私が恐れるものは、残念ながら日の落ちた闇にはありません。 確かに我々は非力でしょう。水底に潜む者や、夜の海上に浮かぶ者の前には。 然し其れで死するならば、其れは宿命以外の他ならない。(2) #ラバウル少佐日誌
2014-06-29 00:23:02私には恐れるものなど無いと、あの男に気を掛けていた頃には考えていました。 あの男の振るう杖となり、あの男が手に掛けた引き金の向こうとなる事だけが生き甲斐で会った頃、 私には失うものが何一つありませんでしたから、 其れは自分自身至極理解し得る結論でした。(3) #ラバウル少佐日誌
2014-06-29 00:30:36あの男には、それだけ期待をしていたのかもしれません。 否……。 今思えば、『彼女』をあの男の中に見出そうとしていただけであったのかもしれません。 彼女との共通点など大飯食らいである事位しかなかった、あの卑しく憎たらしい笑みの印象的な……。(4) #ラバウル少佐日誌
2014-06-29 00:35:02瞼の向こうが明るいのは、きっと藍色の天上から差す月光のせいでしょう。 煩わしい眠気が、瞼を重くしているのです。 然し。 寧ろこの重さを引き上げる事に、私は少しの快楽を覚えました。 (6) #ラバウル少佐日誌
2014-06-29 00:42:31右からは、やや下品な寝息。 左には、美しく、儚く、おぞましく、醜く、そして優しく誘う静寂……。(7) #ラバウル少佐日誌
2014-06-29 00:42:55私の終焉はあの無価値な男にしか悲しまれないものであった筈でした。 そしてあの男が悲しむ理由も、唯々己の振るう剣、或いは刃向かう者の息の根を止める火砲が一つ壊れて消える事へ向けられているのみ……。 そうあれかしと私は望んでいました。(8) #ラバウル少佐日誌
2014-06-29 01:20:58全てが変わってしまったのは、彼女が現れてからでした。 元々艤装の縁も強く有った私達でしたが、 彼女が赤城の艤装を着け、私のいる此処へと務めに来る事は、全く期待してはいませんでした。 後々になり、この偶然はあの男が取引で意図的に起こしたのだと知りましたが。 (9)#ラバウル少佐日誌
2014-06-29 01:28:10彼女は先ず、私が今までいた場所の全てに、私の代わりに立つようになり始めました。 私の代わりにあの男に相槌を打ち、 私の代わりにあの男へ紅茶を淹れ、 私の代わりにあの男の為に戦って、 ……。 彼女は私と違い、とても上手く微笑み、くすくすと可憐に笑うのです。(10)#ラバウル少佐日誌
2014-06-29 01:39:47次に彼女は、私が睨みつけてやっと頭を下げた者達を笑顔だけで動かし始めました。 それも私の時とは違い、皆は彼女の為に喜んで尽くすのです。 然し彼女は私に尽くさせる事は、決してありませんでした。 逆に彼女は私を労わるのですから、その光景は些か滑稽でした。(11) #ラバウル少佐日誌
2014-06-29 01:46:44私は彼女へ嫉妬心を抱く事はありませんでした。 彼女が何を思い其の様に振る舞うのかを、私自身知っていたのです。 そう。 私は軍属となる以前より、彼女とは親しくあったのです。(12) #ラバウル少佐日誌
2014-06-29 01:51:27……夜が終わろうとしているのを、私は遠くの群青色になった空を見つめ、覚りました。 今日のところは、この辺で終わりにしておきましょう。 私は、再び、眠気へ、この、身を、委ねるつもりです……。(続く) #ラバウル少佐日誌
2014-06-29 01:54:13