地獄鎮守府の日常 #-19842014

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白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

白い部屋、そこに擱かれたテーブルと椅子に、私は座っている。 電気の光も白く無機質で、気が狂いそうになる。 そんな部屋に、一人の軍服の男が入ってくる。 「やぁ、君が駆逐艦叢雲……いや、■■■■■かい?」 彼が、私の向かいのテーブルに座り語りかける。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-10 16:24:51
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

「見て解らないかしら、その通りよ」 その仕草に少し、私は苛立った。 「ああ、じゃあ僕はこういう者だ」 そう、男は名刺を差し出す。 名刺、あの全世界規模の電磁嵐による電子機器の停止現象が発生する前までは、趣味の産物だった代物を男は差し出す。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-10 16:26:55
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

名刺をさっと読む、どうにも、彼は海軍の科学者のようだ。 色々とながったるしい肩書きはあったけど、私にはどうでもいい。 「科学者様ね、それで、私に何の用事かしら?早く済ませて欲しいわね」 人体実験の産物にでも私をするのだとしたら逃げてやるわ。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-10 16:29:32
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

「ああ、君は艦娘の量産モデル、というものは知ってるかい?」 男は淡々と語る。 艦娘の量産計画、私と仲の良い艦娘が提督から聞いた話を思い出す。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-10 16:32:40
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

曰く、自分たちの肉体をベースとした肉体及び人格テンプレートを作成、それを他者に適応する事で、艤装適性の無い、或いは薄い人間でも艦娘になれる手段である。 男でも。 女でも、私になれる技術だ。 おぞましい、と私は思っていた。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-10 16:33:22
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

「最悪な技術ね、そのサンプルになれと!?」 私はテーブルを強く叩いて強気に声を出す。 艤装を付けてない状態では肉体は強化されず、力強く叩いた腕が痛む結果になった。 「君の妹……確か不知火をやってる子だったかな、彼女は同意したよ」 男は、笑顔でそう言った。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-10 16:35:41
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

彼女は私を追うように艦娘になった、理由は知らない、私の影を追い求めてか、使命感かは会ってはいないからだ。だが、彼女は自分自身が複製されることを希望した、その事実が、私の心を揺るがせる。 「そもそも、戦争に今のままでは勝てないのは、解ってるかな?」 #地獄鎮守府の日常

2014-04-10 16:38:50
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

男が冷淡に現実を告げる、艦娘の数は少なく、敵の数は非常に多い。 このままでは物量で潰されるのはこのままでは自明、それは現場に居る私が身を以って知っていた。 だが、私はそれでも嫌悪感を覚えていた。 ヒトを、モノに変容させる技術に。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-10 16:40:22
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

「とりあえず、計画資料の提示を頼むわ」 そう私は男に告げる、偏見であってほしいからだ。 だが出された資料における、計画は私の予想外の方向だった。 テンプレート体は更に肉体を大幅に変容し、人間でない何か、肉体そのものが艤装となる代物だったからだ。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-10 16:42:36
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

現状でも艤装の神経接続用のコネクタは存在する、だが、この量産品はそんなものを凌駕していた。 私は、そのおぞましいものに吐き気を覚えた。 「何よ、これ」 「たった一つの冴えたやり方さ」 「人間を奴隷にする技術じゃないの!」 私は怒鳴った、力強く。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-10 16:45:37
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

「……妹は、■■■は了承したのね?」 怒鳴り、涙が目から溢れ出る、そんな中、私は妹を思い出す。 「ああ、あの子がサインをした事で陽炎型二番型のテンプレートは決定した。自分から進んで了承してくれたよ」 男は語る、彼女はきっと、私よりも現実を見ている。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-10 16:51:15
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

私はきっと、これから生まれる私達に憎まれるだろう。 私になる人達に、悲劇を押し付ける立場になるだろう。 妹も、きっとそれを覚悟したのだろう。 これはきっと、仕方のない事だと、私は頭で納得させる。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-10 16:52:58
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

「……解りました、私の心と体、帝国の為に捧げましょう」 私は、宣言した。 とても悪い事をしたつもりなのに、妹が近くに居て、気分が楽になった気がした。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-10 16:53:45
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

