起承転結

ストーリー構成の基本のように語られる起承転結。実は世界的には例外で、欧米では日本の能などの序破急に通じるところのある三幕構成がメジャー。
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竹熊健太郎《Aタイプ》 @kentaro666

⒈ 起承転結は元来、漢詩の絶句(四行詩)形式を指す言葉であり、西洋にこの概念は無い。西洋で一般的な作劇形式は三幕構成である。三幕構成は「設定 → 対立 → 解決」のことで、能の構成である序破急に近い。我が国に於いてなぜ国際的にマイナーな起承転結が主流になったのか、よく分からない。

2014-06-02 05:44:09
竹熊健太郎《Aタイプ》 @kentaro666

⒉ 仮説を立てると、元からあった四コマ漫画の型に起承転結がピッタリ嵌ったからではないかと思うのだが、ではなぜ初めに四コマ漫画があったのか、なぜ三コマ漫画ではなかったのかを考えると、よく分からなくなってしまう。因みに西洋の四コマには起承転結は無い。スヌーピーを見るとよく分かる。

2014-06-02 05:50:55
竹熊健太郎《Aタイプ》 @kentaro666

⒊ スヌーピー(『ピーナツ』)はその大部分が「連作ストーリー4コマ」であり、多くは4コマでは明確なオチはなく、8コマや16〜32コマでようやくオチる形式。欧米ではスヌーピー物に限ったことではなく、このことからも4コマに起承転結を当てはめるのは日本独自であるように思われる。

2014-06-02 05:54:18
竹熊健太郎《Aタイプ》 @kentaro666

⒋ さて起承転結、序破急、三幕物全てに共通しているのは「転 = 転換点 = ターニング・ポイント」に相当する概念があることである。(因みに三幕物が基本の西洋では、起承転結は人気がなく、しばしば間延びすると思われて人気がないようである。「承」が余計に思われるようだ)。

2014-06-02 06:04:08
竹熊健太郎《Aタイプ》 @kentaro666

⒌ ドラマに必要不可欠なものが「転」である。しばしば転はクライマックスと同義に考えられるが必ずしもそうではなく、ドラマを均等に四等分して転が来る訳でもない。これは起承転結の順番を入れ替える意味ではない。極端に言えば作品の最終ページに転が来て最後の1コマが結、の構成もありうる。

2014-06-02 06:18:36
竹熊健太郎《Aタイプ》 @kentaro666

⒍ 終結部に「転」が来る例を挙げる。平田弘史『歪』。mavo.takekuma.jp/ipviewer2.php?… この作品は起承転結の起承で全体ページの9割を費やしているが、承全体を使って人間関係の緊張感を限界まで「追い詰める」構成で、間延びするどころが読者は息を詰めて読み進めるしかない。

2014-06-02 06:25:54
竹熊健太郎《Aタイプ》 @kentaro666

⒏ さてハリウッド流シナリオ術の教科書を読むと、しばしば「ターニングポイントは2回作れ」という記述に出くわす。起承転結なら「起・承・転・転・結」にしろ、というのである。ターニングポイント1は「主人公の状況の転換」で、ターニングポイント2は「主人公の心境の転換」であるという。

2014-06-02 06:33:26
竹熊健太郎《Aタイプ》 @kentaro666

⒐ 例えば「起」で傲慢な大富豪が登場し、「承」で彼の傲慢さが描かれ、「転1」で彼がホームレスになる(状況の転換)。そして「転2」でこれまで貧乏人をバカにしていたことを深く反省する(心境の転換)。この状況・心境の変化が合わさったものが「物語」なのである。

2014-06-02 06:38:18
竹熊健太郎《Aタイプ》 @kentaro666

10. 「転」は文字通り物語が大逆転するターニングポイントなのであり、多くはここがクライマックスになるのだが、逆転を伴わなければ、どんな強大な敵が出現して派手なバトルを繰り広げても「転」ではない。これがしばしばトーナメント・バトル形式の物語のドラマが希薄になる理由である。

2014-06-02 06:46:03
竹熊健太郎《Aタイプ》 @kentaro666

11. 最後に、永井豪『デビルマン』の構成を考える。『デビルマン』の本篇は全5巻構成。「1巻・デビルマン誕生篇」「2巻・ジンメン篇」「3巻・妖鳥シレーヌ篇」「4巻・悪魔特捜隊篇」「5巻・終結篇」である。現代の編集者が見て「あ〜勿体ない!」と思うのは2〜3巻だろう。

2014-06-02 06:53:35
竹熊健太郎《Aタイプ》 @kentaro666

12. 2巻と3巻は全体の「承」であり、エピソードとして前後から独立している。しかもこのエピソード、かなり良く出来ているのである。現在の漫画構成法なら各3〜5巻は引き伸ばせそうなのである。さらに「○○篇」「○○篇」と串団子状に連ねて行けば、全100巻引っ張り続ける事も夢ではない!

