筍提督と僻地の泊地 (5)

ミサイル駆逐艦<たいせつ>の名を持つ提督兼艦雄兼学生・筍の、何の変哲もない日々を綴る日記。 (ほのぼの(大嘘)日常編・〈のと〉護衛編)
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筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

「なので、提督、隣にお邪魔しても?」 『構わんよ』 私が肯くと、二人は私を挟んで鳳翔の反対側に腰を下ろしました。艤装が揺れて重い音を立てますが、ヘリの触れ合う音だけは、それらがしっかり固定されているため聞こえません。 #僻地の泊地日記

2014-06-28 22:44:20
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「鳳翔さん、どう?」 <ずいかく>が、私と姉とすっ飛ばして鳳翔に訊ねます。 「そうね……あのパイロットたちなら、あれほど低空まで下りなくても、上手に雷撃できると思うのよ」 鳳翔が敬語を使わない貴重なシーン。一方、<ずいかく>は首を横に振ります。 #僻地の泊地日記

2014-06-28 23:13:34
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「違うよ。ケッコン生活」 『ハハハ、そっちか』 私は思わず笑い、<しょうかく>は慌てて「不躾なことを訊いちゃダメよ!」と叱ります。 鳳翔は静かに言いました。 「提督と同じ考えですよ」 #僻地の泊地日記

2014-06-28 23:20:30
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俺と同じ考え……? 言葉の意味を図りかね、私は彼女の顔を見ました。頬が仄かに赤いように見えます。 <ずいかく>はすかさずターゲットを私に変え、「提督さんはどう思ってるわけ?」 『俺は……』 言いかけて、思い出しました。枕が二つの煎餅蒲団で自分が言ったことを。 #僻地の泊地日記

2014-06-28 23:25:27
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『今以上に幸せな時はないよ』 「まあ……」 先ほどまで妹を叱っていた<しょうかく>が、私の隣で声を漏らしました。 『……恥ずかしいから忘れろ』 「あ、ヘタレは直ってないんだ」 『おい』 #僻地の泊地日記

2014-06-28 23:46:56
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『もういいだろ? 静かに見てろ』 「はーい」 悪びれない様子で<ずいかく>が引っ込みました。<しょうかく>が妹に双眼鏡を渡しながら、体はこちらを向けて「すみません」を繰り返します。 『いいよ、いいよ。それより、お前らが元気そうで安心した。出番がなくてすまんな』 #僻地の泊地日記

2014-06-29 19:46:49
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「私は結構ですが、ヘリのパイロットが実戦を忘れないかが不安です」 『なに、大丈夫だろう。妖精さんは適応能力が高いからな。なんなら、搭乗するヘリを替えてやろうか。同じ艦じゃなくてさ、例えば<しょうかく>から<くまの>とか』 「<くまの>……?」 #僻地の泊地日記

2014-06-29 19:57:56
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彼女はきょとんとした顔になりましたが、すぐに「ああ」と肯きます。 「航空駆逐艦が増えたのでしたね。何のことかと思ってしまいました」 『頼むよ。俺、ちゃんと会議で言ったろ?』 私は笑いながら、同意を求めて鳳翔を振り返りました。 彼女は笑っていませんでした。 #僻地の泊地日記

2014-06-29 20:03:33
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

「提督、また歩きませんか?」 『訓練は?』 「私はいいのです。またの機会に。それより、お話ししたいことが」 あまりに真面目な口調と顔で言うものですから、肯くしかありませんでした。 ヘリ母艦姉妹に『また今度な』と告げて、軍服を羽織り、私たちはまた歩き出しました。 #僻地の泊地日記

2014-06-29 20:10:56

艦娘論

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私は行き先も教えられず、ただ鳳翔の後ろを歩いていました。軈て彼女が立ち止まったのは、演習場が見えるもう一つの場所、浜の上の丘でした。私たち以外に人の姿はありません。 『話って?』 私が促すと、彼女は体ごとこちらを向いて、潮風で乱れる髪を気にも留めずに言いました。 #僻地の泊地日記

2014-06-29 20:46:29
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「同じ姿の艦娘がいることについて、提督はどうお思いですか?」 今度こそ真面目な話だと知って、私はむしろ笑ってしまいました。 『唐突だな。どうした?』 「聴いておきたいんです。提督のお考えを」 あくまで姿勢を崩さない鳳翔を見て、私も頭を掻き、すぐに笑みを消します。 #僻地の泊地日記

