17 17:36:08
笠井潔 @kiyoshikasai

自民党改憲案に歴然としている立憲主義の否定や反人権の理念は、反近代的な保守主義に由来するが、天皇主義や神国思想の要素は見られない。それほど激烈でも革命的でもない。通俗的な大衆的保守主義の産物にすぎず、せいぜいのところ、「美しい国」という類の微温的な水準でしかない。

2014-02-17 17:42:58
笠井潔 @kiyoshikasai

自民党改憲案の反近代主義は国粋主義的というより、アジア的なものを根拠とすることになるだろう。人権問題をめぐる批判に中国が、中国には中国の民主主義がある、欧米的なそれの強要は不当な干渉だと反論するように。ただしウルトラ化された精神主義や根性主義は、いまだに命脈を保っているようだ。

2014-02-17 17:51:50
笠井潔 @kiyoshikasai

たとえば特攻隊の讃美にも見られるように。

2014-02-17 17:52:36
笠井潔 @kiyoshikasai

20世紀後半の世界戦争は、米ソ冷戦という形態で継続された。ソ連崩壊とイスラム革命勢力の9・11アタックのあと、21世紀的な世界内戦の時代が到来する。戦後日本という半国家は、アメリカに従属することで20世紀後半を無難に生き延び、「平和と繁栄」を謳歌さえしてきた。

2014-02-17 18:00:48
笠井潔 @kiyoshikasai

世界内戦の21世紀に、半国家日本がそのまま存続しうる条件は失われた。東アジアの政治情勢としては、アメリカの後退と中国の膨張が決定的だ。国家再編(戦後レジームからの転換)の必然性は、安倍の妄想の産物ではない。仮に安倍が失敗しても、第二、第三の安倍が登場するだろう根拠がここにある。

2014-02-17 18:06:26
笠井潔 @kiyoshikasai

新自由主義政権の暴力的な社会再編に対し、第二次大戦後の豊かな社会の復活を夢想しても無力だ。それは特権的労働者階級による自己保身と、非正規不安定労働者など弱者の切り捨てに帰結する。20世紀的な福祉国家でも、21世紀的な新自由主義国家でもない道を探求するしかない。

2014-02-17 18:13:10
笠井潔 @kiyoshikasai

同様に、戦前の帝国主義的ナショナリズムを引き継いだ世界内戦国家に、護憲平和主義で対抗することはできない。スペイン人民戦線で共産党は、反ファシズムを口実にリベラル派と妥協し、農村アナキストが自然発生的に開始した土地革命を弾圧した。この辺の事情は映画「大地と自由」でも描かれている。

2014-02-17 18:21:55
笠井潔 @kiyoshikasai

失われた20年を通じて進行した、戦後社会の経済的空洞化と内的崩壊は、「このままでは生きていけない」社会層を分厚く堆積させた。戦後社会の経済的既得権益層は、「このまま」が続くことを熱望しているとしても。また国家の側もまた、「このままでは秩序と支配が維持できない」と考えはじめた。

2014-02-17 18:44:59
笠井潔 @kiyoshikasai

「このままでは生きていけない」層から、戦後社会を構成した既成勢力とは異質な政治勢力が登場しつつある。その一部が、支配層による国家再編に希望を託す新排外主義だ。新排外主義と街頭で闘う人々もまた、一人一人が非正規労働者であるかどうかはともかく、同じ層に属しているはずだ。

2014-02-17 18:51:10
笠井潔 @kiyoshikasai

ファシズム革命を弾圧して、既成国家がなし崩し的にファシズム化するという戦前日本の事態は、またしても繰り返されようとしている。田母上支持層は自前のファシズム革命など望んでいない、自民党政権による国家再編の後押し部隊、補完物として機能するだろう。では、反排外主義の新興勢力はどうか。

2014-02-17 18:58:29
WKT @msadralapse

笠井さんは昔の教科書に書いてあることしか言ってない。

2014-02-14 19:14:02
WKT @msadralapse

理論は街の群衆のほうにある。

2014-02-14 19:15:03
笠井潔 @kiyoshikasai

リツイートしたWKT氏の発言は妥当である。ここまで書いてきたことも、しょせんは「ミネルヴァの梟」にすぎない。ヘーゲルによれば哲学は灰色で、現実こそが生い茂る緑の樹木なのだ。この先は、街頭の理論に耳を傾けることにしよう。

2014-02-17 19:08:53
笠井潔 @kiyoshikasai

出かけるまでに、なんとか終わらせることができた。これでファシズムをめぐる連続ツイートは打ち止めにしたい。

2014-02-17 19:09:51

2月20日のツイート

笠井潔 @kiyoshikasai

外出中に考えた「ファシズム」連ツイの補足を、以下何点か。

2014-02-20 15:36:06
前へ 1 ・・ 4 5 次へ