モーサイダー!~Motorcycle Diary~One Year Before V~
- IngaSakimori
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だが、次に押し寄せてきた左コーナーでは逆にアウトよりをなぞる時間が長い。 左右それぞれのコーナーで、亞璃須のXRが描くラインはまるで異なっているが、それには理由があるのだ。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:14:53(ここは……クローズドコースではありませんもの、ね) 舌なめずりするように微笑みながら、亞璃須はスパーダのテールをつつき回す。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:15:01ブレーキングが互角ならば、あとは加速と旋回をいかに効率よくこなせるか。 それが速さのすべてといえる。では亞璃須は効率よい旋回を心がけているのだろうか。ラインを左右で使い分け、コーナリングスピードを上げているのだろうか。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:15:10(そう、ここは公道。ストリートです。つまり、対向車線があります) 答えは否だった。彼女の描く軌道は、安全で素早い加速のためにある。 コーナーの脱出時、もっとも早くアクセルを開けるために、左右のコーナーでラインを使い分けているのだ。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:15:31右コーナーならば、対向車線の分、大きくインが空いていることになる。つまり、インに沿って回れば早い段階で前方の視界が開ける。 邪魔者がなければ一気に加速するだけだ。そのポイントは単なるアウトインアウトより明らかに早くなる。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:15:40左コーナーはちょうど逆のことが言え、アウトよりに回れば加速するタイミングを早くすることができるのだ。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:15:52「志智にはまだこの辺りのことは分からないでしょうね……もっとも、そのVTではあまり意味のないことですけれど」 制動しては、大きく体を左右へ動かし、膝が擦れるぎりぎりの姿勢で旋回する。 そんなスパーダが。志智が。亞璃須には哀れにも思えてくる。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:16:03(正しい走り方……速いライディング……けれど! 所詮はアンダーパワーなマシンの走り方に過ぎませんわ!!) 背中を蹴り飛ばされたような加速Gに身を委ねつつ、亞璃須はうっとりと笑った。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:16:13いままでに見たことのないスピードで、視界の左右をガードレールや木々が流れていく。 空気が壁になっていることを感じる。その抵抗を自分が押し破っているのが、肌で理解できた。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:16:35(何キロ出てる……100kmだって? こんなスピードでいけるのか……前は80kmも出せていなかったじゃないか) 限界に近いことは分かっている。だが、それ以上に理想的な攻め方ができている━━その快感の方が勝っていた。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:16:46(こんな走り方ができるようになっていたのか……自分で驚いちゃうよな) ずり、とリアタイヤのスライド。うっすらと水分を残したアスファルトの上を、志智のスパーダは尻を振りつつ駆け抜けていく。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:17:40(あいつのおかげだよな……) 何もかも、毎日一緒に走り続けたおかげだ。師に習った技をみせる弟子の気分があるとすれば、こういうものなのだろうと志智は思っていた。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:17:54━━が、基本的に弟子は師に劣るものだ。 「ちっ……!!」 『鉄溝渡り』の区間を抜けて、『52段のどん詰まり』をクリアしたそのとき、志智は背中から聞こえる雷鳴が、一際大きくなったことに気づいた。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:18:04次の瞬間、視界の右側に巨大なフロントフェンダーが見えた。ビッグシングルの生み出す震動に赤いフェンダーはぶるぶると震えていた。 続いて、モタード用に少し切り詰められたバーハンドルが現れる。そして、見慣れたレーシングスーツ姿の亞璃須が見えた。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:18:15(ここの直線……やっぱりキツいか!) 睨みつけるストレートはまだまだ長い。大多磨周遊道路の下り区間では、ほとんど唯一といってもよいほどの、フラットなロングストレート。その場所で志智はこの上ないほど明確に、XR650Rが持つフルパワーを見せつけられていた。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:18:30「やっぱめちゃくちゃ速いよな……ははっ!!」 ヘルメットのシールドがびりびりと震動しているのは風圧か。それともXR650Rのサイレンサーから吐き出される音圧か。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:18:39おそらくは後者なのだろう。鼓膜を爆裂させるような大音響が、今だけは心地よかった。 亞璃須が。何度も何度も追い続けた背中が、今日もこうして目の前にいる。 それはどこか安らぎを覚えるような光景だった。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:18:51(このままどんどんお前が遠ざかって……小さくなっていって!) いつもその繰り返しだった。 だが、今日だけは違う。今日こそは違うのだ。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:19:01「死んでも……ぶち抜く!!」 網膜の中で火花が散った。恐怖というリミッターがはじけ飛んだ音を、そのとき志智は聞いた。 #mor_cy_dar
2014-04-13 20:19:09(離れない……まだついてくる!?) 掛け値無しの全力で亞璃須は走っていた。レースでしか許されない最大効率で生み出されるエンジンパワーは、前後17インチのプロダクションレーシングタイヤによって大地へ伝えられ、絶大な加速と制動を可能にしている。 #mor_cy_dar
2014-04-13 22:23:12コーナリングも同様だった。 元より250cc並みに軽量なXR650Rへ、彼女の体重が組み合わされば、ライトウェイトという言葉では到底表現できないほどの、反則じみた総重量となる。 #mor_cy_dar
2014-04-13 22:23:32その効果は絶大である。 今、目の前をふさぐ者のないXR650Rのコーナリングは明らかにスパーダを上回っており、熟練者のスーパースポーツですら追随することは困難に思えるほどだった。 #mor_cy_dar
2014-04-13 22:23:42(ここまで本気で走ってるのに……ついてくるということは!) その答えは、ブレーキング。 危険と知りながら、亞璃須はフルブレーキングの最中にミラーを見つめ続けた。視線の移動というごく些細な動作にも、彼女のマシンは反応してわずかに軸をずらそうとする。 #mor_cy_dar
2014-04-13 22:23:54