2014-06-02 07:01:19
竹熊健太郎《Aタイプ》 @kentaro666

13. 永井先生はそうはせず、サブエピソードはサッと切り上げたから、ドラマは緊張感を喪わずに「転」に入ることができたのである。デビルマンの「転」は人類が叡智を結集して悪魔特捜隊を組織、悪魔に対する反撃を開始してからである。しかし、人間には悪魔とデビルマンの区別がつかなかった。

2014-06-02 07:09:23
竹熊健太郎《Aタイプ》 @kentaro666

14. (以外ネタバレあり)『デビルマン』全編の転換点でクライマックスは悪魔特捜隊篇である。悪魔を研究した人類は、科学の力で遂にこれと対峙する力を手に入れたが、パニックから錯乱状態に陥り、悪魔とデビルマン(悪魔の超能力を獲得した人間)と普通の人間の区別がつかなくなっていた。

2014-06-02 07:19:58
竹熊健太郎《Aタイプ》 @kentaro666

15. 見境のない魔女狩りが始まる。そして主人公・不動明の恋人まで虐殺され晒し首となり、ここに至り、それまで人類の為に悪魔と戦っていたデビルマン不動明は悟る。真の悪魔は人間だと。起承転結史上稀に見る大逆転だ。こう考えると、2巻3巻と、それ以降が異質な展開であることが理解できよう。

2014-06-02 07:24:56
竹熊健太郎《Aタイプ》 @kentaro666

16. 先ほどのハリウッド脚本術の考えから行くと、ターニングポイント1が「悪魔特捜隊の出現で主人公が脇役となる」ことであり、しかも状況が余計に悪化する(人間同士で虐殺を始める)である。そしてターニングポイント2が「真の悪魔は人間」だと主人公が悟ることである。

2014-06-02 07:32:50
竹熊健太郎《Aタイプ》 @kentaro666

17. 『デビルマン』には、もうひとつ「転」が仕込まれている。「○○○の正体が実は○○○」がそれである。しかもこれは、最初にあげた「転1」と密接に絡んでいて唸ってしまうのだが、永井先生の告白によると、少なくとも1巻目執筆時には想像していなかった「偶発的展開」なのだという。

2014-06-02 07:38:23
竹熊健太郎《Aタイプ》 @kentaro666

18. ここまで書いて自説を裏切るようで何だが、『デビルマン』はプロットを立てず描き進められた作品なのである。しかしその場の思いつきが後からパズルのようにピタリと嵌った「奇跡の作品」であるのだ。もっとも「無意識のプロット」はあったはずで、無用な引き伸ばしに入らなかったことで、

2014-06-02 07:39:52
竹熊健太郎《Aタイプ》 @kentaro666

19. 作者がサブエピソードを脇見せず、本篇の展開に集中したことが好結果に繋がったのだと思う。その事で作品は50年後も、恐らく100年後も色褪せない不滅の価値を得たのだ。

2014-06-02 07:42:34
竹熊健太郎《Aタイプ》 @kentaro666

.@kiranaoki 私が作劇のお手本として例に上げる映画にオーソン・ウェルズの『市民ケーン』があります。非常に巧みな構成で、ダレ場が無いから気がつきませんが、これはなんと「転」がラストシーンなんですね。冒頭が主人公の死で、彼は今際の際に「薔薇の蕾」という謎の言葉を発する。

2014-06-02 09:16:09
竹熊健太郎《Aタイプ》 @kentaro666

.@kiranaoki 記者が言葉の意味を探ろうと生前の関係者を尋ね、主人公の実像を観客は知るのですが、「薔薇の蕾」の意味は最後まで分からない。と思わせて、ラストシーンでそれが分かり、意味の意外性に観客はあっと驚く。一種の推理小説的構成ですね。推理小説は大体最後が転でしょう。

2014-06-02 09:21:07