天上院照樹の憑魔録 1~憑依融合~

@siren_Unknownさんから影響を受けて始まった、もう一人の退魔師の物語。序章に続くお話です。 ひょんなことから蔵に封じられた狗神に憑かれた少年、天上院照樹はどうなってしまうのか……? ※未完の作品ですので、今後もこちらのまとめを更新していきます。 ※TS(性転換)+TF(獣化描写)があるので、苦手な方はご注意を。
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たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

あまりに沢山のことが短時間で起こりすぎてしまったせいで、照樹君の脳はこの事態についていくことができませんでした。 一体、何がどうして…… その言葉が、頭をぐるぐると回ります。立ち尽くす彼の…いや、彼女と呼ぶべきなのでしょうか。お分かりでしょうが、今の照樹君の体は男ではありません。

2014-07-12 00:47:49
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

はだけた胸部から覗くのは、毛で覆われているものの一般的な女性と比較しても大きなもの。それだけではありません。本来なら力強く主張する下半身の部位があるその場所に、今では何も存在しないのです。照樹君はまだ気づいておりませんが…それ以上の事態が起きているので、しょうがないことでしょう。

2014-07-12 00:57:19
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

とはいえ、そんな事は今の照樹君には関係ありません。思考がフリーズして、もう何分も経っているのに動けないままでいるのです。そんな彼を動かしたのは外からの声でも、近くからの物音でも、ましてや彼の理性でもなく……頭の中から、聞こえる声でした。

2014-07-12 01:04:43
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

『ふぅ……ようやく出られたか……』 う、うわぁぁぁ!? 照樹君は叫んで、よろめいてしまいます。 慣れない下駄を履いていたことが災いして、すぐに尻もちをついてしまいました。 鼻に次ぐ痛みが尻から届いて顔をしかめる照樹君ですが、それでも頭の中の声は止むことがありません。

2014-07-12 01:15:26
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

『ふむ……主が次のヨリシロかの?それにしては随分、未発達な体つきじゃが……』 な、なんだよこれ!?どうして、頭の中に声が……!! 震えながら出す照樹君の声は、一段と高くなっておりました。どうやら、声帯に関しても女性化は完了していたようで……まぁ、これはどうでもいいですね。

2014-07-12 01:22:12
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

『…む?お主、何故斯様に驚く?儂の事を知らぬのか?』 し、知ってるってなんだよ…お前、何なんだよ…! 『む…お主、「天上院」の者ではないのか?』 どうやら、頭の中の声とは会話が成立するようです。それに気づき、彼女は少しだけ落ち着きます。自分の名前を呼ばれたことも一因なのでしょう。

2014-07-12 01:35:38
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

て……天上院は、俺の苗字だけど。お前何で知ってるんだよ……それに、何なんだよお前…… 『……主の質疑に一から答えた方が早そうじゃの。儂が天上院を知っておるのは、儂がお主の一族と深い関わりを持っておるからじゃ。そして儂は、そうじゃの……「ミコト」とでも呼ぶがよい』 ……ミコト?

2014-07-12 01:42:17
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

『そうじゃ、ミコトであっとるぞ。今度は主よ、こちらの問いに答えてもらおうか』 問い……? びくりと体を強張らせる照樹君ですが、頭の中の声は軽い口調で返します。 『そう固くなるな、簡単な質問じゃ。主、狗神を知っておるか?』 イヌガミ……? 一瞬、照樹君は質問が理解できませんでした。

2014-07-12 01:47:49
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

それだけ、『狗神』というのは照樹君にとって馴染みのない言葉だったのです。この前CMで見たサスペンスドラマのタイトルを思い出して、ようやく彼女はミコトと名乗る声の意図を理解しました。 …犬の神様だろ。それがどうしたって言うんだよ。 『少々違うが……まぁ良い。それが、儂じゃ』 …は?

2014-07-12 01:53:59
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

『聞こえんかったかの?お主に取り憑き、その体を人ならざる者へと変質させた狗神。それが儂の正体じゃと言うておる』 お、俺の体を…!? 会話に夢中になっていたせいで、彼女はすっかり自分に起きた事態を忘れていました。それを思い出し、しかも原因がわかったなら、言う事は一つしかありません。

2014-07-12 02:06:20
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

も、戻せ!それなら、俺の体を元に戻せよ! 女らしい綺麗な声で、彼女は必死に叫びます。 『何じゃ、そんなに戻りたいのか?』 当たり前だろ!こんな体じゃ、学校にも行けないし…! 『ほうほう、なるほどのぉ…』 表情は見えませんが、その時のミコトはきっとにんまりと笑ったのでしょう。

