モーサイダー!~Motorcycle Diary~One Year Before V~
- IngaSakimori
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「あくまでテクニックで勝負したいだけです。わたくしはあなたより上手い。だから速い。それを見せつけたいだけです」 「偉そうに言うよな……」 苦笑しながら志智は、平坦な胸を反り返らせている亞璃須を見た。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:08:56「お前はいつもそうだよな。 ふんぞりかえって……俺のことを大したことない奴だって目で見て……」 「それが何か? 事実でしょうに」 「最初は気に入らなくて仕方なかったんだ。 だから、思い知らせてやってさ。頭の一つも下げさせてやるつもりだった」 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:09:15「けど、なんでだろうな。今はそれでこそお前なんだなって。亞璃須ってこういう奴だよなって思えるんだ。 お前のそういうところさ……結構いいと思うぜ」 「………………!」 不意を突かれたように少女の顔が赤らんだ。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:09:29そして、スパーダのセルを回しながら志智は言った。 「へっ、どうだ。心理作戦」 「ふ……ふざけないでくださいっ!!」 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:09:50「速攻で終わらせてあげますからっ……覚悟なさい、志智!」 「覚悟ならもう出来てるよ、亞璃須」 そして、二つの背中が大多磨周遊道路を登り始めた。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:09:59月夜見第一駐車場は、大多磨周遊道路の中でもかなり高い位置に存在する、ビュースポットである。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:10:53その一角からは、これ以上はないという角度で小河内湖を見おろすことができ、春夏秋冬あらゆる季節の変化を楽しむことができる。 殊に紅葉シーズンの休日ともなれば、砂利敷きの駐車場は観光客であふれかえるが、まだ桜も咲かない初春の夕方とあっては、無人の空間だった。#mor_cy_dar
2014-04-13 20:11:02「対向車もほとんどいませんでしたし、ここからの下りは貸し切りだと思います」 「ああ、そうだな」 「あなたが先でいいですわよ。どうせすぐに抜きますから」 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:11:12恐らく志智はノーと言うだろう。 その時は後腐れなく、じゃんけんでもして決めようか。そこまで考えながら、亞璃須は言葉をつむぎだしていたが、意外なことに志智は淡々と頷いて、スパーダを発進させた。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:11:23スパーダから聞こえる排気音が跳ね上がった。 一速━━すぐに二速。掛け値無しのフルスロットルだった。重力の恩恵もあり、赤いVT250スパーダの車体は排気量に見合わぬ鋭さで、三桁の速度へ近づいていく。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:11:42(でも……それがどうしたといいますの?) だが、それは亞璃須のXR650Rもまた同じことだった。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:11:53スロットルを捻ると、雷鳴のようなエキゾーストノートが響きわたる。 街中ならば、すぐに白バイが飛んでくるだろうと思えるほどの爆音をまき散らしつつ、エンデューロレーサーXR650Rはスパーダを遙かに上回る勢いで加速する。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:12:00「さあ、逃げて見せなさいな!!」 当然のことだった。そもそもVT250スパーダとXR650Rの乾燥重量は、ほんの数kgしか変わらない。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:12:15それでいてエンジンパワーには、250ccツインと650ccシングルなりの違いがあり、馬力で表せば40に対して61と隔絶の差がある。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:12:26トルクに至っては実に2.6と6.1という、倍以上の開きがあり、どれだけチューニングされていようと、VTエンジンに亞璃須のXR650Rが劣ることはあり得なかった。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:12:30(どれだけうまくなったのか、検証してあげますわ!!) 肉食獣が餌食をつけ回すように、亞璃須のXR650Rはスパーダの背後へ張り付く。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:12:41ゆるい右コーナーをクリアすると、強烈な下り傾斜のストレートを二台のモーターサイクルは転げ落ちていく。 登りでは大型スポーツマシンで時速150kmを記録しようかという区間であるが、下りでは速度の乗った状態から恐ろしいブレーキングを強いられる場所でもある。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:13:17「……っん!!」 亞璃須はおもわず目を見開いた。 まさかの追突に備えて、僅かにイン側へ車体を寄せていた彼女だったが、スパーダのブレーキングポイントはXR650Rと変わらない。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:13:48オンロードマシンとモタードマシン。見た目は何もかも異なる二台のマシンが、同じ場所でぐっとフロントフォークを沈ませ、強烈な制動に移る。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:14:01フロントタイヤは鳴き出しそうなほど地面へ押しつけられ、慣性と重力に抗う。ブレーキパッドは瞬時に極高温の領域へと至り、ローターは制動力を熱に変えて、大気へと放出していく。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:14:08(うまくなってますわね……!!) 志智の肉体が右へと動いた。シートから尻をずらして、まだ少しぎこちないハングオン。 だがそれは、尋常のリーンインフォームでは決して引き出せない旋回能力をスパーダへ与え、右へ右へと赤い車体を導いていく。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:14:21追う亞璃須は、上体を中心線に残したままのリーンアウト。軽く突き出した右足が、ちいさな少女の体躯と相まって、奇妙なアンバランスさを演出している。 しかし、その旋回はスパーダに負けず劣らず速い。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:14:29そして、描く軌道が異なっていた。 典型的なアウトインアウトのラインを通る志智のスパーダに対して、コーナーの前半で既にクリッピングポイントについた亞璃須は、イン側の白線をなめるように駆け抜けていく。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:14:40