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umi_tisn_kanri
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「《包は掌に、掌は箱に》」 歌うように、紡がれる言葉。それが響く中で、壊尽の手は包を覆い隠す箱へと変わる。何処にも隙間の無い完全に密閉された箱。腕についた状態のそれを持ち上げ、空いている手でそっと撫でた。 「潰さず、割らず。ただ、風化し、砂に」 壊せ、形の残らぬように。
2014-03-03 03:46:53![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
壊尽の瞳は絶えず色を変え、ふわりと揺れる髪は透き通るように金が薄まっていく。 「いつからだっけ、この《呪い》」 触れたものが風化する、それは壊尽の身を侵す《呪い》だった。無節操に風化させるそれは、壊尽から人を遠ざけた。ある程度制御出来るようになった今も、彼の傍に近づく人はいない。
2014-03-03 03:55:50![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
——海賊たちを除いては。 だから壊尽は彼女らが好きだし、生来の破壊衝動が彼女らに向かぬように意識し心掛けていた。そうでなければ、壊してしまうだろうから。 「ふふっ、信徒の皆様は壊してもいいよねぇ」 呟きと共に、解けるように箱が崩れ、手の形に戻る。零れ落ちるのは砂と錆びた鉄の破片。
2014-03-03 03:55:53![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
大人しく外へ向かう『壊尽』をやや安堵を浮かべた視線とともに見送り、 「こういうところばかりは気が合いますね。こうだからこそ気楽でいられる」 荷をあらためる『無学』の横を通り過ぎて二羽の鳥が佇む船長室の机、そして椅子へ近付く。 「借りますよ」 返答を待たずに椅子へ身を沈める。
2014-03-03 09:24:33![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
『壊尽』より強い者を見たことが無い。『偽計』より意地の悪いヤツも見ない。他の加護だって、来てないが皆それぞれ突出しているのだ 「『偽計』と『壊尽』にも言っておくけど、信徒の『加護』とやりあって、オレは軽傷を負った 凄く痛いし、もう少しながく殺りあってたらどういう結果か判らない
2014-03-03 14:51:29![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「だから、なんだ。命あっての何とやらで、ええと、なんか格言っていうのは忘れやすいから……オレから言うことは一つだ。めっちゃ暴れてこいよ、オレら悪党に逆らったことを、生まれたことを、真面目に生きてることを後悔させてやれ」 軽く短パンをずり上げて包帯巻きを見せる。
2014-03-03 14:51:37![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「まあ、打ちどころが悪いだけで完ペキ軽傷だからこれ!」 実際痛いけど多分致命傷ではない。医学の知識は皆無だが、多分、大丈夫だ。 「こっちも一撃お見舞いできたからゴカクだ、侮るのは駄目って言いたかったんだぜ」
2014-03-03 14:51:41![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
椅子ごと身体の向きを変える。その先は戻ってくる『壊尽』そして『無学』へ向き、その肌を覆う白い布を目が捉える。 「流石はあちらも、『信徒』とはいえ加護の持ち主というわけですか。何よりの証拠が掴めました」
2014-03-03 17:14:32![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
『無学』は利己的だ。並ぶものもないほどに。だからこそ退き際を見極め、自分が損害を受けることを徹底的に避ける。彼女にそれをさせないほどの相手だというのが、『信徒』たちの力の証。
2014-03-03 17:20:07![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「無論、あなたに言われずともそのつもりでいます。後悔の後に命を頂くか、『真面目に生きる』その道を断つかは考えあぐねていたところですが……お任せ頂いても構いませんね?」 どちらも一筋縄では行かないでしょうけれど、と嘯きながら、その方法を真剣に考え込んでいる。
2014-03-03 17:20:22![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
船長室に戻ってすぐに聞かされた言葉。『無学』の歯切れがいいとは言えない言葉、『偽計』の落ち着いた声を聞き、愛しげに目を細め。 「あはは、俺を何だと思ってるの。『壊尽』だよ? 『壊し尽くす』ための『道具』さ、この身は。『壊し尽くす』以外、能がないからね。役目は果たすよ、楽しくね」
2014-03-03 17:59:58![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
ふふっ、と笑みを深め、『無学』に応える。そうして、露わになった、包帯が巻かれた腿に目を止め、不満げに顔を歪めた。 「あのさぁ、あんまりさ、俺以外の奴に壊されて帰って来るの止めてくれる?」 かつり、と靴を鳴らして、『無学』に近づき、その腿に顔を寄せる。微かに残る血の匂い。