そうして、艦娘は量産された。 どんどんと、私と同じ顔の『叢雲』が現れていく。 どんどんと、妹と同じ顔の『不知火』が、現れていく。 でも、それは私達でも、『ヒト』でもない。 自我は無く、精神テンプレートにそって動く『モノ』だった。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-13 16:48:55
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

彼女達、所謂第二世代と私達第一世代では、基本的なコンセプトと外見以外はほぼ別物だと言っても過言ではない程の違いが存在する。 結果、第一世代と第二世代では装備の互換性は無く、私達は時代遅れのロートル品となり、最前線で使い潰されるような日々を送っていた。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-13 16:52:00
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

ガダルカナル島、かつて数百年程前に起きた第二次世界大戦、WW2、私の艤装のモチーフとなった艦が戦った戦争のあった地の鎮守府に、私達は司令官ごと移動させられていた。 既に司令も、第二世代を使う『提督』からすれば、時代遅れのロートルだ。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-13 16:57:10
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

そうして私達は前線で戦う、戦線を保持する為に。 何人もの仲間が、最前線で死んでいき、補充要因としてやってくるのも、第一世代が殆どだ。 反面、第二世代に出会うのは殆どない。 まるで私達が出会ってはいけないもののように、別々の戦場で戦っている。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-13 16:58:48
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

そうして戦っていると、もうすぐ大規模な反抗作戦による、敵のハイヴ突撃を行うと提督から言い渡される。 事実上の特攻作戦、用済みになった、第一世代を潰す為の、作戦だ。 上層部からすれば私達はデータを取れたら、整備の互換性もロクにとれない。制御困難な劇物だ。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-13 17:03:57
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

退役させても不都合にネガキャンする可能性も高く、だとすれば用済みの駒として、浪費し、殺害する。 合理的な決定だ、私が上層部でもやっている手段だ。 怒りと悔しさを感じる、だが、結局の所どうしようもない話だった。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-13 17:04:48
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

死の宣告が言い渡された日、けどそれが最悪の日ではなかった。 その日、私の妹、駆逐艦不知火の名を継いだ艦娘が、着任したからだ。 「久しぶりね、大丈夫だった?」 「御久し振りです、不知火は何とか生きてます」 #地獄鎮守府の日常

2014-04-13 17:09:47
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

やっとの再開だというのに、素っ気ないやり取り。 でも、私も妹も、握手するように手を繋ぎ、微笑み合っていた。 その日は部屋に妹を呼び、互いにそれまでの事を語り明かしていた。 良い相棒に巡り合えたこと。 司令官への愚痴。 仲間を失った出来事等を語り合う。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-13 17:11:50
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

ベッドをソファー代わりに座り、私達はこの時間を満喫する。 「全く、本当に色々転戦したけど、戦争なんて終わりはしないし、数だけは増えて嫌になるわ」 「そうね、まるで、私達が殺せば殺すほど、憎悪が沈殿するみたいね」 妹の口調も、何時しか昔のようになっていた。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-13 17:17:12
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

「プロパガンダ放送での『敵』の扱い、昔の船の怨念という話も、あながち嘘じゃないかもしれないわね」 「不知火達も船の魂を継ぐ者なら、さながら亡霊達が戦う戦場ね」 そう自嘲する不知火、けど、その声が震えていた。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-13 17:20:59
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

「……お姉ちゃん、不知火は、わたしは、間違ってたのかしら……」 いきなり、妹が、私を姉と呼び、弱々しく問い掛けた。 「何よ、そんな急に雰囲気変わって」 「わたし達は用済みになった、使い捨てられる命になった、もし、あの時断ってたら、不知火は、お姉ちゃんは」 #地獄鎮守府の日常

2014-04-13 17:24:30
白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

妹が私の方を向く、その眼には、涙が浮かんでいた。 後悔の涙、 罪悪感の涙、 もし、自分が第二世代を造る為のデータを提供しなければ、こうはならなかったのかという悔恨の涙。 私はそっと、妹を抱きしめた。 #地獄鎮守府の日常

2014-04-13 17:27:05