第十一公演IF

全裸を掛けた男三人と美女一人による仁義なき戦い
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ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

空に薄い雲が掛かっている。その隙間から少しだけ青い色が見えていて、けれども太陽を探し出すのは難しい。微かに落ちる影はどれもこれも薄くて頼りなく、錆びれたベンチに座る男は空を見上げたまま、ふう、と煙を吐いた。 指先に挟んだ煙草から、灰色の煙が空へと向かう。

2014-02-26 04:10:32
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

何処へ行くのだろう−−何処へ行ったのだろう。 男はまた煙を吸い込んで、溜息を逃がすように煙を空に向かって吐き出した。 男が居るその街は、既に廃墟と化していた。どれにもこれにもまだ人の気配が残っているのに、誰もいない。

2014-02-26 04:10:38
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

どれもこれもまだ人の家なのに、燃えた跡や酷い汚れで廃墟街の体を成してしまっている。人の死体がまだ転がっているほどに、此処には人の命が残っていると言うのに。 煙を吐き出す。全ての遺体の回収には、まだ時間がかかる。 「ああ全く…疫病と言うのは、遠慮がありませんね…」 煙を、吐き出す。

2014-02-26 04:10:44
グラナート @ktmyng

ざり、と地を踏む音。青の少ない空を見上げていた瞳は地上に視線を落とす。 視界に広がる街はもう廃れていて、人気は無い。 「――臭い」 焼け焦げた匂いの中に混じる、血の匂い。 けれど不思議と腐ったような匂いや廃れた場所独特の埃っぽさはないから、最近までは機能していたのだろう。

2014-02-26 04:13:54
グラナート @ktmyng

そう推測しつつ、歩を進め辺りを見回す。目に映るのは新しい死体や瓦礫ばかり。 何があったかは知らないし、如何でもいいが。少しばかり不快だと顔を顰めて小さく零す。 しばらく行くと、白く細い煙が目に入る。辿った先、人影を見つけて。 まだ人が居たのかと、そこに向けて更に歩を進めた。

2014-02-26 04:13:57
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

立ち昇る煙を追いかけて、視線は空に固定されたままの男の耳に、ふと音が届けられた。疫病の蔓延した街にはもはや虫も鳥もいないのだから、それであることは有り得ない。けれど、風や、草木の音ではない。もっと人為的で、もっと意図的な−−そう、足音だ。 それに気が付いた男は慌てて立ち上がる。

2014-02-26 04:15:56
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

まさかこんなところに人が現れようとは思わなかった。乱れた自身の金髪を手櫛で軽く整える。先刻まで一部の死体の処理をしていたこともあって汚れてしまった白衣は、軽く払う素振りをしてもどうにもならない。人に対する格好では無いな、と溜息を吐きつつも姿勢を正し、足音の方向へと目をやった。

2014-02-26 04:16:07
グラナート @ktmyng

近づくと、人影は慌てて立ち上がって姿勢を正し出した。 少し汚れた白衣を身にまとう青年は、人のよさそうな顔をこちらに向けた。 「まさか、人がいるとは」 進めていた足を青年の前で止める。片手をポケットに入れて、廃れた街並みに視線を漂わせ。

2014-02-26 04:20:24
グラナート @ktmyng

青年に向き直って、上から下までまじまじと見つめる。――この服装からして、 「医者、か?」 ぽつりと零す。街の状況的にも、そう考えるのが妥当。 ……しかし医者が煙草と言うのは如何なのだろう。匂いもなかなかにキツイ。 未だ細く煙を吐く、彼の手の中の煙草を見て眉間に皺を寄せた。

2014-02-26 04:20:43
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

淀みない足取りで、男性が近付いて来る。黒い髪に、氷を連想させるような蒼い瞳。身長は同じくらいか、男よりも少し高いくらいだろう。 「私も、まさか人がいらっしゃるとは思いませんでした。お蔭でお見苦しい姿を見せてしまい、恥ずかしい限りです」

2014-02-26 04:23:22
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

人好きのする笑みを浮かべて言葉を返す。見苦しいとは思っていたが、皺一つ見当たらない灰色のスーツを纏った相手と対するならば尚更だ。替えの白衣が鞄の中に有っただろうか、と考えて。 相手が、ふと顔を顰めたことに気が付いた。その視線を辿った先には、未だ火の付いた煙草。

2014-02-26 04:23:27
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

「っと、すみません。煙草、匂いキツイですよね」 言いながら、慌てて携帯灰皿を懐から取り出して煙草を押し付ける。頻繁に吸う愛煙家ではないけれど、男が唯一吸う銘柄はどうにも匂いがキツくていけない。嫌がられるのも当然だ。

2014-02-26 04:23:36
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

「言い訳をするようですが、煙には死者の魂を天国へ送ってくれるという話がありまして。まあ本来は煙草などではなく、何かあるのでしょうが……生憎と、今は煙草しかありませんで」 すみません、と頭を下げる。ちゃり、と首にかけた十字架のペンダントが白衣の合わせから滑り出て、ゆらりと揺れた。

