警戒警報は鳴ったが、スキュレ−は割り当てられた個室から動かなかった。侵入者の報告は施設内のニンジャ二名ともに届いていたが、スキュレーはその身の重要性から戦闘への参加を差し止められたのだ。専用のプール付部屋。個室ではあるが檻と変わらない。26
2014-04-14 19:49:39ソウル憑依前のスキュレーはヨロシサンの末端研究員だった。可愛がっていたバイオマグロに生きながらに喰われ、発狂しかけたところにニンジャソウルが憑依、マグロを引き裂き自力で生還した。スキュレーにその記憶はない。生簀プールに落ちた後、気が付けばバイオニンジャ培養層の中に居たのだ。27
2014-04-14 19:52:30術後、重度の改造で異形と化した己の姿を見た時、もはやまともな生活に戻る事はないと理解した。「エー、応急措置の改造なので、将来的に人型の義肢への換装もありますし、社割も利きます、ハイ。」施術スタッフから説明を受けたが、そんな機会は無いと理解している。28
2014-04-14 19:55:32他でもない、ヨロシサンの社員なのだ。実験素材がどうなるかなどよく判っている。妻と子供には事故で死んだことにされていた。しかしその事に未練は無い。ロード・オブ・ザイバツに謁見した時、自分が人間では無くなったことを強く自覚したからだ。29
2014-04-14 19:57:37ニンジャとして生きていく。偉大なるロードの為に。その為ならば海のアクマとなろう。今の自分にはその為の力がある。スキュレーは額に移植されたツノを意識する。数度にわたるバイオ手術の中で移植されたこの角は、初めのうちは激しい頭痛と精神の混濁をもたらし、強い憎悪や破壊衝動を得た。30
2014-04-14 20:00:43スキュレーに宿るニンジャソウルの生命力と若干の運が味方し、それらの症状も落ち着いていった。そして頭痛から解放されたスキュレーはマグロをテレパスで操るれるようになっていた。おそらくはツノの能力だ。今はマグロや一部の魚類だけだが、いずれは海洋生物の頂点に立つ事も可能だろう。31
2014-04-14 20:03:32サザジマ先生はこれを応用する理論も思いついたらしい。スキュレーはサザジマ先生には感謝していた。こんな身体になり果てた自分が、偉大なるロードの理想世界の礎になることが出来るのだ。スキュレーは自分の左手を見る。途中から欠けた左の小指に、キョート城でかけられた侮蔑の言葉を思い出す。32
2014-04-14 20:05:52一人のアデプトニンジャがスキュレーの身体を見てシツレイ発言をした。スキュレーはそのアデプトを無礼討ちにした。これが単なる自尊心からの意趣返しならケンカ・リョー・セーバイの掟によってスキュレーにもセプクが申し渡されていたが、死んだアデプトのシツレイな発言を耳にした者が多かった。33
2014-04-14 20:09:01「この身体はロードへの忠誠そのものであり、それを侮辱された事が許せない」という発言から、スキュレーはケジメで許された。この件により、スキュレーはアプレンティスの身でありながらヨロシサンプラントでの勤務を命じられた。ロードの栄光の礎となるならこの身体とて誉れだ。34
2014-04-14 20:11:54ロードの御為ならば、いかなる敵をも殺す。「ガンバルゾー」スキュレーは小さくチャントを唱えると、IRCにテルビューチェのバイタルサイン消失のアラートが鳴った。スキュレーの眉根が寄る。これで侵入者は企業ハッカーや地元の工事反対デモなどではない事が確定した。間違いなくニンジャだ。35
2014-04-14 20:14:22テルビューチェの交戦開始の通信から僅かな時間で信号が途切れている。相当の実力と見て間違いない。敵の目的は不明だが、重要施設の多い西棟が標的の可能性が高い。スキュレーの居室は第二コントロールの地下三階。クローンヤクザプラントも近く、守備に都合が良いという理由で動かずに居たのだ。36
