モーサイダー!~Second Lap~Episode I
- IngaSakimori
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東京都に入り口というものがあるとすれば、それはどこだろうか。 (ここはいつも混んでるんだよな……) 亀が座り込んだように、ほとんど動かない車列をすり抜けつつ、国道16号線を走る三鳥栖志智(みとす しち)の目に見えてくるのは、八王子ICの表示だった。 #艦これ
2014-05-30 21:09:22料金制度もそれを肯定するように、中央高速の八王子~高井戸間は均一料金となっている。 土日の朝ともなれば、東西どちらの方向にも渋滞が伸び、南北を貫く国道16号線もまた、無数の車両であふれかえる。 #mor_cy_dar
2014-05-30 21:09:43淡々と1300rpmのリズムをふたつの気筒が刻みづけるなか、じわじわと水温計の針が右側へ動いていく。 もとより冷却には余裕のある250cc。そして、VTエンジンといえども、都内の渋滞は決して楽なコンディションではない。 #mor_cy_dar
2014-05-30 21:10:37「まるで風が当たらないからな……」 アスファルトから、シリンダブロックからのぼってくる熱を首筋で感じながら、志智は右折のタイミングをうかがう。 #mor_cy_dar
2014-05-30 21:11:17対向の車列は嫌がらせのように途切れない。いけるだろうか━━という程の間隔があいたかと思うと、妙に飛ばした一台が現れる。 #mor_cy_dar
2014-05-30 21:11:23「ちっ」 大都市の交通とはこういうものだと分かっていても、若さがいらだちを運んでくる。 もっとも、晴れて初心者期間を終えた志智である。感情の乱れをそのまま行動に移さない程度の分別はつくようになっていた。 #mor_cy_dar
2014-05-30 21:11:36(前は結構あぶないタイミングでも、行っちゃってたからな……) それを改めたのはいつだろうか。 #mor_cy_dar
2014-05-30 21:11:46中年女性の運転する軽自動車に、右直でぶつけられそうになってからだろうか。 あるいは、事故直後と思われるひしゃげたスクーターと、ぐったり動かない半ヘルのライダーを見たからだろうか。 #mor_cy_dar
2014-05-30 21:12:34(こんなところで事故るなんて……ばかばかしいにも程があるよ……な) それでも過密・慢性渋滞を前提して設計された東京の信号システムは、志智に対して緑色の矢印で猶予を与える。 #mor_cy_dar
2014-05-30 21:12:48「ごきげんよう、志智」 「なんだよ、別に来なくていいって言ったじゃないか」 冷却ファンが回り出すギリギリのタイミングで、VT250スパーダが目的地へ到着すると、一人の少女が彼を待っていた。 #mor_cy_dar
2014-05-30 21:14:04見慣れた小柄な体格。見慣れた金髪。そして、見慣れた平坦な上半身。 とはいえ、今日の彼女は服装だけ見慣れない。 #mor_cy_dar
2014-05-30 21:14:32「お前……なんていうか、今日は地味だな。 バイクもXRじゃないのか」 「今日はただの付き添いですものね。 ツーリング用の装備というわけにもいきませんし、まっ、あまり似合いのデニムでないのは否定しませんわ」 #mor_cy_dar
2014-05-30 21:15:23おそらく勝手に借りてきたのであろう、弟の所有物であるホンダ・グロムにもたれかかりながら、少女は笑う。 その姿はいかにも街乗り、といった軽装で、見も鮮やかなゴシックロリータでもなければ、大多磨周遊道路でいつも目にしているレーシングスーツでもない。 #mor_cy_dar
2014-05-30 21:16:02もちろん、三月まで着ていた高校の制服でもなかった。 「ふーん……でも、ちゃんとブーツなんだな。 プロテクターも入ってるみたいだし」 「見とれています? 志智ったら、見とれてしまっています? まっ、わたくしは何を着ても似合いますから、問題ないですけれど」#mor_cy_dar
2014-05-30 21:16:56「……言ってろ言ってろ」 「ふふふ」 くるりと一回りするだけで、辺りにきらきらしたものをまき散らす金髪。 #mor_cy_dar
2014-05-30 21:18:09そして、左右で色が違うオッドアイ。 学生になってもまるで衰えることを知らない、自信と自負にあふれた表情で、日原院亞璃須(にっぱらいん ありす)はにんまりと笑う。 #mor_cy_dar
2014-05-30 21:18:29「それにしても小さな教習所ですわねえ。 コースも大したことなさそうですし……一周が鈴鹿くらいあるところを選べば良かったですのに」 「鈴鹿サーキットって何キロあるんだよ」 #mor_cy_dar
2014-05-30 21:18:49「教習所なんてどこもこんなもんだろう? そもそも、アメリカで免許とってたお前が、なんで俺の付き添いで来るんだよ」 「それはまあ、志智のフィアンセとして当然」 「誰がフィアンセだ」 #mor_cy_dar
2014-05-30 21:19:01「じゃあ、熱愛中の恋人」 「……それも余計な形容がついてるから却下だ」 「それなら内縁の妻?」 「お前、意味わかってて言ってるか?」 あきれた声で肩をすくめる志智に、亞璃須はくすくすと笑いながら、グロムのシートにほっそりしたヒップをあずけた。 #mor_cy_dar
2014-05-30 21:19:15「何でもいいんです。 志智のすることは、出来るだけわたくしも知っておきたいだけ」 「……それならいい」 #mor_cy_dar
2014-05-30 21:19:25「あと、日本の教習システムにも興味がありましたし。 聞けば、公道でなんの役にもたたない、ほーきそーこーとか言うのに重点を置いてるのでしょう? まったく、そんなだから渋滞がなくなりませんのに」 #mor_cy_dar
2014-05-30 21:19:44