2014-02-26 04:23:39
グラナート @ktmyng

折り目正しい返答をする青年。その礼儀正しさに、少しの好感を持って。 「別に、構わない」 匂いがキツかったのは否定しないが、丁寧に理由まで述べ謝る彼を咎めようとは思わない。 一言そう返し、青年が街の状況を知っているかのような口振りであるのに気付く。 「何故こんな廃れた街に居る」

2014-02-26 04:25:33
グラナート @ktmyng

自分は通りすがりだがこの男はそうでもなさそうだ。揺れる十字架のペンダントを見て、魂を弔いにでも来たのだろうかと推測を立てる。…けれど火の準備はしてなかったようであるし。 街に対しての興味は依然ないが、青年に少しだけ興味が湧いて。気づけば、目線よりも少し下の碧に向かって問うていた。

2014-02-26 04:25:52
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

構わない、という言葉にホッと息を吐く。それでもやはり不快だったろうと、もう一度だけ謝罪を口にして、相手の問いかけに少しだけ下を向いた。浮かべていた笑みに翳りが差す。 「用が、あったわけでは無いんですよ。本当に偶然、此処に来ました」 それから、改めて辺りを見回して、ふう、と溜息。

2014-02-26 04:29:12
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

「帰りたいところがあるんですけどね。どうにも帰り道が分からなくなってしまって。それを探してフラフラするうちに、この街に……」 視界に入る光景は、あまりに無惨。あまりに悲惨。疫病は人の精神すら蝕んだのだろう。周囲の街からは断絶された形跡もあった。人々はどれほど絶望しただろう。

2014-02-26 04:29:24
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

「……一通り見たのですが、この街には薬や医療道具なんて殆ど無かったみたいです。もう少し早く着けていれば出来ることもあったのですが…」 残念でなりませんよ。男は視線を灰色の空へ向け、そっと呟く。青い空はこの街には似合わない。だが、出来ることなら目の覚めるようなあの青が、見たかった。

2014-02-26 04:29:30
グラナート @ktmyng

『帰りたいところ』、か。 空いているもう片方の手を顎に当てて、此処にたどり着くまでの事を考える。 どこか人に方向を尋ねることが出来そうな街があっただろうか。 記憶を辿っても、心当たりは無く。 「私も通りすがりでな、力になれそうにない」 蒼を伏せて、ふぅと溜息をつき。

2014-02-26 04:30:46
グラナート @ktmyng

街を見渡しながら感傷的になる青年。漂う目線を追って、自分も街を見回す。 自分のそういう感情は動いていないから、残念という彼に共感はできそうにないけれど。蒼がゆっくり瞬く。 ふと、名前を知らないなと思い、視線を彼に戻して。 「私はカルドという」 名乗れば、名が聞けるだろうと考えて。

2014-02-26 04:31:06
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

溜息の音に首を振る。 「いえ、いいんです。きっとそのうち、着けると思いますから」 どうしても帰りたい場所、帰らなければいけない場所があるのは確かだ。けれど、たとえ男が着けなくとも、きっと彼女がまた手を引いてくれるだろう。そういった、希望ではなく、確信がある。

2014-02-26 04:32:52
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

視線を相手へ戻し、蒼を静かに見据える。カルド、と告げられた名に、男はハッとなって姿勢を正し。 「ああ、申し遅れました。私はハインリヒ・エーベルハルトと申します。以後お見知り置きを」 そして、革手袋から右手を抜き、差し出した。 握手に、相手は応じるだろうか?

2014-02-26 04:33:13
グラナート @ktmyng

運任せのような返答とは裏腹に、その中には確固とした強さが伺えて、 「早く着けるといいな」 特に表情を変えることはせずに、一言だけそう返す。 帰るべき場所があるのは悪い事ではない。むしろ良い事。 自分には向かうべき場所しかないから、彼がどんな心持ちかまでは知れないけれど。

2014-02-26 04:33:48
グラナート @ktmyng

そうして名乗ると、男は礼儀正しく名乗り返した。 ハインリヒと名乗る青年の差し出された手。一瞥して、ポケットに入れていた方の手を差し出し応じる。 「ああ」 憶えていられるかは保証できないが、この先何もなければ覚えていられるだろう、と思いながら。 短く返事をして柔らかく手を握った。

2014-02-26 04:34:08
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

相手の言葉に一つ頷く。本当に、早く着けるといい。出来れば、彼女の機嫌を損ねてしまう前に。 握られた手を同じく握り返して、穏やかに笑う。その表情を保ったまま、思考を回す。そう言えば、右手の指には傷が有った筈だ。既に血は止まっているし拭ったが、まだ傷口は塞がり切っていない。

2014-02-26 04:34:39
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