モーサイダー!~Second Lap~Episode III
- IngaSakimori
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(本当に……あの頃みたいに。 亞璃須と出会った頃みたいに、二人で走りまくったよな……) 同じ大学に通っているというのに、キャンパスで顔を合わせる時間よりも、バイクでホイールを並べている時間の方が長いほどだった。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:40:07「まあ、お望みならハーフウェットも極めてみます?」 「そんなつもりはないよ。 びしょ濡れだったらあきらめもつくけど、中途半端に濡れていると、なんかイライラするんだよな。橋の継ぎ目とか、白線とかやたらと滑るしさ……」 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:40:25そのとき、ふるさと村の方面から甲高い排気音が響いてきた。 ハイグリップタイヤを履いた最新型のCBR1000RRが、川野駐車場へ滑り込んでくる。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:40:42カウルと同系統の鮮やかなウェアに身を固めたライダーは、あきらかに落胆した様子で肩を落とすと、そのまま小河内湖方面へ走り去っていった。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:40:47「今日は日が沈むまでぐるぐるしたかったけど、アテが外れた……という感じでしたわね」 「俺も似たようなもんだけどな」 「それじゃあ、小菅の方にでも行ってみます? 温泉もありますし」 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:40:59「おいおい、なんで普通のツーリングになるんだよ。俺はここを走りにきたんだぞ」 「む~ん」 自分は大多磨周遊道路を走るのだ。他をツーリングしても仕方ないのだ。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:41:10(まったく……いい加減、いろんなバイクの楽しみ方を覚えても良い頃だと思いますけれど) 一途というにはどこか子供っぽさすら感じられる志智の言葉だったが、亞璃須にとってはむしろ好ましい。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:41:20(だって志智が言う『走る』は……) 他の誰でもない。日原院亞璃須と走ること。 そういう意味であるからだ。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:41:28「どうしましょうかねえ……」 「だから温泉なんて行かないって」 「それは分かっていますわ」 そんな志智の心中を思うと、亞璃須は俄然、バイクに乗りたくなる。志智と一緒に大多磨周遊道路を走りたくなる。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:41:43(今日は『捨てて』いたのですけど……志智とおしゃべりできれば、それでいくらいでしたのに) 亞璃須からすれば、中途半端なウェット路面のオンロードを走っても、限界はわかりにくいし、何一つ面白いことなどない。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:41:56(まあ、オフロードなら別の楽しみもありますけれど) だからこそ温泉でも入りにいこうかと、彼女は誘ったのだ。 しかし、三鳥栖志智はこの周遊を走るのだという。それはつまり、日原院亞璃須も一緒に走ってほしいと懇願されているに等しい。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:42:07━━少なくとも、彼女は彼の言葉をそのように解釈している。 「うふふふふふふふふふふふふふふふ」 「なんだ、急に気持ち悪い声だして……」 「これはもう、恋愛感情というより、母性の領域ですわね」 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:42:26「一人でブツブツ納得されても意味わからないぞ。 とにかく、上の方ならちょっとは乾いてるかもしれないし、俺は行ってみる。亞璃須はどうする?」 「それはもちろん━━」 自分も行く。一緒に走る。 亞璃須がそう言いかけた時だった。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:42:36「あっ……ほ、ほんとにいたっ! 志智くんっ! 志智くーんっ!!」 「あれ?」 「む」 油断していると聞き逃してしまいそうなほど、控えめな排気音が近づいてきたかと思うと、女性の声が川野駐車場に響いた。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:42:56それは一言でいえば、人なつっこい。 しかし年齢を考えると、どこか幼い。そう表現して良い声であり、志智も亞璃須も知っている声だった。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:43:06「わーっ、わー!! 志智くんだー! 教習所じゃないのに志智くんに逢っちゃったー! やったー!! 大多磨によく来るって、ほんとだったんだね!」 「なんだえーっと、瀬尚……さん、か」 志智の視線の先には、クラシカルなカワサキ車が止まっていた。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:43:20もっとも、重厚感よりはどこか華奢なイメージを受けるマシンである。モーターサイクルというものの基本を凝縮したような、鉄フレームと単気筒空冷エンジン。光り輝くスポークホイールの後輪側は、古式ゆかしきドラムブレーキである。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:43:30「えへへ~! これね、あたしのバイクだよ! カワサキのエストレヤ! エストレアじゃないからね、教官みたいに言ったらダメだからね!」 「ああ……そういえば、なんか言ってたな」 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:43:51「へえ、カワサキはこういうバイクも作ってるんだな。なんだか瀬尚さんに似合ってるよ、それ」 「せ、瀬尚さんなんて……他人行儀だよっ。 あたしのことは玲矢って呼んで。で、できれば、呼び捨てで」 「ああ、分かったよ玲矢」 「わっ……う、うんっ!!」 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:44:17「………………」 頬を染めながら満開の笑顔を咲かせる玲矢。 亞璃須は無言でチェアから立ち上がると、志智の傍らへつかつかと歩み寄り、右足を軽くあげた。 そして、力の限り踏み下ろす。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:44:45「……何するんだよ、亞璃須。ライダーブーツのつま先踏んでも痛くないぞ」 「そんなことは分かっていますわ。要はわたくしが怒っていることが伝わればいいんです」 「別にいいだろ、ちょっと話すくらい……」 「そのちょっとが油断ならないんですっ」 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:45:01「あ、あはは……」 「ふん」 困ったような顔の玲矢に、視線をあわせようともせず、亞璃須はハイエースへと向かう。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:45:11「あの……え、えっと。 嫌われちゃった? あたし、来ない方が良かったかな……」 「いや、別にバイクに乗ってる奴がどこへ行こうと自由だろ」 「うーん、そうなんだけど、日原院さんなんだかすごく怒ってるみたいだし……」 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:45:24「……日原院さん、ね。 それこそ他人行儀じゃないか。あいつのことは亞璃須でいいよ」 「そ、そうなの?」 「ああ、俺が許可する」 「そうなんだ……」 当たり前のように言った志智に、玲矢は心なしか肩を落とした。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:45:36「……やっぱりそういう仲なんだ……」 「なんだ?」 「あっ、う、ううん! なんでもないっ! えーと……わっ、亞璃須さん出てきたよ! すごーい! ツナギだー!」 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:45:58