アイヌアニメ「この砂赤い赤い」ライナーノーツ

アイヌの物語をアニメ化した「この砂赤い赤い」(アイヌ文化財団)について、文化考証を担当した丹菊逸治さんによる解説ツイート(非公式)。
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寮美千子 @ryomichico

一方、主人公の武器は銀の矢。銀イオンはバクテリアなどに対して強い殺菌力を示すので、そんなことも背景にあるのかも、と思いました。タイトルは「この砂 赤い赤い」ですが、赤いの意味は? RT @itangiku  https://t.co/eyLL9Cseq7

2014-04-06 15:29:14
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第一話『この砂赤い赤い』。見た人向けネタバレ解説。さて、すると今度は悪魔の子は同じく胡桃の弓矢で天空を射て、鹿を天に舞い上がらせてしまう。鮭と鹿はアイヌの伝統的な動物性タンパク源の双璧。

2014-04-06 15:30:11
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第一話『この砂赤い赤い』。見た人向けネタバレ解説。鮭・鹿は伝統的なアイヌ文化では重要な食料源。多くの地域で「鮭を司る神」「鹿を司る神」に遣わされる、特別扱いの存在である。ちなみに鹿がいない樺太の諸伝承には「鹿を司る神」などは登場しない。

2014-04-06 15:33:52
寮美千子 @ryomichico

アイヌアニメ「この砂 赤い赤い」https://t.co/eyLL9Cseq7 言葉による描写自体が非常に視覚的でダイナミック。アニメでもがんばって表現しているが、言葉によるイメージ喚起力は、それを超えるほどの力を持っている。口承文芸として炉端で語る物語は大娯楽だっただろう

2014-04-06 15:34:48
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第一話『この砂赤い赤い』。見た人向けネタバレ解説。さて、鹿は天に吹き上げられていく。この話では魚は海に還り、鹿は天に還る。魚が海からくるように鹿は天からくるのであろう。お話以外で実際にどう考えられていたかはけっこうまちまちだが。

2014-04-06 15:35:43
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第一話『この砂赤い赤い』。見た人向けネタバレ解説。この話で暗示されている「鹿が天から来る」という考え方はおそらくトゥングース諸文化の「トナカイが天から来る」という考え方とつながるものだろう。「鮭を司る神」「鹿を司る神」はいろいろと北方っぽい。

2014-04-06 15:36:28
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第一話『この砂赤い赤い』。見た人向けネタバレ解説。ところが樺太には鹿がいなくて「鹿を司る神」がおらず、「北方っぽさ」の連続性が見えにくくなっている。こういうことが結構あるから樺太アイヌとニヴフの伝承のあたりが面白い。

2014-04-06 15:41:54
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第一話『この砂赤い赤い』。見た人向けネタバレ解説。さて鹿もオキキリムイが銀の弓矢で取り戻す。オキキリムイは弓矢を用いることが多いように思われる。ユカラの主人公たちは刀を使うことが多いけれども。

2014-04-06 15:44:00
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第一話『この砂赤い赤い』。見た人向けネタバレ解説。鹿たちは雄と雌がそれぞれ「きれいにならんで」飛んで行き、また還ってくる。アニメでは少しばらばらになっている。「きれいにならんで」をたとえば「一列」で描くとものすごく漫画チックになってしまう。

2014-04-06 15:47:50
寮美千子 @ryomichico

@itangiku 「きれいにならんで」という言葉と、ばらばらに跳んでいく絵の乖離、見ていて気になったところです。アニメでも、次々に空に上っていく鹿の姿を、バレエの群舞のように、CGを使って魅力的に描く方法があったのではとも思いました。

2014-04-06 15:54:25
丹菊逸治 @itangiku

@ryomichico なるほど。その方向性もありでしょうね。どこまで記号的にするか、という調整は腕の見せ所になりますね。今回のアニメでも第二話では滑らかな動きを取り入れています。

2014-04-06 16:00:01
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第一話『この砂赤い赤い』。見た人向けネタバレ解説。鮭と鹿の場面が終わると、悪魔の子とポンオキキリムイの直接対決、取っ組み合いになる。二人とも上着を脱いで下着になる。この「下着」が曲者で、この手のお話に登場する下着の形状がよく分からない。

