古鷹青葉を見守る衣笠さんbot #28

更新二十八回目のまとめです。 古鷹を、青葉を気遣う雷提督の心とは。 そして、オリョール海での再戦。
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古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

訓練の日々が続いたある日、私と青葉、加古は雷ちゃんに呼ばれた。曰く「今度、サブ島沖海域に挑戦する前にまたオリョール海に行ってらっしゃい。一回やられた相手にはやり返して、悪いイメージを吹っ飛ばしといた方がいいでしょ」とのことで、今度は私たち第六戦隊に空母二隻をつけてくれるという。

2014-07-19 21:41:57
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「今はサブ島沖攻略用の電探とかソナーとかを開発中だし、資源や修復材の備蓄もまだまだ。だからそれまでの腕試しと考えて頂戴。旗艦は前回と同じく青葉よ。気楽にいきなさい」 そう告げる雷ちゃんに、青葉は恐る恐るだけれど、しっかりと頷いた。それを見て雷ちゃんがにっこりと笑う。

2014-07-19 21:48:09
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「良い顔になったわね、青葉」 そう言った雷ちゃんがそこででも、と言葉を切った。 「集めた情報を総合する限り、サブ島沖海域は辛い戦いになると思うわ。重巡得意の夜戦だけどこちらが一発で大破をもらうこともあるし、主力艦隊のいる海域は夜が切れている。夜戦に持ち込むまで耐えなきゃいけない」

2014-07-19 21:54:12
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「旗艦の補給艦を5回沈めるために何度も出撃してもらうことになると思う。資源と修復材は用意してあげられるけど、私たちに出来るのはここまで。身体と心をしっかり鍛え上げておきなさい」 雷ちゃんの、いえ、提督の言葉に三人揃って「はい!」と力強く応える。そして加古と青葉が退出していった。

2014-07-19 22:00:21
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執務室に残った私に、書類を片づけながら雷ちゃんが怪訝そうな目を向けた。 「どうしたの?衣笠」 「……その、気になることがあるんだけど」 あの海域は古鷹ねーさんが沈んだソロモンの海によく似ている。だからこそ私たちが挑むことになったのだけれど、それゆえに私には大きな気がかりがあった。

2014-07-19 22:05:41
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それは、探照灯の存在。私たち第六戦隊で夜戦に臨むとなれば、古鷹ねーさんは探照灯を照射することを厭わないだろう。あの海で、古鷹ねーさんが再び集中砲火を浴びることになる。それだけはどうしても避けたかった。そのことを言うと、雷ちゃんは首を横に振った。 「探照灯の使用は禁止します」

2014-07-19 22:11:11
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それを聞いて私はほっと胸を撫で下ろした。提督に禁じられたとなればさすがの古鷹ねーさんも勝手に探照灯を使ったりはしないだろう。雷ちゃんにお礼を言わなきゃ。 「ありがとう、提督。優しいわね」 そう言うと、雷ちゃんは書類から顔を上げた。何故かその表情はちょっと複雑そうだ。

2014-07-19 22:16:41
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「優しい……とは違うわね。犠牲を出したくないと思っているのも本当だけど、探照灯を禁止する一番の理由は私の考える戦略に合わないからよ」 意外な程強い口調で雷ちゃんが言った。どういうことかと尋ねると雷ちゃんは窓の外に目を向けた。 「ねえ、私たちはどうやったらこの戦争に勝てると思う?」

2014-07-19 22:21:46
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え、と私は面食らった。深海棲艦にどうやったら勝てるかなんて、わかったら誰も苦労しない。そう素直に口に出すと、雷ちゃんも頷いた。 「そうよ、深海棲艦は倒しても倒しても湧いてくる。やつらの正体もわからないし、いくつ拠点をつぶしても次々新たな拠点が現れる。いたちごっこもいいところね」

2014-07-19 22:27:05
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「この戦いがいつまで続くかすらわからないわ。じゃあ、私たちはどうするべきかしら」 そこで雷ちゃんは一息ついた。そして、私に向き直ってまっすぐ見つめてくる。 「それは絶対に沈まないこと。私たちは戦い続ける限り練度が上がる。だから、それを無駄にしないために絶対に沈んじゃいけないのよ」

2014-07-19 22:33:59
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私は雷ちゃんの言葉を神妙な心持ちで聞いていた。 「この先どれだけ強大な敵が現れてもそれを打ち倒せる力を維持し続けること。艦娘一隻がその身を犠牲にしたところで、その場で得られる戦果はたかが知れてる。むしろ今後も成長できたはずの戦力を失うことの方が遥かに痛いわ」

2014-07-19 22:39:47
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「だから古鷹には探照灯は使わせない。それは古鷹のためでもあるし、この鎮守府全体のためでもあるの。古鷹が沈んだら危ないのはあんたたちだけじゃないのよ」 雷ちゃんの言葉に私ははっとなった。今まで私は青葉や古鷹ねーさんのことばかり考えていたけれど、雷ちゃんは艦娘皆の事を考えていたのだ。

