僕らの民主主義(高橋源一郎)

今年の3月台湾の立法院が学生に占拠され3週間以上続きました。最終的に立法院議長からの妥協案を受けいれるにあたっての学生側の意見のまとめのプロセス。
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高橋源一郎 @takagengen

今日は、月に一度の論壇時評の日です。今回は、「僕らの民主主義」というタイトルで、この国の民主主義の形について考えてみました。きっかけ、2カ月ほど前、台湾で、学生たちが立法院(議会)を占拠した様子を映したNHKのドキュメンタリーを見たことでした。

2014-05-29 07:47:18
高橋源一郎 @takagengen

台湾の学生たちは、中国と台湾の間で結ばれた、市場開放をうたう「サービス貿易協定」に反対していました。中国に飲み込まれるのを恐れる国民の強い支持のもと、学生たちの占拠は3週間以上続きました。その終末近く、疲れの目立ちはじめた学生たちに対して、立法院議長から妥協案が提示されました。

2014-05-29 07:50:07
高橋源一郎 @takagengen

妥協案をのむしかないと考えた指導部の学生に対して、ひとりの学生が壇上に立ち「撤退するかどうか幹部だけで決めないでほしい」といったのです。それを聞いたリーダーの林飛帆は、なんと、その後、まる一日かけて、占拠学生全員の意見を聞いてまわったのです。

2014-05-29 07:52:08
高橋源一郎 @takagengen

意見を聞き終えると、最終的に、林は撤退を表明します。一日前、反対した学生が手をあげ、また壇上に登りました。固唾をのんで見守る学生たちの前で彼はこういって、壇上から静かに下りたのです。「撤退の方針は受け入れがたいのです。けれど、ぼくの意見を聞いてくれたことに感謝します。ありがとう」

2014-05-29 07:55:42
高橋源一郎 @takagengen

そこに映し出されていたのは、「民主主義というものは、意見を否定された少数派が、それでも「ありがとう」といえるようなシステム」だという考えでした。それは、台湾の学生たちの場合のように、直接民主主義の場合にだけ成り立つことでしょうか。そうではない、とぼくは思っています。

2014-05-29 07:57:55
高橋源一郎 @takagengen

アメリカ民主主義は、ヨーロッパの厳しい言論弾圧から逃れた人びとによって作られ、それ故どことも違う民主主義の形をしています。民主主義に決まった形はなく、また「正しい」民主主義がどこかにあるわけでもありません。民主主義とは、絶えず変わってゆく「未完のプロジェクト」なのかもしれません。

2014-05-29 08:00:17
高橋源一郎 @takagengen

この国の民主主義もまた、死んだわけでもなく、壊れたわけでもなく、まだ生まれていないのかもしれません。そんなことを書いてみました。ご笑覧ください。

2014-05-29 08:01:05