【読書する黒子の】「お湯かけ論争」とは【簡単解説】

谷崎潤一郎の『春琴抄』における「お湯かけ論争」について簡単に(?)解説しました。
7
藍川刀貴子@消滅予定 @tokiko_ai

盲目のお嬢様を幼馴染としてずっと世話していて「お前は下僕」と言われながらも「僕は下僕です」と頷いて、自分との間に生まれたであろう子供をお嬢様に産み捨てられた後も、そばにいたいとずっと傍にいた。顔に火傷をされたお嬢様が生まれて初めて「お前にだけはこんな醜い顔を見られたくない」と 続

2014-03-05 20:54:11
藍川刀貴子@消滅予定 @tokiko_ai

続 弱音を吐いた時にはその場で目をついて「大丈夫です、僕の目ももう見えません」と、盲目になった後にも盲目のお嬢様を世話し続け、看取って、共に生きた話が、谷崎潤一郎の『春琴抄』です。

2014-03-05 20:55:38
読書する黒子さん @kuroko_1011

春琴抄と言えば、お湯かけ論争ですが……ちょっと話しましょうか。

2014-03-05 20:57:25
読書する黒子さん @kuroko_1011

論文まとめ持ってきました。では『春琴抄』のお湯かけ論争について、簡単に。

2014-03-05 21:01:38
読書する黒子さん @kuroko_1011

先のRTにあったのが谷崎潤一郎の『春琴抄』のストーリーです。この話のハイライトであるところは、顔に怪我をした春琴のために、佐助という付き人が目をつぶしてしまうところですが、その怪我は「寝ているときに顔に熱湯をかけられた」ことにあります。ここで問題となるのが「誰がやったか」です。

2014-03-05 21:04:34
読書する黒子さん @kuroko_1011

これについて、本文中では犯人として「利太郎」という男性を一名暗示します。彼は春琴にいいより、ふられるというだけの役回りですが、佐助による日記から起筆されたという形式の『春琴抄』において、家族外の名前は珍しく、長らく利太郎が犯人という説が濃厚でした。

2014-03-05 21:07:40
読書する黒子さん @kuroko_1011

その後、出てきたのが「佐助犯人説」。つまり、付き人の佐助が春琴に怪我をさせたというものです。それにより老いてゆく春琴をみることなく、またその後の自傷による完全に春琴の精神の拠り所となることができる、実にエゴに満ちた行為であり、それこそが谷崎らしさであるというものです。

2014-03-05 21:09:27
読書する黒子さん @kuroko_1011

そして、同時期に対抗として出てきたのが「春琴犯人説」。春琴による自称行為であった、というものです。これは佐助を引き留めたい一心であったと言われますが、盲目の春琴が自分で自分の布団までお湯を持っていき、自分の顔にかけるということが非常に困難な為、少々弱い説です。

2014-03-05 21:11:22
読書する黒子さん @kuroko_1011

「佐助犯人説」と「春琴犯人説」はどちらにせよ魅力的な説であり、どちらも採用したい、という結果生まれたのが「黙契説」です。これは佐助が実行犯、春琴が黒幕、というものです。要するに共犯ということです。しかし黙契とは、二人は言葉なしに共犯を行い、かつ庇い合ったという意味です。

2014-03-05 21:14:27
読書する黒子さん @kuroko_1011

そして湯をかけた犯人は「利太郎説」「春琴説」「佐助説」「黙契説」が入り乱れ、それらは「お湯かけ論争」と言われることになります。今現在、谷崎潤一郎の『春琴抄』を研究するには、この論争でどの立場をとるのかも重要視されています。