2014-07-19 22:45:23
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「それは……?」 躊躇いがちに尋ねると、雷ちゃんは苦虫をかみつぶしたような顔で口を開いた。 「……朝潮よ。あの子はダンピールで野島や荒潮を助けられなかった。だから、表には出さないけれど青葉を救えた古鷹には憧れめいた気持ちを持ってる。いいえ、半ば狂信していると言ってもいいかも」

2014-07-19 22:50:34
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「でも、朝潮と古鷹ねーさんじゃ状況が違うじゃない。朝潮の時はそもそも無茶な作戦で……」 「そうね。でもそう言ったところであの生真面目な朝潮が聞くと思う?古鷹が沈んだら、確実に朝潮は同じことをするわ。それも、満足げにね」 雷ちゃんが目を落とす。 「そんなの、荒潮が可哀想じゃない」

2014-07-19 22:56:07
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いつでもふわふわ飄々として物おじしない荒潮が、朝潮の前でだけ顔を赤くしてもじもじし、ろくに朝潮と喋ることすらできないのをこの鎮守府の艦娘なら誰でも知っている。朝潮に万一のことがあったら、荒潮の心痛はいかばかりか。私は改めて雷ちゃんの心遣いに舌を巻き、同時に感謝した。

2014-07-19 23:02:01
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「提督?そろそろ時間ですけど……あら、衣笠じゃない」 「衣笠さん、こんにちわなのです」 執務室の扉が開き、霧島さんと鳥海、そして第六駆逐隊の面々が入ってきた。 「今行くわ。あとよろしくね」 「提督どこか行くの?」 そう尋ねると、雷ちゃんは艤装を背負いながら「遠征よ」と答えた。

2014-07-19 23:07:59
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「え!?」 「何変な顔してるのよ。最近出てなかったからって、私たちだって遠征くらいできるわよ?」 「いえ、そうじゃなくて……」 「今開発を集中的にやってるから、資源集めに遠征班のローテーションが大変なのよ。それで提督たちも行くって言いだして」 そう説明してくれたのは霧島さんだ。

2014-07-19 23:13:13
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改めて感心していると、鳥海が机に近づいて雷ちゃんから引継ぎ書類を受け取った。 「司令官さんたちの留守は私たちが預かりますから、安心して行ってきてくださいね」 小腰をかがめて雷ちゃんたちに微笑む鳥海に、雷ちゃんは「頼んだわよ」とハイタッチして執務室を出ていこうとする。

2014-07-19 23:19:43
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もう一つ聞きたいことがあったのを思い出して、私はその背中に声をかけた。 「ねえ、なんで雷ちゃんはここまでしてくれるの?……その、皆のこと考えてくれてるのはわかるんだけど、他の子への影響を考えるなら古鷹ねーさんや青葉は出撃させない方がいいんじゃ……」 雷ちゃんが立ち止まる。

2014-07-19 23:26:37
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そのまま居心地悪そうに立ち尽くしていると思っていると、他の第六駆逐隊の面々も同じような表情をしていた。 「だって、私たちと同じだと思って」 そう小さくつぶやいた雷ちゃんの声は、普段の元気いっぱいなそれとは打って変わって沈んだ響きをたたえていた。 「由良さんは私たちのせいで……」

2014-07-19 23:33:13
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電ちゃんが顔を俯けたまま言う。前にも聞いたことがある。由良は第六駆逐隊が中継して伝えた情報が間違っていたせいで沈んでいる。由良はそんな事気にもしていないけれど、雷ちゃんたちにとってはそうはいかないのだろう。それは、古鷹ねーさんに対して罪悪感を感じ続ける青葉と同じなのかもしれない。

2014-07-19 23:38:40
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「だからね、どうにかしてあげたいと思っちゃうのよ。青葉と私たちが同じだと思うとね……」 ひとりごちるように雷ちゃんは続けた。そして、少し黙ったと思うと急に大声を出した。 「そもそも、あいつらちゃんと向き合って話すらしないじゃない!そんな状態のまま放ってなんておけないわ!」

2014-07-19 23:47:02
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古鷹ねーさんと一緒に出撃したくないなどとわがままを言う青葉を使い続けてくれたのは、青葉がいつか古鷹ねーさんと話せるようになるかもしれないと期待してくれてのことだったのだろう。私は改めて雷ちゃんたちの背中に深々と頭を下げた。 「さ、行くわよ。旗艦の軽巡は誰だったかしら?」

2014-07-19 23:56:27
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雷ちゃんが言うと、執務室の扉の陰に立っていた背の高い軽巡洋艦娘がその姿を現した。そして、それを見た雷ちゃんがぎょっとして固まる。 「え、由良ぁ!?」 他の第六駆逐隊の子たちも目を丸くしている。雷ちゃんがばっと振り向いて霧島さんと鳥海を睨む。 「ちょっと、由良とは分けてって……!」

2014-07-20 00:02:49