2014-07-12 02:18:46
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

『無理じゃの。儂には、一度取り憑いた人間の体を戻すことなどできぬ』 あっけらかんとした言い方で、そんな事を言ってのけたのですから。

2014-07-12 02:32:44
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

は……? そんな言葉が照樹君の口から漏れるのは二度目です。ですが、それは先ほどのものとは全く異なる意味合いのものでした。ただ聞き返す意味合いの先ほどと違い……今度は、絶望が色濃く出たものでした。 ま、待てよ……そんなの……そんなのって…… ガタガタ震える口からの、掠れた声でした。

2014-07-12 02:37:51
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

『いいや、待たぬぞ』 ずるり。その時、照樹君が感じたものを例えるなら…頭の中に何かが這い出てきた感触、というところでしょう。すっく、と彼女は立ち上がります。下駄に慣れずに転んでいたはずなのに、非常に慣れた動きで。 『狗神を前に、心に隙を見せるなど…乗っ取られても文句は言えぬぞ?』

2014-07-12 02:46:41
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

不思議な感覚でした。手も足も全て、自分のものだという感覚はあります。やたら擦れる服や下駄などの感触も、すべてそのまま。だというのに、体は自分の意志とは関係なしに勝手に動くのです。 お、おい!俺に何したんだ、お前! 自分の思い通りに体を動かせない恐怖をごまかすように彼女は叫びます。

2014-07-12 03:01:57
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

『心配するでない、お主の体を悪いようにはせぬ』 ど、どの口でそんな事を…! 姿を無理やり変えられた照樹君からすれば当然の主張でした。しかし、ミコトはなおも淡々と続けます。 『儂はただ、ここから出てみたいだけじゃ。それ以上は何もせん』 勝手に動いた照樹君の手が、蔵の扉を掴みました。

2014-07-12 03:17:39
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

その扉は、今も外から鍵がかけられております。照樹君は入るときに確認していたので、間違いはありません。 『……封印か。この程度で……儂を止められると思うたか?』 しかし照樹君の口が、知らないはずの言葉を紡ぎます。おそらく、これもミコトのしわざなのでしょう。 ……すると。

2014-07-12 03:25:19
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

……ギィィィィ。 重い音を立てて、照樹君の手から離れたはずの扉は外に向けてゆっくりと開きます。 カツリ、カツリ。 陽の下に向かって、ミコトの意志のままに彼女は胸元の鈴を鳴らして歩いていきます。 やがて陽の光を存分に浴びられる場所までたどり着くと、彼女は空を見上げました。

2014-07-12 03:36:20
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

……久方ぶりじゃの、人の世よ。 空を見上げる狗神は、懐かしむようにそう言いました。

2014-07-12 03:43:18
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

あれ……今のって、こいつの台詞だよな……? 照樹君はすぐに、違和感に気が付きます。確かに自分で口を動かした感覚があったのに、耳が拾ったのはミコトのものとしか思えない言葉だったのですから。ミコトは取り憑いた相手の手足だけでなく、口までも自由に操れるのかもしれません。  #憑魔録

2014-07-12 20:00:56
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

ふーっ……気持ち良いのぉ、外の空気と言うのは。 その仮説を証明するかのように、今度こそ間違いなく彼女の口からミコトの言葉がこぼれてきます。全身の自由が効かないことに、照樹君は恐怖を覚えました。しかし体は裏腹に、腕を空に伸ばしてリラックスさえするのです。 #憑魔録

2014-07-12 20:11:47
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

なんじゃ、黙りおって…お主は外が嫌いなのか? そういう問題じゃない!!なんでお前、俺の口から喋って…!! 今この体の主導権は、儂が握っておるからの。どのみち、声が聴こえるのは一緒じゃろ? 飄々とした態度と焦った態度が同じ口から語られるのは、なんとも奇妙なものでした。 #憑魔録

2014-07-12 20:18:43
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

だから、そうじゃなくて……!! まぁ、そのような事は良いではないか。……それで?結局お主は、風は嫌いなのかのう? ミコトは、これ以上その話題について取り合う気がないようでした。 仕方なく、照樹君は投げやりに返事をします。 ……まぁ、好きな方だけど。それが…… #憑魔録

2014-07-12 20:28:10
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

ならば……調度良い、のッ!! それは、ミコトの言葉とほぼ同時の事でした。 自分の足が力強く地面を蹴ったかと思うと、その足から地面の感覚がなくなり……眼下に広がるのは、自分の通っている住宅街の屋根。 気がつけば、照樹くんの履く下駄は自分の家の屋根を踏みつけていたのです。 #憑魔録

2014-07-12 20:36:53
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

せっかくじゃから…お主に、風を味わわせてやろうと思っての。 足は、まだ止まりません。下駄が瓦を蹴ると目に映る景色は一瞬で屋根の端から地を見下ろすものへ切り替わり、狙いを定めたかと思えばまた大きく体は跳躍するのです。その身に、人の身体能力では味わえぬ風を感じながら。 #憑魔録

2014-07-12 20:50:26
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