笠井潔氏が語るファシズムと安倍政権 ― 都知事選の結果を受けて

63
前へ 1 ・・ 3 4 6 次へ
笠井潔 @kiyoshikasai

安倍がやろうとしているのは、いや、すでに日本版NSCの設置や秘密保護法の強行としてやりはじめているのは、受任法という敷居さえ無視した例外状態の人為的な創出、憲法秩序の無効化、ようするにナチス以上にナチス的な国家再編といえる。ただし安倍は、これに半ば以上も無自覚的なようだが。

2014-02-16 18:29:54
笠井潔 @kiyoshikasai

大統領の独裁という抜け道を通って、ナチスはワイマール憲法の欄外に滑り出て、永続する例外状態という恰好のテリトリーを獲得した。この法的アクロバットを可能にしたのは、ナチスを支持した選挙民(周知のように国民の過半数をはるかに下回る)だけではない。

2014-02-16 18:54:12
笠井潔 @kiyoshikasai

ワイマール体制の破壊を望んでいた軍部と財界の支持に加え、社会民主党や共産党などの反対勢力を一方的に殲滅しうる党の暴力装置(突撃隊)を備えていたことも大きい。しかし安倍晋三の場合はどうだろう。安倍の強気を支えているのは、内閣の高支持率のみである。

2014-02-16 19:02:05
笠井潔 @kiyoshikasai

しかも高い内閣支持率を支えているのは、もっぱら経済政策への期待で、戦後レジームからの脱却や自民党タカ派のイデオロギーではない。アベノミックスが沈むと同時に、第二次安倍政権も沈むに違いない。政官財に根を張った対米従属派は、安部の足を引っぱる機会が来るのを待ちかまえている。

2014-02-16 19:19:57
笠井潔 @kiyoshikasai

安倍が戦後国家の大再編をなし遂げるには、アベノミックスに期待する世論以上に強力な援軍が必要だ。そして、それが存在しないともいえないのである。もしも尖閣軍事衝突が第二次(日清戦争を算えれば第三次)日中戦争に拡大すれば、世論は一気に好戦的になるだろう。

2014-02-16 19:25:17
笠井潔 @kiyoshikasai

排外主義の大波を背景に、国家存亡の秋を口実として超法規的措置が乱発され、戦争のできる国家が瞬時にできあがる。それでも存在する少数の反戦派は、秘密保護法によって「テロリスト」として弾圧される。無知で、なにも考えていないように見える安倍晋三でも、この幸運を逃がすとは思えない。

2014-02-16 19:32:00
笠井潔 @kiyoshikasai

幾つかの重大な偶然が重ならなければ、安倍による国家再編が成功する可能性は、さほど高くない。とはいえ、それで安心しているわけにはいかない。仮に安倍が失敗しても(成功する可能性も無視できない)、さらに自覚的で狡猾な安倍の継承者が登場するだろうからだ。

2014-02-16 19:38:08
笠井潔 @kiyoshikasai

21世紀のグローバリズムと世界内戦の深化は、それに適応した新型国家を要求している。20世紀のファシズムとボリシェヴィズムが世界戦争を遂行する国家、世界戦争国家だったとすれば、世界戦争の敗北形態である日本戦後国家の廃墟に誕生するのは、世界内戦国家だろう。

2014-02-16 19:40:54
笠井潔 @kiyoshikasai

戦後左翼による「狼が来る!」式の大衆動員は、とっくに耐用年限が切れている。と書いたら、安倍ファシズムとして、とうとう本当に「狼は来た」のだという反論が寄せられた。戦後民主主義国家の破壊が現実問題になっている事実を、もちろん否定するつもりはない。

2014-02-16 19:46:08
笠井潔 @kiyoshikasai

とはいえ、「来た」のは本当に狼(ファシズム)なのだろうか。かつての狼を思わせるが、狼よりもさらに悪質で手強い敵なのではないか。とはいえ、ライオンや虎というわけではない。イメージ的には、狂犬病に感染した狼というところだろうか。

2014-02-16 19:48:40
笠井潔 @kiyoshikasai

戦後左翼が想定した「狼」は、自民党右派のイデオロギー攻勢と政治攻勢だった。自民党右派の基礎を据えた岸信介がA級戦犯容疑で、巣鴨プリズンに長期拘留されていたように、この勢力は戦前日本、とりわけ戦時天皇制国家(昭和新体制)を肯定し、その復活をもくろむものとして警戒された。

