モーサイダー!~Second Lap~Episode III
- IngaSakimori
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照明がともる。 夕闇の支配へ抵抗するように、教習コースを過剰なほどの光が包む。 横断歩道に立つ瀬尚玲矢(せなお れや)は、まるで夜間飛びだしの歩行者を実演するかのように、ふらふらと体を揺らしていた。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:33:00「かっ、彼女……彼女ってなに? 彼女ってあの、かのっ……しーじゃなくて、彼女……そういう意味の彼女ですかー!?」 「……いや、その何というか」 「うふふふふふ♪」 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:33:22「いやああああああああああああああああああああっ!!」 困ったように志智が顔を背け、亞璃須が満足げに笑う。 玲矢は明日、地球が終わると知らされたような叫び声をあげると、横断歩道からコース上へ━━つまり、道路へ走り出し、しかし何もないところで転んだ。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:33:44「へぶっ!? ううう……は、鼻打っちゃった……」 「あらあら、どうしましたの? 道路へ出たら危ないですわ……今が教習時間だったら、危うく大事故ですわね」 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:33:56「ひ、ひぃっ」 悠々と歩み寄る亞璃須をみあげながら、玲矢は怯えるように体を震わせた。志智はそんな玲矢を眺めながら、ハンターに狙われた子鹿のようだなと思っていた。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:34:25「あ、あわっ、あわわ……あのあのあのっ」 「なんかしら?」 「えっと、その……し、志智くんとは、どういう関係なんですかっ?」 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:34:39「ですから彼女と━━」 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! そ、そっ、それ以外でお願いしますうううううううううううう!!」 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:34:52「ふーん、なるほどなるほど」 端から聞いていると、意味不明にしか聞こえない玲矢の受け答えだったが、当の亞璃須は何らかの意味を見いだしているらしかった。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:35:07「そうですわね。 志智は……わたくしにとって仲間でもありますわ」 「な、仲間……ですか?」 「ええ。同じバイクに乗る仲間です」 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:35:17「バ!! バイクだったら、あたしだって乗ってます!!」 足がかりをつかんだ。ここにしがみつけば何とかなる。 玲矢の瞳にはそんな感情がこもっていた。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:35:30「まあ。それはそれは」 対する亞璃須は。 上品というより、冷酷無比と表現した方がよい微笑みをうかべると、胸元からカードケースを取り出す。 そして、一枚の『なにか』を玲矢へ見せつけた。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:35:52「に、日原院……亞璃須、さん……」 「ええ、わたくしの名前です」 「ちょっと前に19歳になったばっかり……あ、あたしと同い年ですね」 「そうですわね。志智とも同じ年です」 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:36:06「それで、バイクの免許も持っていて━━お。 おぁ……お、ぉ、がたっ……大、自、二、ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」 「まあ、つまるところそういうことです」 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:36:28本来、道路へ向けられているはずの照明をスポットライトがわりにして、優雅に髪をかきあげてみる亞璃須。 その免許証には普通自動二輪の表示に加えて、玲矢がこれから目指そうとしている『大自二』の三文字があった。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:36:37「うっ……ううう……ううう~~~~~~~~~~!! 負けたあ~~~~~~~!」 「ふふ……勝利とは時としてむなしいものですわね……」 アスファルトの舞台で、勝者と敗者が笑い泣いている。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:36:54「あいつら、いったい何やってるんだ……」 いつの間にか亞璃須と玲矢は教習所中の注目を集めていたが、志智は他人を装おうと少しずつ遠くへ離れていくのだった。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:37:34数日後━━土曜日がやって来る。 梅雨入り宣言が出されたばかりの関東だったが、曇りの予報に賭けたライダーたちの数は、意外なほど多かった。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:37:51(また来た……よくやるもんだな) 大多磨周遊道路・川野駐車場の一角に立てば、とても降水確率40%の日とは思えないほどの頻度で、モーターサイクルの排気音が通り過ぎては、ふたたびどこからかやって来る。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:38:31「といっても、こう路面が濡れてるんじゃ気持ちよく走れたもんじゃないけどな」 「まあ、峠(やま)にはこういう日もありますわ。人生、余裕を持つことが大切です」 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:39:06VT250スパーダのシートにもたれかかりながら、ライダーブーツの踵で不規則なリズムを刻む志智は、見るからにフラストレーションをため込んでいた。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:39:14それに比して、パラソル付きでセットされた椅子に悠然と腰かけて、紅茶をすする亞璃須は、余裕があるどころか走るつもりすらないように見える。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:39:18「志智も一杯いかが? よければ、わたくしが直々にいれてさしあげますわよ」 「今はいいよ。 そうやってゴスロリでお茶してる亞璃須を見るのも、なんだか久しぶりな気がするな」 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:39:35「春はとにかく走ってばかりでしたものね。 まるで去年みたいに」 「……そう、だな」 天候が安定していたこともあってか、卒業間際の三月からゴールデンウィーク前は、あきれるほど大多磨周遊道路を走り込んでいた二人である。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:39:46