筍提督と僻地の泊地 (5)
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後から<しょうかく>も来ました。提督が暫く戻りそうになかったので、私たちは食堂に集まってお話をしました。護衛任務そのもののことや海戦の詳細、パラオでの出来事……楽しそうに話すので、犠牲者が出ていないことも分かりました。 この時の私は笑っていることができました。 #南方秘書日記
2014-08-18 23:50:04予想外のことに、私には継ぐ言葉がありませんでした。 呉で何度も旗艦を務めた那智の口から出た言葉がそれだったのです。 『それは、どういった経緯があって、そう思ったのです?』 「護衛の奴らから聞いたと思う。〈のと〉は未確認の兵器に襲われた」 『ええ、聞きましたけど』 #南方秘書日記
2014-08-19 00:00:12「そんな兵器を持った得体の知れぬ敵を、提督は自らの力で消した。……憧れとは違うが、私も強い司令官というものになってみたいのだ」 那智は簡潔に説明してくれましたが、事情を話すだけにしては浮かぬ顔です。それを問うと、彼女は静かに答えます。 「奴が首を縦に振らんのだ」 #南方秘書日記
2014-08-19 00:11:08この能力を持つ者が徒に増えることは避けたい、簡単には認められない……提督はこう仰られたそうです。 「私にはその意味は図りかねる。あの力があれば誰も沈みはしないだろう」 その言葉には重みがありましたが、私は提督の側に立つ他ありませんでした。 #南方秘書日記
2014-08-19 00:16:18『提督はきっと、武士の精神を持っているのだと思います』 「武士?」 『この鎮守府は、今のままでも多くの子たちがかなりの練度を誇ります。その子たちを守るための能力が、提督のそれなのです。もちろん攻撃も可能ですが、それを理念として開発されてはいません』 #南方秘書日記
2014-08-19 00:25:40「だが、攻撃にしてもかなり有力ではあるのだろう?」 『それはもう、とても強力です。しかし、力の差が出すぎるのです』 「……言いたいことが分からない」 『提督は、過剰な火力で敵を圧倒することがお嫌いなのだと思います』 #南方秘書日記
2014-08-19 00:28:33「つまり、武士の情けか?」 私が黙って肯くと、那智は腕組みをして俯きました。 「どうも納得がいかん……また交渉と行くか」 那智は短く礼を述べると、執務室を出ていきました。 妙に肩が凝った気がして、私は目一杯力を抜いて息を吐きました。 #南方秘書日記
2014-08-19 00:42:29提督には提督の考えがおありなのでしょう。それを代弁できたかは分かりませんが、しかし、那智の気持ちを否定したかったわけでもありません。双方の立場は分かっているつもりです。 #南方秘書日記
2014-08-19 00:46:48しかし翌朝、状況が一変しました。 昨夜は、就寝前の語らいの時間を久方振りに設け、そのまま眠りについたのですが、その時と朝とで提督の様子がおかしいのです。起き抜けの開口一番、提督はこう仰いました。 「那智を呼んでくれ」 『どちらの那智でしょう?』 「後から来た方だ」 #南方秘書日記
2014-08-19 00:48:48かなり焦燥感に苛まれたご様子で、事実、体中が汗にまみれていました。 『何をお話になるのです?』 「ああ。昨日のアレだ」 『……提督。まさか』 「二人目のイージスが必要かもしれん」 #南方秘書日記
2014-08-19 00:51:44