モーサイダー!~Second Lap~Episode IV
- IngaSakimori
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「ところでお前ら、卒検の予約はいつ取るんだ?」 「今週は予定が合わないので、来週末にしようかと思ってます」 「あ、はいっ! それじゃあ、あたしも来週末にします!!」 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:55:28「そうか。最後まで一緒に……いや、瀬尚がひっついてるだけか。 どうせなら一発で受かれよ。どうも一度失敗すると、落ち癖というか、うまくいかない奴がいるからな」 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:55:37「……ありがとうございました」 「ありがとーございましたー」 「それじゃーなー」 ぷらぷらと手を振りながら去っていく山打。 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:55:48(これでもう会うこともないのかな……) そんなことを志智が思いながら、やる気のない背中を見送っていると、不意に玲矢が肩をつついてきた。 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:56:03「ねっ、ね、志智くん。楽しみだね、卒検!!」 「楽しみ……っていうほどじゃないけど。 とりあえず、これで区切りだからな。無難にこなさないと」 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:56:19「んも~、志智くんったら、いつもそうやって大したことないって顔して~! で、でも、そこがクールでかっこいいなあ……って思うんだけど」 「ん? なんだ? 小さくてよく聞こえなかったけど」 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:56:29「あはは……えっと、あの、クーラントの話、です。冷却水のこと……うん」 玲矢は慌てたように首を振りつつ、車庫の隅にならんでいる、真新しい大型教習車を指さした。 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:56:37「ああ、あの新しいバイクは水冷なのか」 「うん、NC750。ホンダの新しいやつ。 燃費がよくて、回らなくて、パワーもなくて、二気筒で、空冷じゃなくて……これだからホンダはダメなんだ! ━━って、おとーさんが言ってましたっ」 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:56:49「お父さん、ね」 きっと家に帰れば、いつも教習の様子を聞いてくれるのだろう玲矢の父親。 どんな人なのだろう。どんな性格なのだろう。どちらにしても、父と呼べる人が今もこの世に存在しているだけで、志智には羨ましく思えてしまう。 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:57:07「玲矢は父親の影響でバイクに乗り始めたのか?」 「うん、そうだよ。もともと、タンデムでツーリングにいったりしてたんだよね。 それで自分のバイクもほしくなって……でも、免許とらせてもらえたのは、大学の推薦が決まってからだけど」 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:57:20「っていうと、高三になってからか」 「はいっ、だからあたし、まだ普通二輪の初心者期間なのでありますっ」 おどけたように敬礼してみせる玲矢。 二人は教習所を出て、駐輪スペースへ向かう。VT250スパーダと並んで、玲矢のエストレヤが車体を休めている。 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:57:37どちらも決して大きいとはいえないマシンである。 四輪教習に来ているのか、少し離れたところに止まっている大型のドラッグスターと比べると、何とも頼りなく見えてしまう。 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:57:46(かといって……大型だから、何もかもいいってわけじゃないだろうな) ドラッグスターの広いハンドルを志智は眺める。すり抜け一つとっても難しそうだ。ステップの位置も低く、そして広く、路肩を抜けようとしてもガリガリと擦ってしまうだろう。 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:57:56「ねえねえ、志智くんはもう買うバイク決まってるの?」 「買うバイク……って?」 「だって、大型免許とるんだから、大型バイクに乗るんでしょ? なに買うの? 志智くんって、おっきいから何乗っても足つくよね~! 羨ましいなあ~」 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:58:09「………………ああ、そういうことか」 ヘルメットをかぶり、グローブをはめながら、そんな会話を玲矢と交わす。 きっと彼女は。瀬尚玲矢(せなおれや)という人間は。 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:58:24(父親がいて、母親がいて……家に帰れば、家族が迎えてくれて) 何の不自由もない家庭に育った人間なのだろう。志智はそう思う。 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:58:46(そうじゃなかったら、こんな無邪気に……訊いてこないよな) 恐らくは進学の費用もポンと出してもらえて、バイクの一台くらい誕生日プレゼントで買ってもらえるのかもしれない。 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:58:49「俺はまだ大型買うつもりないよ」 「へ?」 「金がないからさ。 大型って燃費も悪いし、消耗品も高いだろ。とても二台持ちなんて出来ないよ」 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:59:01「で、でも、下取りすればそんなに高くないんじゃない? ほら、学生ローンだってあるし……」 「このスパーダはバイク便のバイトにも使ってるんだ。ちょっと売るわけにはいかないんだよな」 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:59:10「………………あ」 その言葉から、何を読み取ったのか。 そして、柵で遮られた先を気遣っているような志智の瞳から、瀬尚玲矢は何を理解してしまったのか。 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:59:21「あ……ぅ……」 どちらにしても、彼女が見せた反応は言葉を失い、うつむくことだった。 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:59:29「あ、あのね、志智くん。あたし、別にそんなつもりは……」 「いいんじゃないか? 気にすることはないさ。学生のうちは親に援助してもらっても、別にいいと思うよ」 「……志智くん、あの、そんな顔しないで」 「俺はいつも通りだよ」 #mor_cy_dar
2014-06-29 22:59:42「あ、あたし、志智くんと何も変わらないよっ! 亞璃須さんみたいにお金持ちじゃないもん!! 普通の家の子だよ!!」 「……なんでそこで亞璃須の名前が出てくるのかはわからないけど」 そう言いながら、志智は微かに口元を笑わせた。 #mor_cy_dar
2014-06-29 23:00:03玲矢にはそれが何らかの許しだと思えた。 しかし、実際のところは違う。志智はただ、玲矢の『普通の家』という表現がおかしく思えただけだった。 #mor_cy_dar
2014-06-29 23:00:12(亞璃須が金持ちで、玲矢が普通なら……俺が貧乏で、ちょうどバランスがとれるのかな?) なぜか寂しそうな顔の千歳が脳裏にちらついた。早く帰って、一緒にいてやらないと。無性にそう思えた。 #mor_cy_dar
2014-06-29 23:00:21