地獄鎮守府の日常 #-19842014

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白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

「あっ」 と、妹が、驚いた声を上げる。 妹の体は私よりも、柔らかい感触がした。 「大丈夫、お姉ちゃんはあんたを恨まないから、それに、どうせ断っても無理やりされてた、だから、あんたが気に病むことではないわ」 そう、抱き締めながら私は妹に言い続ける。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-13 17:29:35
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

「う……あ……うあぁぁぁ……」 すると妹が、様々なものを抱えた不知火が、とうとう抑えきれず泣きだした。 クールな彼女なんて居なかったかのように。 兵器のような彼女なんて居なかったかのように。 大声を出して、子供らしく泣き続けている。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-13 17:34:18
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

  私はただ、彼女を、妹を抱きしめて、そっと撫でて慰める事しか、この時はできなかった。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-13 17:35:08
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

そうして私と妹は逃れられようのない運命の日にたどり着き、大規模攻勢作戦に出ることとなった。 帰還は考えられない特攻作戦。 目標はハワイの深海棲艦ハイヴ。 さも第二次世界大戦の真珠湾攻撃を彷彿する人類の帝国軍の威信をかけた戦いだが、その実態はただの特攻戦だ。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-19 23:32:25
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

私と妹は覚悟を決めていた、その為の猶予はあった。 人生を捨てる猶予、恋を捨てる猶予、得られなかったものに、代替品を用いる猶予、代替品を好きなものだと錯覚する猶予。 そんな最低な猶予を経て、私と妹は輸送用のアクアジェット船に乗り、自分たちの墓場へ向かう。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-19 23:40:34
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

「……姉さん、いいえ、叢雲、あなたは……本当に、断って良かったのですか?」 妹が私の方を見て言う、彼女は、私が司令官に渡された『指輪』を返却したのが気になったのだろう。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-19 23:46:01
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

『指輪』はただの指輪の形をした、リミッター解除機構だ。 それを私の司令は渡した、彼は特に何も言わなかったが、そこに『恋慕』という『かたち』はあるように感じられた。 子供相手に、年甲斐もない告白のように感じた。 それに嫌悪を感じ、返却した、それだけの話。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-19 23:48:20
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

それをただの道具の『かたち』として受け取る事も出来たけども。そんな悪趣味な行動をとって怒りを買って、じゃあどうなるかと言われたら、『不慮の事故』でも発生する可能性まである。だから穏便に断り、返却をした。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-19 23:50:56
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

「ええ、問題ないわよ、あんな力が無くても大丈夫」 そう、私は妹に語りかける。 「なら、良いのですが」 妹は不安げな様子で窓を眺めており、私は彼女の、手を握る。 「あっ」 いきなり手を触れられ、彼女が反応する。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-19 23:55:49
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

「わたしが大丈夫って言ったら大丈夫よ、いい?」 そう、強く言い聞かせながら妹の手を、手袋越しににも伝わるぐらい、柔らかく、小さな手を握る。 「……うん」 妹も、どこか含みを感じながら、納得をした。 闘いが怖いのか、妹の方も、手を強く握っていた。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-19 23:58:36
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

そうして目的地に到達すると、輸送船から私達は出撃をする。 戦闘海域に到達するまでの移動中、艤装に接続された通信機から、延々と戦意高揚の演説がリピート再生される。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-20 00:01:23
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

「われわれはとうとう艦娘の量産化に成功させ、深海棲艦との戦いに対し反撃の牙を向ける事に成功した!艦娘諸君よ!今こそ我らが帝国臣民にその力を見せたまえ!その身を帝に捧げし戦乙女の力を以ってして、悪鬼羅刹を駆逐する、それこそが帝への、帝国への奉仕なり!」 #地獄鎮守府の日常

2014-04-20 00:05:52
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

クソッタレな演説が流れ続ける、おかげで気分は最悪だ。私は帝なんて顔も見た事無い、かつての『日本と言う国』の皇帝のようなものに身を捧げた覚えはない。食っていくためにこんな事になって、こんな闘いをしているだけだ。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-20 00:07:19
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

