ほしおさなえさんの140字小説26

ほしおさなえさん(@hoshio_s)の140字小説26 その260~その269です。ほしおさんの音読も聴けます(その266とその268)。番外編で、オリオン座のお話も。 (まとめ21)http://togetter.com/li/620667 (まとめ22)http://togetter.com/li/620692 続きを読む
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ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その260。

2014-02-12 21:33:54
ほしおさなえ @hoshio_s

若いころは好きな人とずっといっしょにいたかった。同じ思いでいることを望んだ。さびしさですべてを壊してしまったこともあった。いま僕は君を想う。でもいっしょにいなくていい。花を眺めるように鳥の声を聴くように、君の姿を思い描くだけでいい。かけがえのない君が世界のどこかにいるだけでいい。

2014-02-12 21:34:44
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その261。

2014-02-13 20:37:30
ほしおさなえ @hoshio_s

冬の風に吹かれ、ノートのページがめくれていく。よぎっていく、失った愛とか、理由も告げず去っていった友とか。後悔が胸を突き、消えることはないのだと知る。それでも風の向こうには空が広がる。世界にバランスなどない。こうして薄汚れたまま、斜めになったまま、ぱたぱた揺れる洗濯物を見ている。

2014-02-13 20:39:56
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その262。

2014-02-14 22:02:58
ほしおさなえ @hoshio_s

雪が降って、外は真っ白で、ひとりでストーブにあたっていると、なつかしい人がぽつりぽつりと集まって来る。みんな若くて、おばあちゃんも腰がぴんと伸びて、クマやらウサギやらまで集まって、にぎやかに笑ったり踊ったりしている。ぽかぽかと。小さなぼんぼりのような雪が音もなく落ちてくるなかで。

2014-02-14 22:03:32
ほしおさなえ @hoshio_s

おしまい。皆さま、よいバレンタインデーを!

2014-02-14 22:03:58
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その263。

2014-02-16 19:35:46
ほしおさなえ @hoshio_s

熱が出て、眠っている子のそばにいる。身体の熱さが伝わって来て、子どもが赤ん坊だったときのことを思い出す。熱を出すと身体の奥がざわざわした。子どもとわたしは心も身体も別々なのに、いのちだけはつながっている。細い細いなにかで。今も。赤くなった頬を撫で、ただ、早くよくなれと祈っている。

2014-02-16 19:37:10
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その264。

2014-02-18 21:00:44
ほしおさなえ @hoshio_s

坂の上に立って、今もどこかにいるであろうあなたと過ごした日々のことをなんとはなしに思い出し、僕たちはきっとゆるやかに死に向かっているのだろうけど、その坂を行くあいだ、かなわなかった夢が残り香のように、ひとつまたひとつ身体から飛び立っていくのだろうと、日を浴びて、ただ風に吹かれて。

2014-02-18 21:01:10
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その265。

2014-02-24 09:33:09
ほしおさなえ @hoshio_s

秋になると小箱を持って裏山でどんぐりを集めた。そんなに集めてどうするか考えもせずただ楽しくて拾い続けた。成長し、世界はとても大きくて思い通りにならないと知った。大事なものもいくつもなくした。でも、今もどこかにどんぐりいっぱいの箱がある。だから歩いて行ける。ひとりでも歩いて行ける。

2014-02-24 09:33:38
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その266。

2014-02-24 21:13:52
ほしおさなえ @hoshio_s

すべての大人は子どもだった(そのことを覚えている大人はほとんどいない)、とその本に書いてあった。けどね、その前、僕たちは無だったんだ。そのことを覚えている人はどこにもいない。空に星が見える。無だったんだ、僕たちは。だれにともなく呟く。今ここにある身体で、ぽつんと宇宙を漂うように。

2014-02-24 21:15:42
ほしおさなえ @hoshio_s

おしまい。その本とはもちろん「星の王子さま」です。

2014-02-24 21:17:38
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その267。

2014-02-25 20:26:53
ほしおさなえ @hoshio_s

まあるい下腹を両手で撫でて、自分の身体がガラス壜のようだと思う。なかには透き通った水がはいっていて、ときおり泡立ったり光ったりしながら揺れている。壜を窓辺に置き、陽に透かす。くるくる回す。きらきら光る。線のように細い月がにじみ、溶ける。悲しみと幸せは同じものかもしれない、と思う。

2014-02-25 20:28:18
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その268。

2014-02-26 11:01:42
ほしおさなえ @hoshio_s

熱が出て眠っていた。海の底にいた。雪のようなものが降ってる。マリンスノー。あれは死骸だ。なにかとなにかが戦って死骸になって降ってくる。ここはわたしの身体の中なのだ。外から来たものと中にいるものが戦っている。きれいだった。目が覚めると朝だった。身体からさあっと砂がこぼれた気がした。

2014-02-26 11:02:29
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その269。

2014-02-27 17:58:33
ほしおさなえ @hoshio_s

バスの中で小学生のころを思い出す。ひとりで乗るのははじめてで、バスがなかなか来ない停留所も汚れた灰皿も怖くて、バスなんか嫌いで息詰まりそうだったけど、ちゃんと行けるかわからない感じがたまらなくぞくぞくした。あのころは見通せなかった未来。今はそれも過去になって、窓の外に街が流れて。

2014-02-27 17:59:04

音読企画。

「その266」と「その268」の音読です。他にも!

ほしおさなえ @hoshio_s

266をアップしてみた。これでいいのかな? http://t.co/jCCxuCPSlm

2014-02-26 11:25:29