モーサイダー!~Motorcycle Diary~One Year Before III~
- IngaSakimori
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「そうでしょうか? すくなくとも、250ccもろくに操れないあなたに負ける大型乗りがいるとは思えませんけれど?」 「ぐっ」 言葉に詰まりつつ、志智は川野駐車場にたむろするモーターサイクルの群れへと視線を泳がせる。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:06:01(さっきのバイクは……い、いないか) ほっと安堵の息をもらしながら、なんてかっこわるいんだ俺は、と志智は思う。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:06:06「……お前、こんなところで何してるんだよ。 また、エンジンだけかけて遊んでるとかじゃないだろうな」 「申し訳ないですけれど、これでもずいぶんと走り回ったあとですわ。 あの辺りにいらっしゃる方々とね……誰も彼もわたくしを満足させてくれませんでしたけれど」 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:06:14「満足?」 亞璃須が指さす方向を眺めると、そこには何とも納得いかない不満顔で、座り込んでいる数人のライダーがいた。 そのライダーたちは全員男であり、若く、そしてなぜか共通してスポーツタイプのマシンに乗っていた。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:06:32「……何やったんだ?」 志智は訊ねる。どうもこの鼻持ちならないゴスロリ女は、あの連中が負けを認めざるを得ないことをやらかしたらしい。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:06:37「些細なことですわ。……男っていうのは単純ですわよね。 わたくしがこうやってツナギを着て……エンジンもかけずにまたがっているだけで、後から後から声をかけてくるんです」 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:06:52「……まあ、そりゃあな」 これだけの容姿ならまともな男は放っておかないだろう。 志智自身もその点には異論がなかった。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:06:56「お前みたいな性格最悪の女、俺はお断りだけどな」 「わたくしもあなたみたいなマシンに乗せてもらってるだけのヘタクソ、全力で軽蔑します」 「……言ってくれるじゃねえか」 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:07:08「売り言葉に買い言葉。需要と供給ですわ」 引きつった表情の志智に対して、亞璃須は不敵な笑みを浮かべる。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:07:16「わたくしも供給を満たしてくれる方がいなくて困っています」 「どういうことだよ」 「ここで声をかけてくる方に言ったんです。あなたがわたくしより速かったら、お付き合いしてあげてもいいですわよ、って」 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:07:39「………………ふぅん」 志智はそのとき、なぜか不愉快なものを感じていた。 亞璃須の物言いではない。 頭の中で浮かんだ━━どこかの誰かに対して、彼女が「付き合ってもいい」と告げている、そんなイメージがなぜか不愉快だったのだ。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:07:43「……走ったのか。そいつらと」 「ええ、もちろん。 ですけれど、皆さん亀よりも遅くって。お話になりませんでした」 「俺はお前なんかどうでもいいし、むしろサイテーな野郎にでも負けて、少しは痛い目みればいいと思っているけど」 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:07:52「……けど? なんです?」 「そう……だよな。 大嫌いな俺に負けたら、お前、悔しくて仕方ないよな」 「ふっふ~ん」 志智としては、最高の嫌がらせを口をしたつもりだった。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:08:04しかし亞璃須は笑う。嘲笑う。少女ゆえに許される、そして若さゆえに湧き出してくる、無限の傲慢さで志智の言葉を笑い飛ばす。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:08:16「あなた、本当はわたくしのことが好きなんじゃありません?」 「自惚れるなよ。あり得ないね、そんなこと。 お前みたいな奴が心底むかつくだけだ」 「それじゃあ質問を変えましょう。 あなた、わたくしに勝てると思ってます? たとえば万に一つでも」 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:08:35「……万に一つ、ね」 亞璃須としては、最高の侮辱をしたつもりだった。 しかし、志智は笑う。嘲笑う。そして、それを経験しているゆえに許される、黒い微笑みで亞璃須の言葉を否定する。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:08:41「お前がさ……どう思ってるか知らないけど。 万に一つなんて、結構起こるんだぜ……たとえば飛行機事故とかな……」 「は? 何を言ってるんです?」 「別に。どうでもいいよ」 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:08:59「じゃあやろうぜ……万に一つでいい。本当に俺が勝ったら、お前、死ぬほど悔しがれよな……」 「………………」 志智の表情に亞璃須は何を感じたのだろうか。まず、首をひねり。そして、迷うようにXR650Rのタンクへ手を置き。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:09:09「訂正します。万に一つじゃなくて億に一つです。 あと、あなたが勝っても別に悔しがってなんてあげません」 「……お前、ほんと最低だよな」 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:09:31「あなたも今、最低の顔してますわよ。 とっても暗い、そのままビルから飛び降りてしまいそうな顔」 「っ……!!」 亞璃須の言葉に志智はびくりと身を震わせた。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:09:52「そんなこと━━あるかよ!!」 「………………」 そう叫ぶ志智の表情は、亞璃須からは泣き出す寸前の子供にも見えた。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:14:37(こんな奴に負けるかよ……) 一メートル、川野駐車場を出る。 志智のスパーダが前。亞璃須のXR650Rが後。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:15:13音圧といえばいいのだろうか。体ごとふるわせるようなビッグシングルの排気音が、志智の後方から響いてくる。 こんなに凄い音がするのだから、きっと速いバイクなのだ━━そんなことを考えそうになる。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:15:20