モーサイダー!~Second Lap~Episode III
- IngaSakimori
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「わーわー!! 着替えたの? 車の中で着替えたの? うわー、すごーい! かっこいいー!!」 「……何がなんだかわかりませんけれど」 まるでヒーローを前にした子供のようにはしゃぐ玲矢を、半眼でみつめながら亞璃須は溜息をつく。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:46:11「志智。わたくしはこの人とお友達になったつもりはありませんけれど」 「そうだな。考えてみれば俺もそういうつもりはないな。 でも、いいじゃないか。 俺達はお互いを知っていて、バイクに乗っているじゃないか。それ以上何か理由がいるか?」 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:46:37「……まあ、それもそうですわね」 亞璃須が肩をすくめると、まるで頃合いを見計らっていたかのように、吉脇がXR650Rを押してきた。 亞璃須はまず左足をステップへ。続く動作で、軽やかにシートをまたぎ、キックペダルをわずかにストローク。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:46:47かちん、という音がした。左手がデコンプレバーを引く。軟骨を口で転がしたような感触が伝わってくると、少女の右足は650ccエンジンのキックペダルを踏み下ろす。 ド、と鳴る。ドド、と続く。そして、XR650Rのエンジンはその心臓音を響かせ始めた。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:46:59「わあ……本当に大型なんだあ……すごいなあ……すごいなあ……」 「じゃ、走りましょうか志智。 ……もし良かったら玲矢さんも一緒に」 「は、はいっ! ふつつか者ですが、お供します!」 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:47:21「そんなかしこまらなくていいよ。好きに走ればいいんだ……バイクなんだからさ」 志智もスパーダのエンジンを始動させた。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:47:38巨大なビッグシングルの鼓動と、VTエンジンのハーモニーの前では、過剰なほどの静音対策を施されたエストレヤのエキゾーストノートは、囁き声にも等しかった。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:47:48ゆっくりと━━三台のモーターサイクルが走り出す。 道はところどころ濡れていた。空気は湿っていて、いつ雨が降り出すともしれなかった。 気温も意外に高く、不快指数で表すならひどい数値が出るに違いない。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:48:04(まあ……たまにはこんなのもいいか) だが、志智にとってはなぜか快適きわまりない時間だった。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:48:28先頭を行く亞璃須は、何を思ってか速度を50km以上にあげようとしない。7000rpmにも達しないVT250スパーダのタコメーターを眺めながら、志智は先ほどまで胸元にわだかまっていたストレスが、すっかり消えてなくなっていることに気がついた。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:48:47ミラーを見れば、玲矢の駆るエストレヤはコーナーひとつ抜けるたび遠くなっては、一生懸命スピードをあげて追いついてくる。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:49:01「そうだな……こんなのもいいな」 声も届かない。顔も見えない。 しかし、彼も彼女もいる。バイクに乗る仲間たちがそこにいる。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:49:19「……あくまでたまには、だけどな」 それだけで十分、満たされる気分だった。 風が流れていく音に耳を澄ませながら、三鳥栖志智は経験したことのない安らぎに、目を細めていた。 #mor_cy_dar
2014-06-15 22:49:30