2014-06-29 20:50:24
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「同じ艦娘が限りなく存在する」。海軍省が公言していますが、深海棲艦の目的と共に、政府も解明できていないことの一つです。それを問う真意は分かりませんが……。 『俺の足りないオツムに言わせてもらうなら、何らかのメッセージじゃなかろうか』 「艦娘からの、ですか」 #僻地の泊地日記

2014-06-29 20:56:52
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『輸送艦を動かすくらいの権限しかなかった頃の話だが、俺もたまに同じことを考えていた。三人の舞風が埠頭で踊ってるのを見た日は眠れなかった』 私は海の方を向いて腕を組みました。あの頃から、海は広い。 『幾らでも力を貸すからこの海を守れ……って言いたいんじゃないかな』 #僻地の泊地日記

2014-06-29 21:02:38
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「それは、艦娘の意志が、ですか?」 『ああ。奴ら皆――鳳翔もだが――一度、沈むか解体されるかして、その生涯を閉じた存在だろう。その前には、この海に触れた。海のことは俺たちよりも知ってる』 「……ええ」 『人間にとって海がどれだけ大事かも知ってるんじゃないか?』 #僻地の泊地日記

2014-06-29 21:07:25
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『当時の、“艦の形をした艦”に、決して幸せとは言えん最期を迎えさせたのは人間だが、生んだのも人間だ。俺の勝手な考えだが、その姿を変えてでも、人間の海を守ることに手を貸してくれてるんじゃないかな』 言うだけ言った私は、慌てて『すまん、勝手だよな』と付け加えました。 #僻地の泊地日記

2014-06-29 21:13:38
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「いえ、提督のお話を聴けて良かったです」 『なんもだ。それより、俺の自論なんかさっさと忘れてくれ』 また意味もなく頭を掻いていると、鳳翔が私の傍らまで歩み寄ってきました。 「私の考えとは違うのですよ」 『……鳳翔の、考え?』 #僻地の泊地日記

2014-06-29 21:17:05
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

驚きました。まさか、艦娘である鳳翔にも意見があるとは。 『聴いてもいいかな』 彼女は私を視界から消し、しかし静かに肯きました。 「……提督が仰った、私たちが“艦の形”をしていた時代、私たちを操艦し、運用する方々がいました」 #僻地の泊地日記

2014-06-29 21:24:14
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『帝国海軍の水兵さん方、だな』 「ええ。皇国のために、私たちをお造りになり、運用なさったわけです」 『……それで?』 私が鳳翔の顔を覗き込むようにして言うと、彼女は上目でこちらを見ます。 「私たち艦娘の意志は、本当に艦娘を由来とする意志でしょうか?」 #僻地の泊地日記

2014-06-29 22:31:08
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『どういうことだ?』 「あの時代の軍人は、今では想像も及ばぬほどに、国のために命を懸けていました。提督にはご理解いただけるでしょうが」 『これでも提督やってるからな』 「彼らの、国を守らんとする意志の固さは如何ばかりか……それを語る者も少なくなってしまいました」 #僻地の泊地日記

2014-06-29 22:44:50
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

その言葉には、私も同意するしかありません。祖父は父が二歳の頃に亡くなりましたし、祖母も昔のことはすっかり忘れています。私には戦争を語る親族がおらず、学校の授業で初めて知った身なのです。 「あらやだ、ごめんなさい。提督も国を守る方ですのに」 『いや、いいんだ』 #僻地の泊地日記

2014-06-29 22:53:05
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

『それで、なんだけど』 私は、彼女の正面に回り込み、視線を合わせました。 『鳳翔の言う艦娘の意志の由来って、まさか……』 彼女は、今度は視線を逸らせませんでした。 「その由来は、帝国海軍軍人の想いだと、私は考えております」 #僻地の泊地日記

2014-06-29 23:04:17
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

あの戦争の時代を生きた軍人たちの想い、か。 「笑わないのですね」 『笑うとでも思った?』 私の問いにもなっていない問いに彼女が小さく首を縦に振るのを見て、私は微笑んでやります。 『続けてくれ』 #僻地の泊地日記

2014-06-29 23:21:11
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

「日本が太平洋戦争を引き起こしたという点は宜しいですね」 『ああ』 「そう、日本が真珠湾に手を出し、連合国を呼ぶ結果となってしまいました。そして、島国である我が国は、軍艦の建造を強いられることとなりました」 #僻地の泊地日記

2014-06-29 23:27:27
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

「艦を造れば、それを動かす人員も必要です。駆逐艦でも、例えば吹雪型には二百人強の乗員がいました。あの一隻だけでも二百人です」 『大和に至っては、最終時で三千人以上。大所帯だな』 鳳翔はニコリともしません。 #僻地の泊地日記

2014-06-29 23:35:43
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