ケンペイ天狗「ドント・ウェイト・サマー・スターゲイザー」

◆忍殺風艦これ二次創作◆ ケンペイが出てブラック提督を殺す! エピソードリスト:http://togetter.com/li/679544 続きを読む
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アナ・イゴール @KNPITNG

……「あ、ジュース買ってきたよ」「ありがとー!」それから30分程シュンジとカワウチは、夜空を見ながら星座や深夜ラジオ、カイジュウ・ムービーの話をした。こんなに同年代の女の子と話したのはプライマリースクールぶりだろうか?炭酸のきついソーダを飲みながらシュンジはぼんやりと考える。26

2016-08-10 22:31:12
アナ・イゴール @KNPITNG

「けどカワウチ=サン、なんで夜の学校なんかにいたの?」「え?あー、シュンジ=サンこそナンデ?」「あー…秘密」シュンジは言葉を濁す。本物の星空を知る彼女にネオヨコスカの天体観測などお遊戯だろう。バツが悪そうな彼にカワウチはニッと笑った。「じゃあ私も秘密!」二人は顔を見合わせる。27

2016-08-10 22:35:50
アナ・イゴール @KNPITNG

「「……くくっ!」」一瞬の睨み合いは数秒後、同時に笑いに変わった。「じゃあ今夜学校にいたのは二人の秘密ってことでヨロシク!」黒曜石のような瞳がシュンジを見つめる。「アー、うん、秘密だ!秘密!」これ以上見つめられたら網膜に焼き付きかねない。シュンジは降参とばかりに首を振った。 28

2016-08-10 22:38:05
アナ・イゴール @KNPITNG

「じゃあ今日は解散、明日学校でね!またね!」手を振りながら去っていくカワウチにシュンジは格好をつけ、黙ったまま手を上げて応えた。「……またね、か」顔がゆるむのを抑えられないまま、シュンジは家へと走りだす。「またね、かあ!」背負った望遠鏡のケースが妙に軽く感じられた。 29

2016-08-10 22:41:00
アナ・イゴール @KNPITNG

(「ドント・ウェイト・サマー・スターゲイザー」#1おわり#2へつづく) #ケンペイ天狗

2016-08-10 22:43:04
アナ・イゴール @KNPITNG

【ドント・ウェイト・サマー・スターゲイザー#2】 ( togetter.com/li/696161 の続き)#ケンペイ天狗

2016-08-11 21:36:18
アナ・イゴール @KNPITNG

「シュンジテメッコラー!俺のワックス使いコラー!しかも使いすぎオラー!」「ゴメンナサイ!」その日、シュンジは兄の怒りの声を背中に浴びながら、不格好に固まった鉄腕ボーイめいた髪型で家を出た。制服のワイシャツは慣れないアイロンをかけたせいで斜めに折り目がついている。 1

2016-08-11 21:39:55
アナ・イゴール @KNPITNG

その日も珍しく雲間から太陽が顔を出し、コンクリートで固められた街へ灼熱の陽光を浴びせていた。晴れの日は決まって昼寝をしている駐車場のバイオネコは車の下へと避難。電柱に止まった野生化セミ・ドローンは、鋭い針で交流電流を盗電しながらオーガニック・セミに擬態した高周波音を発している。2

2016-08-11 21:42:28
アナ・イゴール @KNPITNG

「ハッ、ハッ……!身支度に時間使いすぎた!」シュンジは遅刻寸前を示す時計を視界の隅に、鞄を抱えて夏の街を駆けていた。むせるような湿度の空気に排気ガスが混じり、シュンジの鼻孔を満たす。だがそれも気にはならない、日頃俯いて歩いていた街のくすんだ風景が今朝は夏の光で輝くようだ。 3

2016-08-11 21:45:16
アナ・イゴール @KNPITNG

停止していた地球が/今朝から自転を再開した。シュンジは心中でらしからぬハイクを詠みながら、チャイム寸前の教室に飛び込んだ。(間に合った!)息をつくのも束の間、彼の目はオートエイムめいて黒い瞳の少女を捉える。教室中央で机の上に腰を下ろし、女友達とお喋りしている少女。カワウチ! 4