2014-03-05 21:16:53
読書する黒子さん @kuroko_1011

そしてお湯かけ論争にここ十年で加わったのが「犯人不在説」と「犯人無効説」です。これは両方、同じ意味にとれますが、全く違うものです。

2014-03-05 21:18:07
読書する黒子さん @kuroko_1011

この2つは芥川龍之介『藪の中』論争から持ってこられたものです。『藪の中』は殺人ですが。ちなみに現在は「犯人不在説」が主流です。

2014-03-05 21:20:32
読書する黒子さん @kuroko_1011

「犯人不在説」とは、「そもそも作品中に誰って名指ししてない、だから誰と読者が言い切ることはできない」というものです。ぶっちゃけすぎて身も蓋もないですが「そうですよね」としかいいようがない結論です。国語のテストなどで言われませんでしたか? 「書いてないものは答えにならない」と。

2014-03-05 21:21:27
読書する黒子さん @kuroko_1011

対して「犯人無効説」というのはこれをもう少し文学的に表したものとなります。つまり「犯人を特定できないからこそ、この作品は完結しているのだ」というものです。ざっくばらんに言えば「誰か分からないからいいんだろう」という意味あいでしょうか。

2014-03-05 21:23:12
読書する黒子さん @kuroko_1011

以前話した中(【分かりにくい】「小説」と「物語」の違い【分類】 - Togetterまとめ http://t.co/raW2oT1OzQ)で「物語の何かを意図的に叙述で隠している」という要素があります。それと関係しています。『春琴抄』の秘密はこの犯人、と言えるかもしれません。

2014-03-05 21:25:38
読書する黒子さん @kuroko_1011

最終的に僕個人の結論ですが、僕は「犯人無効説」の立場におり、でも犯人が誰かということを思考停止してしまっては、作品のキモを潰すことになりますから、決して結論は出さず、いろいろな位置から見ていくことが大事かと思います。

2014-03-05 21:28:03
読書する黒子さん @kuroko_1011

『春琴抄』は佐助の手記を書き起こすという作品構成です。それ故、春琴と佐助の関係性が美化されすぎているという指摘もありますが、それほどに佐助にとって春琴は絶対的なものであったという描写ともとれます。春琴のプライドたる美貌が瓦解した時、目を潰してそれを護った佐助の献身は事実です。

2014-03-05 21:30:01
読書する黒子さん @kuroko_1011

事実、というのはちょっと違いますね。「作品中で他の人物からも保障されているコト」です。春琴と佐助に関わらず、誰かの誇りがどこにあるか、を理解すること、それを最大限尊重し、究極には自分を投げ打ち守ること、それはその誰かへの愛の絶対性の確立ともいえることですね。

2014-03-05 21:31:55
読書する黒子さん @kuroko_1011

大事な人の誇りを護り、それに献身し殉じるということは、どれほど難しいか。貴方は自分の大事な人の「最後のプライド」は何か、理解していると言えますか? それを理解して、守ることはできますか? と、『春琴抄』を読むたびに突き付けられている気がします。

2014-03-05 21:33:38
読書する黒子さん @kuroko_1011

作品に関わらず、研究対象物を批判することは何よりも学問・研究の第一歩ではありますが、その過程の中でそれについての「愛」などを失ってしまっては、見えないものもあるかと思います。嫌いなものを批判するためだけに、学問研究はあるわけではありません。

2014-03-05 21:35:38
読書する黒子さん @kuroko_1011

勿論、愛は盲目とも言います。愛しかなければ見えなくなるものもあります。愛があるから見えないものもあります。その人の心の支えを的確に摘み取るということは、そういった優しさも厳しさの両面が必要ですね。なんて、赤司君を見ていて思ったりもしました。

2014-03-05 21:37:39
読書する黒子さん @kuroko_1011

と、いうわけで、谷崎潤一郎の『春琴抄』の「お湯かけ論争」の紹介でした。文体は古文調で句読点も読みづらいかもしれませんが、一度入り込んでしまえばリズミカルでテンポの速い話に引き込まれます。文庫本も薄くて安く、お手軽です。貴方も読んでみませんか?

2014-03-05 21:39:59
読書する黒子さん @kuroko_1011

なんか他に紹介してほしいのがあったら……言ってくださいね……(息切れ)後日やります。

2014-03-05 21:43:12