Let It Go 古語バージョン 解説編

Let It Go の古語訳歌詞についての作者によるとはずがたり。KITI さんによるまとめ「Let It Go 古語バージョン」の姉妹編です。
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しばたまさあき @_mshibata

だいたい和歌が「限られた文字数でどれだけ伝えられるか」への挑戦みたいなものといえるから、それくらいの制約があったほうがたぶん「古文っぽく」なるだろうなとも思った。伊勢物語とか、古文特有の「もうちょっと詳しく書いてよ」感ってあるよね。

2014-05-26 22:56:01

「古文」って言ったって、どれくらい古い日本語なの?

しばたまさあき @_mshibata

古文訳の歌詞はだいたい平安時代ごろの日本語として通るように書いている。それ以降になるとあそこまできれいに係り結びは呼応しない。なので大河はともかく、武士とかサムライとか言われると、武士はこんなふうな言葉ではなかったぞと言い返したくなってしまう。

2014-05-21 21:08:11
しばたまさあき @_mshibata

上代や近世ではまた日本語はがらりと様変わりしている。だから、自分はよく読んでる中古日本語でやったけど、上代には上代、近世には近世としてふさわしい Let It Go があると思う(なんだこの文章)。

2014-05-21 21:08:46

ここから歌詞解説です。英語版歌詞付き動画で英語歌詞やエルサの口の動きを見ながらお読みいただくとよりご理解いただけるかと。^^

The snow glows white on the mountain tonight
Not a footprint to be seen
A kingdom of isolation, and it looks like I'm the Queen
The wind is howling like this swirling storm inside
Couldn't keep it in; Heaven knows I've tried

雪深み山の夜は
跡だに分かず
ひとりゆく我こそ
新山守(にひやまもり)よ
山颪(やまおろし)漏る木(こ)の下風は
神にはえ隠さじ

しばたまさあき @_mshibata

「雪深み…」冒頭は素直に訳したけど、古文特有の表現をたくさん盛り込もうと思ったので「み」と「だに」を入れました。「雪が深いので」「(それくらい見えてもいいはずの)足跡も区別できない」。

2014-05-26 22:57:23
しばたまさあき @_mshibata

「新山守」は後鳥羽院「我こそは新じま守よ沖の海のあらき浪かぜ心してふけ」から。承久の乱に敗れて隠岐に流された院が配流の地を前に詠んだ歌で、敗れてもなお「自然を支配する聖なる王」としての威厳を失うまいとする院の覚悟が覗える一首です。

2014-05-26 23:02:18
しばたまさあき @_mshibata

その「都を離れ厳しい自然に対峙する皇統の者」という共通項でエルサと後鳥羽院の覚悟が結びついたので、「我こそ新山守」と。そう書くとすごく考えたみたいだけど「自分の運命を過去の誰かに重ね合わせる」というのは古典では一般的なことなので、意外と自然に出てくるもんです。

2014-05-26 23:03:37
しばたまさあき @_mshibata

「山颪…」「漏る下風」が心の下で人に知られず吹き荒れる嵐 = "storm inside"、「神には…」が "Heaven knows…" に対応。「ひそかな思い」の意味で「下水(したみづ)」が恋歌などで使われるのでそれを応用しました。

2014-05-26 23:05:24
しばたまさあき @_mshibata

とはいえ「下風」に「下水」同様「密かな思い」的な用法があったかというとちょっと見つからなかった。やや珍奇な用法と思われるので歌合では負けるだろうから注意。

2014-05-26 23:05:45

Don't let them in, don't let them see
Be the good girl you always have to be
Conceal, don't feel, don't let them know
Well now they know

なさせそ、な見えそ
つねには用意すべし
ふたぎて、隠しね
いかでか

しばたまさあき @_mshibata

「なさせそ…」ここも素直な訳だけど、「な…そ」と4音で入れると古文ぽいかなーとか考えてた。「そんなことしてはいけない、ひとに見られてはいけない」の意。

2014-05-26 23:10:10
しばたまさあき @_mshibata

コメントしてる人もいましたが「用意」は漢語だけど平安時代には口語でふつうに使われていた言葉で、用心とかの意。ここは親に言われてたせりふなので小言っぽく使ってみました。

2014-05-26 23:10:23

(2014-08-19 追記)「なさせそ」の品詞分解について:

しばたまさあき @_mshibata

『ままよ』の「なさせそ」について「『させ』に『な…そ』が付いてるだけ」というコメントがあったので補足。現代語では「する」の使役は「させる」だけど、古語ではサ変動詞「す」の使役も他の動詞と同様に未然形+助動詞「(す/)さす」で表す。

2014-08-18 21:27:05
しばたまさあき @_mshibata

つまり現代語の「させる」は古文では「せさす」。例:「心ばせも世の人に似ずはべり」と奏せさす(竹取物語)/例ある悦びなどもせさすべきを(うつほ物語)。

2014-08-18 21:30:43
しばたまさあき @_mshibata

おっと、さきほど例に挙げたのは尊敬の用法でした、失礼。使役の例:物持てくる人に、なほしもえあらで、いささけわざせさす。(土佐日記)/山ごもりしたる禅師呼びて護身せさす。(蜻蛉日記)

2014-08-18 21:42:34
しばたまさあき @_mshibata

だから「なさせそ」は「な(副)/さ(副)/せ(サ変・未然)/そ(終助)」しかありえない。副詞「さ(然)」は「そう、そのとおりに、そのように」の意。例:さ言はむもにくかるまじ(枕草子)。なので「なさせそ」の意味は「そんなことしてはいけないよ」(のつもり)です。

2014-08-18 21:31:48

(追記ここまで)

Let it go, let it go
Can't hold it back any more
Let it go, let it go
Turn away and slam the door
I don't care
What they're going to say
Let the storm rage on, the cold never bothered me anyway

ままよ、ままよ
さもあらばあれ
ままよ、ままよ
置きて門(かど)鎖(さ)せ
いさや
人は言へ
風よ吹け
などかは寒かるべき

しばたまさあき @_mshibata

「ままよ…」 なんか「ままよ」が大ウケしてしまったんですが、「ええい、ままよ」的な用法が源氏や今昔からは見つからなかったので、もしかしたらこれは近世以降かも…。まあそこは勘弁してください。ほかにいいのが思いつかなかったし。

2014-05-26 23:12:57

その後

しばたまさあき @_mshibata

そういえば「ままよ」、日国引いたらいちばん早い用例で15c後半だった。わかっていたけどちょっと悔しい。

2014-06-08 23:12:26
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