【次の一手】福間健二 #2factory66

2
福間健二 @acasaazul

蛇口、蛇口、蛇口。唇、のど、食道。水を飲み、それを袋のなかに閉じ込めた。なかで激しく動いている。コンクリートの床に叩きつける。硬いものが砕ける音がして、袋は動かなくなった。何をわかったというのだ。血で汚れた「私たち」が天井からぶらさがっている。(次の一手1)#2factory66

2014-05-20 10:09:47
福間健二 @acasaazul

ディザスター、思い出さない。問題、向きあわない。でも、美しい五月が次の一手を迷わせる。さびしい踏み切りが廃止され、不意の涙も「人間であることの恥辱」も黙り込む骨董品になって殺人もおこった町。一度おとなしくなったものがソワソワ動きだしている夜だ。(次の一手2)#2factory66

2014-05-21 10:33:12
福間健二 @acasaazul

深夜のシークレット、エージェント。自分に暴力をふるってしまうと視界が変わる。石は不幸じゃない。皮膚は不幸じゃない。乳房や陰毛も不幸じゃない。比喩じゃない。命令はどこからでも愛はこの心臓からだ。次の一手、それだけを考える。その先のことは知らない。(次の一手3)#2factory66

2014-05-22 09:50:17
福間健二 @acasaazul

何が死んだ。ただの酔っぱらい。ただの男。だれから盗んだのか。ありふれた労働者顔や従業員式の目つき、腕の組み方、舌打ち、歯ぎしりまでを失うための、噓をつく権利。次の一手。目玉焼きをのせたステーキではなく、目玉焼きをのせた野菜炒めにしてください。(次の一手4)#2factory66

2014-05-23 11:12:28
福間健二 @acasaazul

無気力な瞳。その奥にある打ちっぱなしの壁の、赤いペンキの文字とゾーンの表示。文字は「ごめんねエンジェル」か。さらにその奥の、からっぽの冷蔵庫と散らかり放題の部屋。「わかろうとするな」という声が反響する。トンネルのなか、光が足りない。次は炎だ。(次の一手5)#2factory66

2014-05-24 11:28:09
福間健二 @acasaazul

台所、やかん、ガスレンジの青い炎。きみのいるゾーン。白黒の写真が燃えている。震える侵入者の草たち。ちゃんとインクの出ないボールペンで書かれた病院の名前と電話番号。下着、歯ブラシ、石鹸。カリカリするのに疲れちゃって。五〇一号線。次はラスヴェガス。(次の一手6)#2factory66

2014-05-25 10:37:44
福間健二 @acasaazul

突然の、シチリア島の思い出。火山と漁師たち。アメリカで「民衆の敵」となった兄弟からの贈り物。なんだろう。光り輝き、泡のなかに胎動し、それが何十手も先を読む敵の作戦だ。ドレスを着て脱いでまた着ている。こちらはまだ次の一手が決まらない。何分たった?(次の一手7)#2factory66

2014-05-26 10:51:50
福間健二 @acasaazul

地中海じゃない。大西洋のアソーレスからきた。顔にぶつぶつのある悪魔との、居場所のない生活。ミートボール。汗みずくになってトマト味の地獄を通りぬけた。まだ夜。長い夜。その男の、負け方が、ぼくは気に入った。人生も賭けもな、六勝九敗くらいがいいんだ。(次の一手8)#2factory66

2014-05-27 10:33:14
福間健二 @acasaazul

確かにそれを買った。レシートに記録がある。しかし、ない。持って帰ってない。何日もたってそれに気づく。なまもの。交換できないきみの折り曲げられた「どうぞ、お好きに」。美しい脚とチョコレートの箱とたくさんの人が死んだ夜からの矢。どこで腐ってるのか。(次の一手9)#2factory66

2014-05-28 11:31:07
福間健二 @acasaazul

鉄の門のむこうの、誘惑も罪もないゾーン。影が揺れうごき、なにか言っている。税金とか教会のことだろう。自分が何者かわからないのだ。ぼくはご免だ。白い家で決められることなんか、ハイヒールのきみの足のタコほどの価値もない。アソーレス、七月に行くよ。(次の一手10)#2factory66

2014-05-29 12:10:50