防衛日記まとめ

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シダケイジ🏢・😺⚓️ @shi_dakg

——覚えている。あの作戦の時も彼が指揮を執っていた。酷い、雨の酷い日だった。 #防衛日記

2014-03-31 18:00:58
シダケイジ🏢・😺⚓️ @shi_dakg

——覚えている。あの作戦は、失敗するように決められていた。必死で逃げて他の隊に保護されるまで草と虫と泥で生き延びた。 非常時に食うものが無ければそうして生きろと教えてくれたのも、この人だった。 #防衛日記

2014-03-31 18:01:43
シダケイジ🏢・😺⚓️ @shi_dakg

——覚えている。あの作戦で隊員が軒並み死んで、最後の最後に生き残った自分達に、逃げなさいと言い残した。一発あれば上等だ、と弾も何も自分達に全て持たせて。 #防衛日記

2014-03-31 18:02:59
シダケイジ🏢・😺⚓️ @shi_dakg

——覚えている、思い出せる。 制帽の下に隠されたのは熟れ過ぎた果実のような弾痕だ。 こめかみから上、弾痕に重なるようにこびりついたものが夕日に照らされる。 #防衛日記

2014-03-31 18:05:22
シダケイジ🏢・😺⚓️ @shi_dakg

そうだ——この人は、隊長はあの時自決したはずだ。 「——……」 落ちた制帽を拾い上げると、隊長はゆらりと立ち上がり軍人と対峙する。 隊長のこめかみから上には、出来たばかりのかさぶたのように赤黒い皮膚がフジツボに良く似た形をして居座っていた。 #防衛日記

2014-03-31 18:09:10
シダケイジ🏢・😺⚓️ @shi_dakg

その有様を見て軍人が舌打ちをする。 「○○、無様に転がっているくらいならさっさと下がりなさい。他の隊員を皆船に退避させろ」 ですが—— 「役立たずは死なないのが仕事だと教えたはずだ!」 軍人は一喝すると再び隊長に斬りかかる。 #防衛日記

2014-03-31 18:19:25
シダケイジ🏢・😺⚓️ @shi_dakg

袈裟懸けに両断する勢いの一撃を、しかし隊長は微動だにせず受け止める。 噴き出る血もなく、その肉こそが装甲とでも言うように。 「…糞が…!」 軍人の吐き捨てるような言葉の後、隊長がその腕を振るった。 ただのそれだけで軍人は弾き飛ばされ、自分よりも後方へ転がされる。 #防衛日記

2014-03-31 18:21:38
シダケイジ🏢・😺⚓️ @shi_dakg

座り込んだまま動けないでいると、隊長がこちらへ近付いて来る。 その腹には軍刀が留まったままで、かろうじてヒビを入れている程度でしかない。 隊長が歩みを進める度にこぼれ落ちるのは赤い血ではなく、燃料油のような、どす黒くねばついた臓物とも液体ともつかない中身だけだった。 #防衛日記

2014-03-31 18:25:48
シダケイジ🏢・😺⚓️ @shi_dakg

後方から軍人の声が飛ぶ。 「馬鹿者、早く——」 逃げろと言うのか、逃げ切れると思うのか。 敵の前から逃げ出した罰がやっと回って来たのに逃げろとは、相変わらず酷なことを言う人だと思った。 「——○○」 隊長の口が乾いた音を立てて開く。こぼれ落ちるのは皮膚だろうか。 #防衛日記

2014-03-31 18:29:32
シダケイジ🏢・😺⚓️ @shi_dakg

思えば死んだのは随分と前のことだ。 ああ、それなのに自分はどうしてこうして彼の部下として戻ってきたのだろう。 「○○」 隊長の手がこちらに差し伸べられる。 「さくせんを」 その声は長い間何も飲んでいないような、砂利めいた不快な音だった。 「さくせんをつづけよう」 #防衛日記

2014-03-31 18:31:54
シダケイジ🏢・😺⚓️ @shi_dakg

あの時の作戦は失敗したでしょう。 「みな、もどってきてくれた」 皆、戻って来たくはなかった。 「だいじょうぶだ」 何がですか。 「こんどはみな、いっしょにゆける」 ——手が、差し伸べられている。 #防衛日記

2014-03-31 18:34:04
シダケイジ🏢・😺⚓️ @shi_dakg

「○○——」 呻くような軍人の声。 ざり、と地面を掻く音がする。どこか負傷したのだろうか。 「お前、ふざけるなよ」 強く咳き込むような音の後、強く地を踏む気配がする。 「それは、敵だ。わかるか、わかるな?」 #防衛日記

