モーサイダー!~Second Lap~Episode IV
- IngaSakimori
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それからしばらくの時が流れた。 (よっ……と) ステップの上に立ちあがり、ハンドルから伝わるごつごつという振動をやり過ごしていく。 大型二輪教習ならではの波状路だが、志智からすればごく細い減速帯を連続して乗り越えているようにしか思えない。 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:49:28(これでいちいち段差のたびに、アクセル開けるっていうのも……な) お世辞にも丁寧にできてはいないはずなのだが、教官からは特に何の修正指示も飛んでこない。スタンディングの姿勢で、とりあえず規定秒以上で乗り越えられればいいということなのだろうか。 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:49:43波状路を抜けると、スラロームが待ち受けていた。志智にとっては、得意というより好きな課題である。マシンを大きくバンクさせて、アクセルをひねるたびに、心地よいGが押し寄せてくる。 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:49:55「それにしても、セルフステアっていうんだっけ……ハンドルが凄く取られるよな」 外周をまわって、クランク。バイク便のライダーでもある志智が、今更、手間取るようなポイントではない。 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:50:15一本橋はやや苛立ちを覚える課題だった。どうせならゆっくり通過するのではなく、とれだけ高速で通過できるか、といった課題ならばいいのにと思ってしまう。 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:50:20「リアブレーキってあんまり使わないから、どうも慣れないな」 「わ、わわ、わわわわ!! きゃー!!」 声の方向をむくと、並んだもう一本の鉄板を行く玲矢(れや)が、ぐらぐらと車体を揺らしながら、それでも落下はせずに渡り終えている。 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:50:53(……で、最後にこれ、か) コースの端にある急制動の区間。パイロンの先には、ご丁寧にもタイヤバリアまで備えられている。きっと、何人か壁に突っ込んだ教習生がいたのだろう。 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:51:12「よっ」 CB750のアクセルを一捻り。大排気量とはこういうものなのか、と錯覚してしまうほどに、吹け上がりは緩慢である。それが教習仕様ならではのデチューンであることは、志智にはわからない。 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:51:27それでも普通二輪に比べれば、そのトルクは化け物といってよいのだ。たちまち時速40kmまで加速したCB750。急制動開始ポイントを知らせる、二本のパイロンの間を抜けると同時に、志智はぎゅっとブレーキレバーを握りしめた。 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:51:41が、それだけではない。 三本の指でブレーキレバーに力をこめたまま、手のひらを器用に使って、小刻みにアクセルをあおる。左足がシフトペダルを踏みつけ、左指はクラッチレバーを拳銃の早撃ちでもするように、二回引いていた。 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:52:01「……お前はアホか」 合格基準を遙かに上回る短距離で、停止した志智のCB750に並んだ教官の山打は、ジト目になりながら個人ファイルを留めたホルダーで、ヘルメットを小突く。 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:52:24「何度言ったらわかる。ここは教習所なんだ。筑波のヘアピンじゃないんだから、そんなブリッピングはいらないんだぞ」 「でも、こうやった方が短い距離で止まれるじゃないですか」 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:52:35「そりゃあそうだがな……とにかくフロントブレーキだけでもお前は余裕なんだから、卒検ではちゃんとやってくれよ。 むしろ瀬尚の方がまだ怪しいから、いろいろ教えてやってくれ」 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:52:57肩をすくめながら、山打(やまうち)はまさに急制動区間へ進入しようとする玲矢(れや)のマシンへと視線を移した。 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:53:13「教えてやってくれ、って言われてもな……」 それこそが教官の役目なのではないかと、志智は首をひねりつつも、合格ラインぎりぎりで停止した玲矢のブレーキングを、確かに危なっかしいなと感じていた。 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:53:21何点かの指摘事項はあったものの、第二段階の見極めは志智も玲矢も合格という結果で終了する。 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:53:42「よーし、オーケイだ。 三鳥栖はいまさら言うことはない。教えた通りにやれば大丈夫だろ」 「どうもありがとうございました」 満足しているというよりは、納得いかないような顔で評価を記入している山打に、志智は軽く頭を下げた。 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:53:51「しかし……なあ」 「なんですか?」 「本当に何も『やってない』のか? どう考えてもこれから免許をとる奴の腕じゃないんだがな。まだ19だろ……無免で昔から乗り回していたとか、そういうことはないのか?」 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:54:00「教官がそんなこと言わないでくださいよ」 「そうは言ってもなあ」 山打は首をひねりながら、合格の欄に印を押す。 そのとき、志智は頬に熱いものを感じた。その正体は視線である。首を巡らすと、尊敬のまなざしでこちらを見上げている玲矢の瞳があった。 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:54:11「すごーい! 志智くん、さすがだね! 後ろから見てても、とってもスムーズだったもん! きっと才能が違うんだねっ!」 「才能って……まだ免許を取る前じゃないか」 「でも、やっぱりすごいよ! 憧れます!」 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:54:24「あー、瀬尚(せなお)はいちおう合格だが、油断すると卒検落ちるから気をつけてな。 安定感が足りない。ま、もう数時間乗ればマシになるんだろうが、大型教習は時限が少ないしな……」 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:54:49「はい、教官! あたしは今、志智くんと話してるのに割り込むのは良くないと思います! そんなだからエストレアとエストレヤを間違えるんです!」 「……ああ、それはどうも」 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:55:05「言っとくが、卒検の担当官は女の子だからって贔屓とかしないからな」 ぐったりと肩を落としつつ、山打が玲矢のファイルにも合格印を押すと、ちょうど教習時間の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:55:17