天上院照樹の憑魔録 1~憑依融合~

@siren_Unknownさんから影響を受けて始まった、もう一人の退魔師の物語。序章に続くお話です。 ひょんなことから蔵に封じられた狗神に憑かれた少年、天上院照樹はどうなってしまうのか……? ※未完の作品ですので、今後もこちらのまとめを更新していきます。 ※TS(性転換)+TF(獣化描写)があるので、苦手な方はご注意を。
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たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

ちらりと後ろを向くと、もう家はほとんど見えなくなっていました。 お、おい!!お前、こんなに目立つことするなよ!!誰かにこんな姿見られでもしたら…!! 舌を噛まないよう気をつけながら、照樹君はミコトへと尋ねました。今は夕暮れ、学生が屋根の下を歩いていてもおかしくないのです。#憑魔録

2014-07-12 21:12:04
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

知り合いに見られたらと思うと気が気でない照樹君とは対照的に、ミコトは楽しげに返事をしました。 大丈夫じゃ!今、認識を遮断する結界を体の周りに張っておる!ただの人間ではまず姿を見ることなどできぬよ! くるりと体を空中で一回転させて、その体は華麗にビルの上に着地しました。 #憑魔録

2014-07-12 21:15:07
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

例えば、じゃが……どれ。 そう言いながらミコトが下を見下ろすと、そこには道路を歩いている学生が何人もいました。誰かが気まぐれに見上げれば、すぐにでも気づかれてしまいそうな距離です。それを確認すると、照樹君の体は彼女の意思に反して大きく息を吸い込み始めました。そして。 #憑魔録

2014-07-12 21:19:52
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

アォォォォォォン!! 自分の体さえ震わせる、大きな遠吠えをしました。辺りどころか、街中に響き渡ってもおかしくないと思える音。しかし…それを止めて下を見ても、誰もこちらを見上げようとはしません。 このように、音の認識も阻害したのでな。これなら、気づくものなどおらんじゃろ。 #憑魔録

2014-07-12 21:29:23
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

得意げに鼻を鳴らすミコトに、ひとまずの不安がなくなって照樹君はホッとするのでした。 じゃから、お主も遠吠えをしたって良いのじゃぞ? だ、誰がそんなこと……!!って、うわぁ!? からかう言葉に反論しようとしたその時、体はまた道なき道を走り出します。 #憑魔録

2014-07-12 21:35:11
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

何故拒むのじゃ?お主が騒いだところでそれを咎める人間など今、どこにもおらぬのじゃぞ? それは、そうだけど…… なら、文句はなかろ。楽しかったら、行動にしたっていいのじゃ。儂だって、楽しいから叫んだのじゃからの。 確かに、ミコトのいうことには一理ありるように思えます。 #憑魔録

2014-07-12 21:52:36
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

照樹くんは今、ルールから外れることを好む思春期真っ盛りのお年頃です。 そんな彼に、住宅街の真ん中で思いっきり叫ぶというのは……正直、魅力的な提案に思えます。心が揺れる彼に、ミコトはそっともう一言だけ添えました。 それとも……主は今、楽しくないのかのう? #憑魔録

2014-07-12 22:00:12
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

足が地面を蹴ると、ふわりとした浮遊感。高いところから落ちる感覚はあるのに一切の不安もなく、眼下に広がる夕暮れに染まる街の景色を眺める余裕さえもあるのです。屋根を俊敏に駆ける度に吹き付ける風は、少し冷たくて。今の照樹君はそれら全てを鮮明に感じ取ることができるのでした。 #憑魔録

2014-07-12 22:12:05
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

それはきっと、誰かに見られるという余計な不安がなくなったからでしょう。しかし、照樹君はそこで肝心なことに気が付きます。そう、これを提案したのは、自分の体がこんな風になってしまった元凶なのです。もしかしたら、まだ何か企みがあるのかもしれません。……しかし。 #憑魔録

2014-07-12 22:19:40
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

---主は、楽しくないのかの? 自分の足で縦横無尽に宙を舞い、風を切るこの感覚を……照樹くんには、楽しく思えてしょうがないのです。 ……アォォォォォォォォン!! 高く、伸びやかな遠吠え。 それは、ミコトの意思などではなく……間違いなく、照樹君自身が発したものでした。 #憑魔録

2014-07-12 22:27:53
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

ははははは!!そうじゃ、その意気じゃ!! アォォォォン!!アォォォォン!! 一度認めてしまえば、止まりません。鈴を上機嫌に鳴らし、何度も遠吠えをします。狗神に憑かれたことも、戻れないと言われたことも忘れ…しばらく、彼女は心から楽しそうに住宅街の屋根を飛び回るのでした。 #憑魔録