2014-02-16 19:53:35
笠井潔 @kiyoshikasai

しかし、今回「来た」のは、自民党右派に主導された旧来の反動攻勢(狼)ではない。では、なにが「来た」のか。その正体を明らかにするためには、自民党右派的なものと安倍路線と、ネットから路上に溢れだし、都知事選では田母上支持層として形をなした新排外主義について問わなければならない。

2014-02-16 20:00:14
笠井潔 @kiyoshikasai

というわけで、今夜は終わりにする。続きはまた、時間があるときに。

2014-02-16 20:00:58

2月17日のツイート

笠井潔 @kiyoshikasai

しばらく出かけるので、3日前からの「ファシズム」ツイートを終わらせてしまおう。

2014-02-17 15:20:46
笠井潔 @kiyoshikasai

1930年代の昭和維新運動は、同時代ヨーロッパのファシズム運動と、革命と社会主義に混在したナショナリズムと保守主義という点でよく似ている。ファシズムが大衆集会や武装デモから蜂起にいたる社会主義運動的な戦術を駆使したのに対し、日本ではテロとクーデタがそれらを代行した点は異なるが。

2014-02-17 15:28:32
笠井潔 @kiyoshikasai

この点は、軍事クーデタ(と内戦)で独裁権力を樹立したスペインのファランヘ党のパターンと似ている。ただし、フランコ政権に社会主義的要素は希薄だが。昭和維新運動をイタリアとスペインの中間に置いてみれば、これを30年代の広義ファシズムの一翼と位置づけても、さほどの不自然感はない。

2014-02-17 15:34:57
笠井潔 @kiyoshikasai

また日中戦争下に確立された昭和新体制は、国民社会主義を唱えたファシズム国家に似ている。新体制の参照例はソ連とドイツだったのだから、それも当然だろうが。民間右翼と皇道派が「革命」の極を体現したとすれば、統制派と革新官僚は「社会主義」の極を体現したともいえる。

2014-02-17 15:39:35
笠井潔 @kiyoshikasai

岸内閣は1950年代後半に、国民皆保険・皆年金制度をはじめとして、1980年代に完成をみる日本型福祉国家の基礎を整備した。昭和新体制の国民社会主義的要素は、第二次大戦後にも総力戦体制を「平和」的形態で温存しながら、福祉や再分配という点でも戦後に持ち越されたのである。

2014-02-17 15:45:56
笠井潔 @kiyoshikasai

タリアやドイツのファシズム運動/国家と日本のそれとの決定的な相違点は、昭和維新運動を潰して既成国家(明治憲法体制)がファシズム化した点にある。昭和新体制には保守主義とナショナリズムと社会主義的要素はあっても、革命だけが存在しない。

2014-02-17 15:50:45
笠井潔 @kiyoshikasai

革命的な切断を回避した昭和新体制は、ファシズム国家というには不徹底で微温的だった。丸山眞男のような近代化主義者は、その根拠を日本社会の後進性に見るわけだが、間違いだ。それよりも、日本が第一次大戦を正面から通過していない事実のほうが大きい。

2014-02-17 15:55:46
笠井潔 @kiyoshikasai

ボリシェヴィズムもファシズムも、世界戦争の衝撃から生じたところの、異様に苛酷で残忍な20世紀思想/運動/国家だ。第三の20世紀国家=世界戦争国家がニューディール以降のアメリカで、ソ連と組んだアメリカがファシズム陣営を打倒したのが第二次大戦ということになる。

2014-02-17 15:59:57
笠井潔 @kiyoshikasai

第一次大戦を未通過という日本の固有条件が、革命と社会主義の分裂および両者の不徹底性という、「日本ファシズム」の特殊性に帰結した。この特殊性を決定的と見なせば、昭和維新体制はファシズムでは「ない」ことになるし、それを部分的と見れば、日本ファシズムは「存在した」という結論になる。

2014-02-17 16:05:33
笠井潔 @kiyoshikasai

以上のような事情さえ正確に押さえておけば、日本ファシズムの有無をめぐる神学論争に、これ以上立ち入る必要はない。

2014-02-17 16:08:27
笠井潔 @kiyoshikasai

命と社会主義の面で日本の特殊性が無視できないように、保守主義とナショナリズムの面にも同様のことがいえる。昭和新体制に親和的な革新右翼に対し、観念右翼と呼ばれる勢力が存在した。平田国学や水戸学の流れを汲む尊王攘夷派は、明治政府の開国・近代化路線によって裏切られる。

2014-02-17 16:17:09
前へ 1 ・・ 3 4 6 次へ