モーサイダー!~Second Lap~Episode II
- IngaSakimori
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「で、バイクはというと━━こうだ!!」 そう言いながら、山打は乱暴にサイドスタンドを蹴り飛ばした。CB750は支えを失って、ふたたび横倒しになる。 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:12:52「ライダーが支えてやらなきゃ自立すらできない。 もちろん防御装備なんて何一つない。それがバイクなんだ。 バイクを大切にするのはいい……愛着を持つのも悪くない。けどな、それが行き過ぎると、いざって時に危ないんだ」 「でも━━」 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:13:04「普通の教習生には、こんなこと言わないんだけどな。 どうもお前はいい腕してるみたいだからな……この意味が分かると思って言うんだ。 時には大事な愛車を放り投げることが、命を守るケースもある。覚えておくんだな」 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:13:19「………………」 無言で志智はうなずく。 納得はしていない。しかし、その言葉は受け止めたという目で、山打を見る。 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:13:28「よしっ。さてと、次は瀬尚。君だな」 「エストレヤ……」 「わかったわかった。エストレアじゃなくてエストレヤな」 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:13:43「ほら、起こしてみろ。三鳥栖みたいに簡単にはいかないぞ。 まずはブレーキレバーを握って━━そうだ。そうしないとタイヤが動いちまうからな……それでもうちょっとかがんで……」 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:14:11「こ、こうですか?」 「よーしそれでいい」 フロントブレーキを利かせ、タンクへ腰を横から当てるような姿勢になったところで、山打は指示を止めた。 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:14:23「よーし、そのまま立ち上がるイメージだ。起こしてみろ」 「ふっ……んんん~~~!!」 「………………」 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:15:11「んんんんんんんんんんんん~~~!!」 なかなか起き上がろうとしない車重240kg。玲矢の顔はどんどん紅潮していき、必死に力を込めているというより、頬を思いっきり膨らませたタコのような形相になっていく。 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:15:23「ふぐぐぐぐぐぐ~~~~~!!」 「おいおい……ちょっとキツいか~?」 「……頑張れ」 志智がその言葉をこぼしたのは、ただ何となくであり。 無言で立ち尽くしていても、どことなく手持ちぶさたであるからに過ぎなかった。 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:15:44「━━はっ!?」 「…………?」 しかし、志智と目をあわせたその瞬間、玲矢はオーバーヒートしたラジエターのように、顔から湯気を立ち上らせる。 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:15:56「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 「お、おぅっ!? なんだなんだぁ!?」 悲鳴のような叫びと共に、CB750の巨体が起き上がった。 それだけではない。勢いがつきすぎたのか、反対側へ倒れてしまう。 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:16:15「お、おいおい……やりすぎだぞ。まあ、一応引き起こしは合格だな」 「はぁっはぁっ……はあぁぁぁ……す、すんごい変な顔になってるの見られちゃったよぉ……ううう」 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:18:23「……良かったな」 「良くないよぉ!」 涙目になって言う玲矢。 せっかく引き起こせたというのに、一体何が良くないのだろうと志智は思った。 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:18:33引き起こしの後は、八の字の取り回し。 そして、発進の作法を一通り教わり、外周を何回かまわって、初回の教習は終了した。 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:19:05「志智くん、お疲れ様~。すっごい疲れたね!」 「……ああ、そうだな」 プロテクターを外しながら玲矢が言う。 そんなに疲れる内容だっただろうかと思いつつも、無碍に否定しない程度の社交性を志智は身に付けつつあった。 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:19:15「はっ!? あ、あたしったら馴れ馴れしく志智くんなんて……ご、ごめんなさい。 えっと、三鳥栖くん、今日はとても疲れました……で、ですね」 「いや、そんなにかしこまらなくてもいいさ。 別にどっちが偉いわけでもないんだしな」 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:19:26「あ……そ、そうだよね! おんなじ教習生だもんね! だよねっ!!」 なくし物を見つけた時のような笑顔は、やはり志智にはどこかまぶしかった。 どうしてこんなにポジティヴに笑えるのだろう。少しだけティックに似ているな、などと思ってしまう。 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:19:36「えっと……そ、それでね。志智くん、次はいつに予約するつもり?」 「そうだな。まだ決めてないけど」 「も、もし……もしっ、良かったら今度も━━!!」 それは教習の合間。 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:19:48コースを走りまわる車輌などいないと分かっていても、誰もが過剰なほどの左右確認をして、道路を横断する。 それが教習所という世界だ。しかし横断歩道の先へたどりつけば、そこはもう日常だ。運転免許を取る。そのためのペルソナは脱ぎ捨てて、いつもの自分に戻ればいい。#mor_cy_dar
2014-06-08 23:20:00━━そんな時だった。 「志~智~♪ 待っていましたわ~♪」 「………………は?」 視界の先。明らかに作り物の猫なで声で、手を振っているゴスロリ女がいる。 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:20:24そのオッドアイは紛れもなく志智へ向けられ、長い金髪と相まって、教習所という空間では、異様な雰囲気を醸し出している。 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:20:32「亞璃須?」 「うふふ、志智ったら♪ 疲れたでしょう? 汗を拭いてさしあげますわ~。 さ、こっちへ来て♪」 「え、えっと、あの……し、志智くんこの人……誰?」 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:20:43「あらあらあら♪ こちらにいるどこかの馬の骨みたいな方は、どなたですの、志智?」 「……前に話しただろ。一緒に教習受けてたんだ。 今日は一体どうしたんだよ、亞璃須」 #mor_cy_dar
2014-06-08 23:20:55