2014-07-12 22:34:17
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

――――― ハッ、ハッ、ハッ…… 草むらに大の字になって寝転び、照樹君は夜空を見上げていました。だらしなく舌を突き出して、犬のように体温調節をしながら。ここは、街を見下ろせる小高い丘の上。照樹くんはあれからずっと、操られるままに動きまわっていたのです。 #憑魔録

2014-07-12 22:42:09
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

いくら人ならざる身と言えども、体力には限界があったようなのですが……それでも、本能のままに叫び動き回る間は、彼女はとても充実した気持ちになったのでした。 ……しかし。それが終わった今、頭を完全に空っぽにすることはできません。彼女の脳裏に、再び蘇ってくる言葉がありました。 #憑魔録

2014-07-12 22:54:15
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

『……無理じゃな。儂には、お主の体を元に戻すことはできぬ』 その言葉を思い出す度に、火照っている体が急速に冷めていくのを感じます。学校に通うことはもう、二度とできない……そう思うだけで、膨らんでしまった胸がズキズキと痛むのです。 #憑魔録

2014-07-12 23:23:14
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

なぁ……俺を、どうするつもりだ? 照樹君のその言葉には、諦めの色が濃く滲みでていました。 俺をこんな体にして、好き勝手やって……まさか、俺の事を取って食う気じゃあないだろうな? しかし、そんな照樹くんの予想とは裏腹に、ミコトの返事は短いものでした。 …阿呆か、お主は。 #憑魔録

2014-07-12 23:57:10
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

儂等狗神なんて者はの、所詮は人に取り憑かなければ実体すら保てん種族じゃ。人に取り付く以外に、現世に干渉をする手段を持たぬ妖怪……それが、狗神。そんな儂等が、人に悪戯こそすれ殺したりなんぞするわけがなかろう。 自分の口から語られる言葉は、今までになく真剣な響きでした。 #憑魔録

2014-07-13 00:15:54
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

いつも人をからかってばかりいる印象があったミコトの意外な一面に、照樹くんは驚きます。ですが、それ以上に悲しくなりました。 そんなに人間が大事なら……何で、こんな姿にしちゃうんだよ……何で、元に戻してくれないんだよ…… 泣きそうな表情で、彼女はミコトに問い詰めます。  #憑魔録

2014-07-13 00:36:39
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

流石に罪悪感もあったのか、ミコトはばつの悪そうな声を照樹くんの口からあげます。 あー……その事なんじゃがの、実は…… ……!! その時、照樹君の鼻は何やら嫌な臭いを捉えました。 綺麗な白い髪を振り乱して、その体はミコトの意思でガバリと起き上がります。  #憑魔録

2014-07-13 00:42:05
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

この臭い…怪異か! 叫ぶと同時に、その体は脱兎のごとく駆け出していました。方向は、臭いの発生源目がけて。 お、おい!どうしたんだよ、いきなり! 突然の事態に困惑する彼女へと、ミコトが返したのは焦りの言葉でした。 説明は後じゃ!急がないと……死人がでるやも知れぬのじゃぞ! #憑魔録

2014-07-13 00:59:21
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

すっかり暗くなった夜の道を、少女が一人歩いていました。部活帰りの見慣れた通学路も、夜になると少しだけ歩くのが怖くなってきます。とはいえ、実際のところはさっきまで友達がいた分一人の寂しさを感じているだけなのでしょう。そう思い直して、コツコツと歩みを進めます。 #憑魔録

2014-07-13 01:11:50
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

何も気にしなければいい、そう思って足早に道を進みます。電柱、排水口、路地裏に続く道……少しでも怖さを連想しそうなものをなるべく見ないようにしながら、少女はその道を通りすぎて行きました。 ……だからこそ、気付かなかったのでしょう。それが幸いかどうかは、わかりませんが。 #憑魔録

2014-07-13 01:17:44
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

……うじゅる。 『それ』が染みでてきたのは、まさに少女が見ないようにしながら通りすぎていった排水口でした。何の変哲もない液体のようにも見えるのですが、その色は澄み切った黒色なのです。 墨を流してもここまでの色にはならないであろう漆黒の液体は、染み出す量を増していきます。 #憑魔録

2014-07-13 01:25:29
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

黒色の液体はやがて、小さな水たまりに見えるぐらいに排水口からあふれ出してきてしまいました。…ここで、水たまりに異変が起こります。黒い水たまりから、突起が生えてきたのです。まるでイソギンチャクの触手のようにも見えるそこからは、 じゅるじゅると蠢く音が聞こえてくるのです。 #憑魔録

2014-07-13 01:43:03
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

ぐちゅ……波打つそれが、突然ピタリと動きを止めたかと思うと。その先端が、道路に沿って伸び始めたではありませんか。その速度は速く、歩いている人間ぐらいならすぐに追いつかれてしまうのでしょう。……特に、排水口の側を通り過ぎたばかりの少女ならばなおのこと。 #憑魔録

2014-07-13 01:54:32