「最悪な演説ですね」 隣に居て併走する妹、駆逐艦不知火が私に向け笑顔を向けながら言う。 「そうね、本当に最悪よ」 「ええ、不知火はできれば気のいい音楽が聞きたい所です」 「ジャンルは?」 「ロックンロール」 ニヤリと妹は笑って言った。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-20 00:10:15
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

そうして談笑を交わしながら妹と供に、斥力場を発生させ水上スレスレを飛行する私だが、とうとうそんな楽しい時も終わる。 敵艦隊と遭遇したからだ。 旗艦の龍驤から連絡が来ると、駆逐2、戦艦2、空母2の構成との事だ。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-20 00:14:02
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

そう考えている間にも敵の艦載機の先制攻撃が始まる。 龍驤が発進させた対空UAV……所謂艦戦が敵の艦載機を撃ち落として行き、残った敵機がわたしと妹に目を付け襲い来るので、それをそれぞれ艤装につけられた対空砲で迎撃する。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-20 00:18:37
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

「来ましたね」 楽しげに妹が言う。 「ええ!」 私が返す、楽しげに。 本当は楽しく何てないけども、それでも心を奮い立たさなければいけないから、そう振る舞う。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-20 00:20:32
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

戦艦からの弾幕が私達に次は降り注ぐ、それを二人で左右に分かれ、大きくジグザグに、互いに交差するようにして回避する。 そうして私達に攻撃が集中する、砲撃、艦載機、雷撃。様々な攻撃を回避し、斥力フィールドで逸らし、戦艦や空母が敵を沈める。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-20 00:24:52
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

駆逐艦に求められるのは囮だ、大砲は光景が低いから火力は望めず、魚雷の威力は高いが、射程は短くよっぽど近づかなければいけない。大抵は魚雷を撃つ前に、決戦は終わる。私達は注意をひきつける為の射撃を行いながら、弾幕の中水の上をスケートのように滑り抜けるだ。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-20 00:24:58
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

そうしてこの戦闘も私は囮に徹し、仲間の戦艦空母が撃墜し、更に私達は奥に進む。 私達の艦隊は龍驤、祥鳳、伊勢、日向、叢雲、不知火。私と妹以外は四航戦、大日本帝国の4番目の航空戦隊の新旧メンバーと言った所。ハッキリ言えば二軍戦力だ。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-20 00:27:55
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

ではそんな二軍が何をするかというと、ただの囮だ。 一軍の主力艦隊達が中枢を制圧するために、私達が遊撃を繰り返し、注意を引く遊撃艦隊の一つ、それが私達である。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-20 00:30:38
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

進み、暴れ、怖し、穿ち、戦い続ける。 最初に沈んだのは日向だった、敵の戦艦の大砲を直撃し、斥力フィールドを貫通され下半身を吹き飛ばされ即死した。 突然の死、戦場での日常茶飯事だ。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-20 00:33:21
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

次に龍驤、彼女は背後から潜み、牙を剥いた駆逐艦の群れにハイエナのように纏わりつかれ、大砲を何十発と受け肉片となり、断末魔も上げる事無く消えて行った。 旗艦の戦死、仕方が無く臨時で伊勢が旗艦となり、指揮を続行する形となる。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-20 00:37:44
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

一人、また一人と死んでいく恐怖感の中、私と妹は戦い続ける。 昼夜が数分単位で目まぐるしく変わる深海棲艦の世界で、砲を撃ち続け、戦い続ける。 そうしていると、どんどんと敵が少なくなり、とうとう敵が来なくなった。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-20 00:40:18
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

「どういう、事?」 私は生き伸びた実感よりも、恐怖を感じていた。 空は夕暮れになり、昼夜は目まぐるしく変化はしない。 作戦は成功した、そういう事だ。 だけど、すごい、嫌な予感がした。 「やったの……生きてるのよね、日向……龍驤……!」 伊勢が、泣いていた。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-20 00:42:41