2014-03-03 18:00:02![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
壊すことしか出来ないから手当などの知識はない。だから、その怪我をただ見つめ。 「俺さ、お前ら壊したいの我慢してるんだよ」 吐き出す言葉は淡々と響く。自身の持つ破壊衝動は無差別だ。抱いた感情全てが破壊衝動に帰結する。例外はない。 「絶対壊されんなよ、なんてことは言わないよ」
2014-03-03 18:00:07![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
そんな易しい相手で無いことは、『無学』の怪我からも見て取れる。 「でも俺以外の奴に壊されて、壊し尽くされたりしたら——」 暴走するかも、とは言わず、ただ目を緩ませ、首を傾ける。そのまま、『偽計』の方へ振り返ると、 「勿論、『偽計』お前もだから」 分かってるだろうけど、と続けた。
2014-03-03 18:00:12![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
仮にも『信徒』としての選定を受けた者達だ。その信心がいかに固いものかは想像して余りある。だが同時に、なればこそそれを物理的にも精神的にも突き崩すことには意義があり、それ以上に『偽計』として喜びを覚える。そのためには。
2014-03-03 18:47:04![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
考える間に伏せていた目を、向けられる『壊尽』の視線に応えるように開けた。 「おお、怖い怖い。しかしそうした愛され方も、なかなかどうして悪くはありませんね」 肩をすくめて小首を傾げる彼を見やる。言わないままに飲み込まれたその言葉の続きを、さも了解しているとばかり頷いて。
2014-03-03 18:48:01![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「みすみすあちらに壊される気もありませんよ、あれの手に掛かるのならば海に身を任せた方がよほどマシだ」 その顔に滲むのはあからさまな嫌悪の表情。
2014-03-03 18:48:10![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「誰が壊されるな、だ。つーか壊れてないし ちょっとドジしただけだバカ。お前みたいな壊し屋と一緒にすんなよ」 どの辺が一緒にされたくないのかはイマイチ解らないにしろ。 「テメェも壊れんじゃねェぞ、流石に”『壊尽』が壊され尽しました”なんて"吉報"を聞かされてみろ、笑い死ぬわィ」
2014-03-03 20:36:30![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
偽計の言葉や表情を見て首を傾げる。 「『偽計』って昔で云うインテリヤクザみたいなもんなのかな。頭良いなら信徒でもエリートコース一直線行けそうなんだけど……オレは天才だけに勉強しないからなあ」 と大ぼら込みでごちる。ぎりぎり聞こえない音量にしたつもりではあった。
2014-03-03 20:39:56![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
『偽計』の嫌悪の表情と言葉に満足げに微笑み、『無学』の言葉に更に笑みを深めた。 「ふふっ、悪くないでしょ? って、あっはははは。なにそれ、『無学』、面白いね。くくくくっ、俺が『壊し尽くされる』? ふふふふっ、安心しなよ」 腹を抱えて笑う、薄っすら涙まで浮かんでいた。
2014-03-03 21:20:20![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「俺を壊せる奴がもし、信徒に居たらそいつも壊されてるだろうし、つーか、俺以上に『壊し尽くす』ことに長けた奴なんているわけないじゃん。いたら、そいつの方が『壊尽』じゃん」 げらげらと笑うその顔は、笑みを象っているだけで、双眸は凍てついていた。 「——そんなの、壊すしかないよねぇ」
2014-03-03 21:20:30![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
弧を描いた唇が紡ぐ言葉は何処までも冷たく、鋭く、殺気のようなものを孕んでいた。 「ま、それはそれで楽しいだろうけどね?」 瞬きひとつ。一瞬にして、『壊尽』の雰囲気はいつものそれに戻る。 そっと聞こえてきた『無学』のぼやきに、ふふっ、と笑いを零した。 「インテリヤクザねぇ」
2014-03-03 21:20:35![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
双眸は、『偽計』に向いて。 「言われてみれば、確かになあ。ふふっ、インテリヤクザみたいだって、『偽計』」 告げ口するように、愉しげな声を張り上げた。
2014-03-03 21:20:39![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
『無学』の言葉に、いささか意外そうに目を瞬かせる。次いで『壊尽』の凍れる瞳へ、常人ならば怖気で済まぬ感情を覚えるであろうそれに、難なく目を合わせ直視する。
2014-03-03 22:26:09