2014-03-31 18:38:48
シダケイジ🏢・😺⚓️ @shi_dakg

「○○」 隊長の声が軍人の声を塗り潰すように響く。 「さくせんを」 隊長の手がそこにある。 「また、みなとゆこう」 自分は、その手に己の手を、 #防衛日記

2014-03-31 18:41:36
シダケイジ🏢・😺⚓️ @shi_dakg

声が響いたかと思えば続いて殴りつけるような衝撃が襲い、思わず地べたに転がった。 転がった拍子にずれた眼鏡を慌てて掛け直す。 衝撃の正体を確かめようと顔を上げると、そこにあったのは溶かした苺のように赤い、大きな瞳だった。 #防衛日記 #舞鶴漣日記

2014-03-31 18:47:42
シダケイジ🏢・😺⚓️ @shi_dakg

あ、可愛い。なんだうちの秘書艦かと思って見ていると殴られて眼鏡が飛ぶ。 痛ぇ!なにすんだ漣!!! 「アホですか!!ご主人様アホですか!!」 眼鏡を拾って見ると漣の顔は土埃で黒く汚れ、その髪の生え際は黒く染まっていて、服もいつものセーラー服ではなかった。 #防衛日記 #舞鶴漣日記

2014-03-31 18:55:21
シダケイジ🏢・😺⚓️ @shi_dakg

漣。 「なんですか!もう!」 お前なんか髪黒いけどどうした? 「…あとでぶっとばした後にご説明します!はい起立!」 あっはい。 急かされて立ち上がる。さっきまではちっとも力が入らなかったのに、漣の声で喝が入ったのか嘘のように体が軽い。 #防衛日記 #舞鶴漣日記

2014-03-31 18:59:20
シダケイジ🏢・😺⚓️ @shi_dakg

漣は改めてこちらと隊長の間に立ち塞がると、背を向けてこう言った。 「——ご主人様、ご命令を」 それはいつもの艤装も背負ってはいない、小さな背中だった。 出会ってから何度も助けられ、今もこうして自分を守ってくれる、小さな背中だ。 #防衛日記 #舞鶴漣日記

2014-03-31 19:15:07
シダケイジ🏢・😺⚓️ @shi_dakg

こうして守られるのは初めてではないし、その背中も出撃の度に見ていたはずなのに、どうしてか酷く久々に思える。 「——○○、どうしたんだ、こないのか。さくせんを、つづけないのか」 隊長のがさついた声は喉に何か詰まらせたような湿り気を伴って不快に響く。 #防衛日記 #舞鶴漣日記

2014-03-31 19:24:32
シダケイジ🏢・😺⚓️ @shi_dakg

「…ご主人様」 …考えるのは後で良さそうだ。さっさと終わらせてしまおう。 口の中に残った砂利を吐き捨てて告げる。ただ一言で良い。それだけで彼女達は実行する。 漣。 「はい」 あれが敵だ。斃せ。 「——はい」 #防衛日記 #舞鶴漣日記

2014-03-31 19:27:24
シダケイジ🏢・😺⚓️ @shi_dakg

応答があったと同時、その体は隊長の元へ跳躍する。 瞬きの間にその腹を殴りつけ、剃刀のように蹴り付ける。 「——っくっそぉ!」 どれも軍人の一撃よりはダメージを与えているように思うが、決定打に欠ける。 #防衛日記 #舞鶴漣日記

2014-03-31 19:31:03
シダケイジ🏢・😺⚓️ @shi_dakg

「やはり艤装が無ければ艦娘でもとどめは難しいか…」 軍人がようやく立ち上がり、肩を並べる。腹を抑えて、口元に血を滲ませて酷く苦しそうだ。 …アバラでも折れましたか。 「かなり痛いから一本くらいは折れてるだろうな。まぁこの程度よくあることだ」 #防衛日記 #舞鶴漣日記

2014-03-31 19:34:18
シダケイジ🏢・😺⚓️ @shi_dakg

落ちた制帽の埃をはたいて被り直し、ぐい、と口元を拭うと軍人は笑う。 その目が、こちらを見る。 「お前、いい加減私のことを思い出したか」 #防衛日記 #舞鶴漣日記

2014-03-31 19:34:32
シダケイジ🏢・😺⚓️ @shi_dakg

講習に来ていた軍人で、×○にもお菓子をくれた、違う、この人は。 思い出して、冷や汗が噴き出す。 ——申し訳ありません少将殿、あの。決して悪意があった訳では。 「まぁ、そういうことにしておいてやろう」 #防衛日記 #舞鶴漣日記

2014-03-31 19:36:42
シダケイジ🏢・😺⚓️ @shi_dakg

くくくと笑って少将は、上司はこちらの頭を撫でる。 なんで思い出せなかったのだろう。歳か。 「気にするなよ。それより今は——」 撫でたその手でついと頭を前に向かされて、漣の方を見る。 「あの子が劣勢だ。どうするんだ、○○大佐?」 #防衛日記 #舞鶴漣日記

2014-03-31 19:39:05