モーサイダー!~Motorcycle Diary~One Year Before IV~

@mor_cy_darにて投稿している連作バイク小説・モーサイダー!~Motorcycle Diary~One Year Before IV~のまとめです。テキスト版はこちら(http://t.co/S8D2Jfru1a)からどうぞ
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IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「本当はオンロードのレースがしたかったのですけれど、お父様が許してくれませんでしたし、ね」  口元を笑わせながら、スパーダのスロットルを捻りあげる。 #mor_cy_dar

2014-03-30 21:31:21
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 彼女は単にアスファルトの上を駆けるのが好きなのだ。  スピードも好きだった。オフロードに比べて、指数関数的に危険性が増すとわかっていても、三桁の単位で走り、曲がるのはこの上もなく快感だった。 #mor_cy_dar

2014-03-30 21:31:45
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

(ずいぶんいじってるみたいですわね……)  右手。スロットルを捻ると、角度にして70度も動かすことなく硬い感触が伝わってくる。  ここが全開だ。これだけでノーマルのスロットルでないことが分かる。 #mor_cy_dar

2014-03-30 21:31:57
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 ストリートでは必要ないはずのハイスロットル。しかも、本来穏やかな特性を誇り、スロットル操作にはお世辞にも敏感でないはずのVTエンジンが、驚くほどの軽やかな吹け上がりを見せているではないか。 #mor_cy_dar

2014-03-30 21:32:04
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

(エンジンの回転がちゃんとハイスロについてくる……マフラーを変えてあるだけだと思っていましたけれど……ひょっとして、中までいじってある……?)  耳に響いてくる排気音は、しばしば耕耘機と陰口をたたかれるVTのそれとは到底思えない。 #mor_cy_dar

2014-03-30 21:32:21
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

(いいチューンですわ)  だが、全開一歩手前の場所にわずかな谷があることもまた事実だった。恐らくストリート用に装着したサイレンサーが邪魔をしているのだろうと亞璃須は推測する。 #mor_cy_dar

2014-03-30 21:32:33
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「まっ、これだけ消音と性能が両立した排気系なら、誰も文句はつけられないでしょうけれど」  自分のXR650Rが大爆音マシンに思えてくるほどには、彼女が借りたVT250スパーダは静かであり、それでいて明らかにノーマルよりも速い。 #mor_cy_dar

2014-03-30 21:32:44
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

(それにこのサス……)  減速帯の上をフルバンクで駆け抜けても、ほとんどフロントの姿勢が乱れない。  どう考えてもノーマルの足回りで可能な所行ではなかった。亞璃須はトップブリッジにクランプされた、フロントフォークを見つめる。 #mor_cy_dar

2014-03-30 21:32:53
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

(スパーダにプリロード調整なんてついてましたっけ……)  その頂点には、時計回しにねじこむことでスプリングのテンションを調整できる機構が備わっている。 #mor_cy_dar

2014-03-30 21:32:59
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 言うまでもなく、スポーツマシンの装備だった。しかし、VT250スパーダはスポーツバイクである前に、ファンバイクである。どう考えてもVTシリーズにこんな装備がついているとは思えなかった。 #mor_cy_dar

2014-03-30 21:33:07
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「とすると、VFR……CBRかもしれませんけれど、フロントフォークを変えてますわね。  この分だと、リアサスもノーマルではなさそうですわ」  もっとも、リアについては亞璃須の評価は一歩劣っていた。少し荷重が足りていないというか、バネが強すぎるように感じる。 #mor_cy_dar

2014-03-30 21:33:17
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 とはいえ、それは自分自身がライダーとしては規格外の軽量であるからで、サスと車体のマッチングの問題ではないだろうとも見抜いていた。 #mor_cy_dar

2014-03-30 21:33:24
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「タイヤも……ただのツーリングタイヤかと思っていたのに、妙にグリップしますし」  亞璃須はミラーを一瞥して後続車がいないことを確認すると、わざと直線区間の途中で思い切りブレーキレバーを握りしめてみる。 #mor_cy_dar

2014-03-30 21:33:33
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 フロントタイヤがたちまちロック━━しなかった。彼女の握力はただの少女に毛が生えた程度しかない。その入力では、スパーダが履いているフロントタイヤのグリップを超える制動力は生み出せなかったのだ。 #mor_cy_dar

2014-03-30 21:33:41
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

(……XRならちゃんとロックするんですけど)  無意識に最初の一引きを手加減したことは事実である。だが、それにしても彼女の右手ができる最大の仕事率であったはずなのだ。 #mor_cy_dar

2014-03-30 21:33:49
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「何にしても……少しだけ、秘密が解けたような気がしますわね……」  ほんの数km乗ったばかりのスパーダを、ふるさと村の信号で華麗にブレーキターンさせながら、亞璃須は呆れたように呟いた。 #mor_cy_dar

2014-03-30 21:34:04
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

~~~~~~Motorcycle Diary~~~~~~ #mor_cy_dar

2014-03-30 21:34:13
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「いいマシンですわ、今のあなたにはもったいないほどです」  川野駐車場に戻ってきた亞璃須の放った言葉は、それだけだった。 #mor_cy_dar

2014-03-30 21:34:24
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「そうなのか? まあ俺はこれしか乗ったことがないからな」 「……反応次第ではもっと詳しく説明するつもりでしたけど、止めにしておいて正解でしたわ」 「なんだよ。どうせ俺はバイクのことなんてよく分からないよ」 #mor_cy_dar

2014-03-30 21:34:37
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「本当にもったいないですわねえ……志智がもっとうまくなれば、わたくしのXRと同じくらいには速く走れるマシンですのに」 「……なんだよ」  心底、残念そうにため息をつく亞璃須へ、志智はどこか納得のいかない顔で言った。 #mor_cy_dar

2014-03-30 21:34:45
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「それじゃあ何か? 俺の腕次第で、お前にも勝てるっていうことなのか?」 「まあ、そのポテンシャルはあるマシンですわね」 「万に一つどころか、億に一つも勝てないとか言ってなかったか?」 #mor_cy_dar

2014-03-30 21:35:06
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「ノーマルのVTだったらそうです。でも、あなたのスパーダは少し違いますわ。多分……どこかのレースで……」 「は?」 #mor_cy_dar

2014-03-30 21:35:14
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「いえ、何でもないです。どうせ志智には分かりっこありませんもの」 「………………なんだよ」  肩をすくめる亞璃須に、志智はやはり納得のいかない顔で、三度目の言葉を繰り返した。 #mor_cy_dar

2014-03-30 21:35:24
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 それからまた幾日かの時が流れた。  四月に入ると、志智のスパーダはブレーキングだけでなく、コーナリングでも亞璃須のXRに食いつくようになった。 #mor_cy_dar

2014-03-30 21:36:08
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