2014-04-14 20:16:53しかしそのため単独で侵入者と遭遇したテルビューチェが殺された。「テルビューチェ=サン……」スキュレーはテルビューチェを仲間だと思っていた。同じザイバツニンジャであり、同じ施設でバイオ手術を受けた。兄弟とは過言かもしれないが、ニンジャとなったスキュレーには数少ない仲間だった。37
2014-04-14 20:20:40スキュレーは通信回線を開いた。「サザジマ先生、敵のニンジャはどこだ」「スキュレー=サンに戦闘許可が出ていません!待機していてください!」指令室の喧騒とサザジマ先生のヒステリックな声が返ってきた。感情的にならない人物だと思っていただけに意外に思えた。それだけマズい事態なのだ。38
2014-04-14 20:23:16「当然か」スキュレーは通信を切る。施設がハッキング攻撃を受け、ニンジャが一人死んだ。しかも敵勢力や目的が不明。防戦一方の理由は、この研究所が外敵に襲われることのない僻地にある事も原因だ。荒事に慣れていないのだ。「つまり、カラテあるのみ、か」39
2014-04-14 20:26:20スキュレーはわずかな期間だけメンターだった年下のニンジャから受け取った言葉を呟くと部屋を出た。ドアの向こうは地下三階の大半を占める広大な空間だ。岩肌の天井に等間隔でタングステンボンボリが吊り下がり、二十メートルほど下の水面を煌々と照らしている。40
2014-04-14 20:29:08このフロアは崖下にある洞窟と海につながっており、現在は改造マグロの生簀やマリンヤクザのクローニング施設を収納してある。敵の目的は不明だが、この施設で一番重要な場所はここだ。スキュレーの状況判断を裏付けるように、接近するニンジャソウルの気配を感じる。強い。そして早い。「来たな」41
2014-04-14 20:32:19「Wasshoi!」禍々しくも躍動感溢れる掛け声が響いた。スキュレーは見上げる。1フロア上のガラスを突き破り、赤黒のシルエットが飛び出してきた。空中で華麗に三回捻りを行い、巨大プール上のキャットウォーク状連絡通路の上に体操選手めいた着地を決めた。42
2014-04-14 20:35:11ニンジャだ。それも一目でわかる実力者。「テルビューチェ=サンが勝てなかったのも無理はないか」赤黒のニンジャの『忍』『殺』とレリーフされた金属のメンポが、恐ろしげに光を反射する。油断無く立ち上がる様を見据えながら、スキュレーは通信を開く。43
2014-04-14 20:37:11「サザジマ先生。こちらプラントだ。敵ニンジャと遭遇、戦闘を開始する」「なんですってスキュレー=サン!?敵ニンジャはそこにいるんですか!?」「ああ、俺の目の前にいるぞ。どこのニンジャコイツは」監視カメラを素早く切替えたサザジマ先生は、赤黒のニンジャ存在を見るや悲鳴を上げた。44
2014-04-14 20:40:55「アイエエエ!ニンジャスレイヤー!ナンデ!?」「ニンジャスレイヤー?何者だ」「その名の通りです、ニンジャを殺す狂人で、これまで多くのバイオニンジャが餌食になりました!ご存じないのですか!?」サザジマ先生は元の勤務地のネオサイタマで幾つかニンジャスレイヤー襲撃案件を知っていた。45
2014-04-14 20:44:59しかしスキュレーのIRC、つまりザイバツシャドーギルドはニンジャスレイヤーの宣戦布告を受けてから日が浅く、データベースに適切な危険度の設定を行っていなかったのだ。それゆえにテルビューチェは敵を侮り死んだ。だが今は仲間の死を悼む時ではない。目の前の敵を排除するのだ。46
2014-04-14 20:49:28全てはギルドの為に。偉大なるロードの栄光の為に。紛い物の肉体に宿るただ一つの真実の為に。殺す。ニンジャスレイヤーを殺す。決意を胸に、スキュレーはオジギした。「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ザイバツシャドーギルドのスキュレーです」47
2014-04-14 20:52:23