不知火に落ち度はない その6

yamoto @yamoto

俺の言葉に長門があはっ、と楽しそうに笑う。 「私の奢りでいい。ついでにホテルで大人のホノルルマラソンしよう」 「そっちはお断りだ。最近年のせいかめっきり立たない」 「……ホントに？」 「嘘だ」 心配そうな顔すんな。 お前にされると相当屈辱なんだ。 #不知火に落ち度はない

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「そっか、私に飽きたのか。やっぱり若い方が好きなんだな？」 「その台詞聞いたことあんぞ。海外ドラマで見たろ」 「はずれだ司令、続編の劇場版さ」 そうして車はハイウェイを飛ばす。 目指すは市街地５番町であった。 #不知火に落ち度はない

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「首尾はどうだった？ 司令」 「通信ケーブルと電源は押さえた。お前は？」 「周囲の基地局の封鎖完了」 ビル前。 夜というのにまだ明かりのついてるビルを見上げる公園前で、のんびり会話を交わす。 #不知火に落ち度はない

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「んじゃあと10分で開始すっか」 「時計を合わせようか？」 「いらんいらん。お前すっかりドラマに影響されてるな」 「今度一緒に見よう。ハマるぞ。BDも貸す」 「お前は韓流おばちゃんか」 外から見れば年の差カップルにでも見えるだろうか。 無理があるな。 #不知火に落ち度はない

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「これが終わったら、結婚しよう」 「お一人様でどうぞ。祝福してやる」 「故郷に帰りを待つ恋人がいるんだ」 「何人目の恋人だそれ」 「司令に私の大切なものを預けたい」 「速攻質屋で売ってやる」 フラグたてまくるな。折るのが大変だ。 #不知火に落ち度はない

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「よし、おまじない完了。行くか」 「おうよ。スイッチぽんっと」 これで周囲の通信機器は全てシャットアウト。 沈黙の時間が開始される。 アロハとサマーセーターの奇っ怪な取り合わせが、ビルの中へと入っていく。 絵的になんてしまらないんだろうな、これ。 #不知火に落ち度はない

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えー、司令です。 現場から実況します。 現在地上１５Fまでは完全制圧。 残る２Fに集中した戦力をどうしたもんかと考えつつ休憩中です。 煙草うめえ。 「あはっ♥ あははははっ♥」 メスゴリラは絶賛ハンティング中。 麻酔銃は持ってきてねーぞ、やべえ。 #不知火に落ち度はない

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そうこうしているうちにフル装備の特殊部隊真っ青な増援のご登場です。 相手の頭をヘルメット越しに蹴り砕いた、長門の背中に一斉に手持ちの自動小銃ロックオン。 ひのふの五人。 ここで俺司令の出番です。 物陰から出て、同じく拾った自動小銃を適当に撃ちます。 #不知火に落ち度はない

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なんということでしょう。匠の弾丸捌きで５つの自動小銃が跳ね飛ばされます。 これで安心して、メスゴリラは無礼者の始末にかかれます。 メスゴリラが発情じみた笑い声と共に、うち一人を壁まで蹴り飛ばします。 残りは何が起きたかわかってないご様子。 だろうね。 #不知火に落ち度はない

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メスゴリラが暴れている間に、俺司令ちゃっちゃと走って自動小銃を回収、弾丸を抜き取ってガメていきます。 少ない給料でやりくりするための生活の知恵がこんな所にも活かされています。 ついでに一人を物陰に引きずこみ、床に叩きつけて無力化。 地味さが輝きます。 #不知火に落ち度はない

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５名の無力化が終わった時点で、メスゴリラが駆け足で奥に突入していきます。 ラストの階段目指してタッチダウンを決める気でしょうか。 しかしそこで罠。 階段のドアが開き、４名の増援がポップアップ。 さしものメスゴリラも銃弾より早くは動けません。 #不知火に落ち度はない

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しかしそこは俺司令。将棋で幼い副官をボコって遊ぶ大人の面汚し。 そんなの見え見えだったので遠慮無く発砲します。 匠の技術がここでも冴え渡り、手にした武器を次々損壊させていきます。 一方のメスゴリラも流石現代の獣。火線を最初から避けて走っています。 #不知火に落ち度はない