2014-04-06 15:50:52
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第一話『この砂赤い赤い』。見た人向けネタバレ解説。けっこう昔から褌を使用していたことは分かっているけれども、それ以外の下着の記録はあまりない。風俗設定をいつ頃の時代のものにするかってのも問題だけれども。

2014-04-06 15:53:04
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第一話『この砂赤い赤い』。見た人向けネタバレ解説。結局下着はあわせのある着物型にした。白くて少し模様が入っているのは樺太の物を参考にした。樺太のものはシャツのようにかぶる型。ちなみに下着姿を見るとキャラクターの足に「ひざ」がないことが分かる。

2014-04-06 15:55:28
寮美千子 @ryomichico

@itangiku 「あ、こんな下着だったんだ!」と思ってしまいました。アニメのむずかしさですね >二人とも上着を脱いで下着になる。この「下着」が曲者で、この手のお話に登場する下着の形状がよく分からない。

2014-04-06 15:55:36
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第一話『この砂赤い赤い』。見た人向けネタバレ解説。キャラクターの足に「足輪」みたいなものが巻きついているけれども「脚絆」です。モデリングの関係でこうなっちゃいました。

2014-04-06 16:01:22
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第一話『この砂赤い赤い』。見た人向けネタバレ解説。さて、取っ組み合っているうちにポンオキキリムイは悪魔の子の怪力に驚く。ここから先の展開はちょっと過激なので「アニメ化」の難所。いってみれば「子供同士の殺し合い」なわけだから。

2014-04-06 16:04:03
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第一話『この砂赤い赤い』。見た人向けネタバレ解説。例えば高畑勲氏の演出案では、悪魔の子が美しい姿から化け物に変身する。「怪力に驚く→化け物に変身」とすることで「化け物退治」という問題ない形におとすわけだ。これは素晴らしい解決案である。

2014-04-06 16:06:07
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第一話『この砂赤い赤い』。見た人向けネタバレ解説。でも、今回のアニメでは知里幸恵の刊行テキストをそのまま使っている。とにかく『アイヌ神謡集』の読み物としての完成度は抜群である。それをそのままアニメに再現するというのが今回のコンセプトだった。

2014-04-06 16:09:20
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第一話『この砂赤い赤い』。見た人向けネタバレ解説。だから悪魔の子も「化け物の姿に変身」ではなく、少年の姿のまま地獄(poknamosir地下世界)に落とされることにした。この「地下世界に落とす」という絵が描けてよかったと思う。

2014-04-06 16:11:28
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第一話『この砂赤い赤い』。見た人向けネタバレ解説。これはもちろんアイヌ口承文学の伝統なのだが、特に『神謡集』では天・地・地獄(地下)という宇宙構造をさりげなく書くのがうまい。

2014-04-06 16:13:28
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第一話『この砂赤い赤い』。見た人向けネタバレ解説。直前の第10話「クツニサクトンクトン」では、化け物が川に胡桃の杭(簗杭)を打っている。オキキリムイが化け物をやっつけてから杭を手で揺すってみると「六つの地獄の彼方まで届いている」のが分かる。

2014-04-06 16:15:40
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第一話『この砂赤い赤い』。見た人向けネタバレ解説。さて、「悪魔の子を地獄に蹴落とす場面」は、裂けた地面の口に「落とされる悪魔の子の視点」になっている。ここだけ視点が変わるので、違和感があるかもしれない。

2014-04-06 16:26:48
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第一話『この砂赤い赤い』。見た人向けネタバレ解説。アニメ的には別の演出でありえた。でもあえて「やられる側から」というぬるい表現にした。1つには「殺してしまって」という表現は刊行本にはあるが草稿には無いから。両者のバランスをとりたかった。

2014-04-06 16:28:06
丹菊逸治 @itangiku

@itangiku アイヌアニメ2。第一話『この砂赤い赤い』。見た人向けネタバレ解説。もちろん「殺す」がいけないのではない。だが、ここで知里幸恵のうまさは「地獄に落とされる」部分の簡潔な表現にある。「逃れることができない地下世界への閉じ込め」の容赦なさを描きたかった。

2014-04-06 16:30:47