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メスゴリラは時代が違えばきっと、陸上選手として栄えある成績を残していたのでしょう。 華麗な踏切の後大きくジャンプし、体重と速度を乗せた膝を遠慮無く２名に同時に叩き込みます。 ボーリングのピンのようにコミカルに倒れる２名を見て、残り２名の顔がブルーへ。 #不知火に落ち度はない

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一方俺司令も負けてはいられません。 派手な動きをする芸はないですが、手近にあった消火器を拾いシュート！ 超・エキサイティン！ ドッジボールなら顔面セーフですが、リアルファイトではブラックアウト。一人がそのままひっくり返ります。 #不知火に落ち度はない

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メスゴリラはこんなときも貪欲です。決してお残しはしません。 一瞬で三人が制圧された事実を受け入れきれない最後の一名の顎にアッパーカット。 首がもげそうなぐらいのキレッキレなモーションから出る拳が、脳を揺さぶり歯を奪い、相手の意識をもぎ取っていきました。 #不知火に落ち度はない

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ここでも司令の生活の知恵は生きてきます。銃弾のついでに気絶した相手の懐からIDカードをゲット。 その際間違えて財布も抜き取り、中身を見て渋い顔をします。 「うわ、多分俺より給料貰ってるぞ」 格差社会を提示しますが、現代のメスゴリラは意に介しません。 #不知火に落ち度はない

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ションボリ肩を落とした俺司令は、メスゴリラの生暖かい視線に負け財布を返却。 そのまま先行して階段を駆け上り、扉の前の読み取り機にIDカードを通します。 ドアのロックが外れると同時に中に突入。 さっさとカバーリングを行い、安全を確保します。 #不知火に落ち度はない

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幸いな事にもう敵戦力はなく、お部屋の中には黒幕ぽい人が一人いるだけ。 かからない電話を再チャレンジしていたのか、突然の来客にフリーズしています。 俺司令はにこやかに手を振りますが、何故か大きく罵倒されます。 カルシウムが足りてません。牛乳に相談だ。 #不知火に落ち度はない

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さらに、扉をくぐってメスゴリラ登場。 サマーセーター姿の若奥様風味がこんな時に活かされます。 アロハとサマーセーターという取り合わせもお笑い芸人ぽくてよかったのでしょう。 再度ぽかーんの海に投げ込まれたのか、罵倒の言葉がとぎれました。 #不知火に落ち度はない

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さあ、ここからが真骨頂。俺司令の説得タイムです。 誠心誠意をもって、相手に今回の目的を伝えることができるでしょうか。 「ハローハローこんにちは。あ、夜か？」 「……」 渾身のナイスボケをかましたつもりが、ダダ滑り。 ウイットが足りてないようです。 #不知火に落ち度はない

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こほんと咳払いを一つして仕切り直し。 「公安だ。お前の悪事は全て露見している」 嘘です。 「おとなしく投降して証拠の一切を提出し、お縄について貰おうか」 さて、ジャッジメントタイムです。 ここで相手が頷けばセーフ、あとはビアホールが待っています。 #不知火に落ち度はない

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「嘘をつけ！ 第一公安なら私に楯突いて──」 嘘は簡単に崩壊しました。ドンマイ。 何か続けようとしてますが、無視して再チャレンジ。 「ホントはNPO団体」 「あの刑事と同じ道を──は？」 「名称は、集団拉致被害者友の会で」 思いつきです。 #不知火に落ち度はない

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「無理がないかな？ 第一、交渉できてないぞ」 「そうだな、失敗してるぽい」 こんなときだけメスゴリラは頭が回ります。 「では方針変更、おしゃべり終了」 自動小銃のトリガーを握って適当に乱射。 銃弾と破片が飛び散り、部屋を美しくリフォームします。 #不知火に落ち度はない

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悲鳴も上がりましたが当然無視。ここからはテロリストのお仕事です。 「さて、集団失踪事件についての資料を全部出せ」 「そんなものは──」 発砲。ちゃんと狙いは顔ギリギリです。 「殺してからの方が早いか？」 目は感情を殺すのが、脅迫のコツです。 #不知火に落ち度はない

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俺司令の巧みな交渉術によって、どんどん黒い情報が目の前に広がっていきます。 なんということでしょう！ 俺司令だけではキャパオーバーで手の出しようがありません。 解決するには公安や陸軍との提携も不可欠です。 そこで俺司令は新しいアイデアを提案しました。 #不知火に落ち度はない