2016-08-11 21:48:26
アナ・イゴール @KNPITNG

「エット……」窓際の自席に向かうフリをしつつ彼女まであと1歩の距離まで歩き、シュンジは立ち止まった。ここまできて何と話しかけたら良いか分からなかったのだ。(昨日はお疲れ様?いや昨日の出来事は秘密だったはずだ)カワウチはシュンジが隣にいることにも気づかずお喋りを続けている。 5

2016-08-11 21:51:24
アナ・イゴール @KNPITNG

(どうやって話す?どうやって!?)シュンジは話題を探しニューロン内の辞書をひたすらめくった。(アニメ?カワウチが見てるとは思えない。流行りのアイドル?駄目だ、殆ど知らない。お洒落?ナイスジョークだ。じゃあ星?駄目だ、朝話す内容じゃないだろう)「シュンジ=サン?」「エッ!?」 6

2016-08-11 21:54:34
アナ・イゴール @KNPITNG

シュンジが我に返ると、目の前にあったのは黒い瞳だった。カワウチが机の上に座ったまま、シュンジの顔を下から覗きこんでいたのだ。「ア……!」睫毛が長い!「何度も話しかけてるのにヒドイなあ……?ね、オハヨ!」カワウチはわざと拗ねたように口を尖らせると、アイサツし、笑った。 7

2016-08-11 21:57:49
アナ・イゴール @KNPITNG

ゴォーン。始業チャイムが鳴った。ポン、ポン、ポン。集中力を高める効果があるという勉学用木魚ビートを、シュンジは自席に座ったまま聞く。「ヘイ!シュンジ!」後ろの席のカンタロが小声でシュンジの背中をつついた。「なんだその頭は?鉄腕ボーイのコスプレか?」「だよなあ」「ワッザ?」 8

2016-08-11 22:01:03
アナ・イゴール @KNPITNG

「朝のアイサツはオハヨ、だよなあ……」シュンジは振り返ると呆然とした口調のままカンタロに言った。「……ワッザ、木魚がキマりすぎてやがる」 9

2016-08-11 22:04:10
アナ・イゴール @KNPITNG

◆   ◆   ◆    10

2016-08-11 22:07:11
アナ・イゴール @KNPITNG

昼に近づくにつれ気温はますます上がり、セミ・ドローンの高周波音も更にけたたましさを増していた。結局シュンジは授業中、カワウチを見たり、授業を聞いたり、カワウチを見たりして過ごしていた。当の彼女は朝に弱いらしく突っ伏して寝ているか、頬杖したまま窓の外を見つめているかだったが。 11

2016-08-11 22:10:20
アナ・イゴール @KNPITNG

ゴォーン。ポン、ポン、ポン……。昼休みのチャイム。シュンジは母親の作った弁当を恨めしげに見つめながら、女子数名と連れ立って食堂へ行くカワウチの背中を見送った。無論弁当が無かったとしても、アイサツすらまともに出来なかったシュンジに彼女を食事に誘えるわけもなし。 12

2016-08-11 22:13:09
アナ・イゴール @KNPITNG

「ワオワオー!ウェーイ!」運動部の連中が短い昼時間の間も有効活用しようとグラウンドへ駆け出していく。「おい、シュンジ」弁当も食べ終わり一眠りしようとしていたシュンジは、後ろから声をかけられ振り返った。声の主は数少ない彼の友人でありナード仲間。「どうした、カンタロ?」 13

2016-08-11 22:16:30
アナ・イゴール @KNPITNG

「いや、お前今日おかしいからさ。ずっとカワウチばっか見ててるだろ?」「!?」シュンジは自身の心臓が跳ね上がる音を聞いた。何故分かった?朝から完璧に隠し通していたはずなのに!「ウェ!?そんなことない!」「そうか?まあカワウチみたいな男女なあ?」カンタロが笑う。「だ、だろ?」 14

2016-08-11 22:19:08
アナ・イゴール @KNPITNG

「な!まあ顔は可愛いけど、カワウチは無いな!」「そ、そうそう、カワウチは無いよな!」シュンジは大げさな身振りで返すと、背中の汗を誤魔化すように立ち上がり窓を開けた。「いい天気だなあ!」露骨な話題逸らしだが、実際ネオヨコスカでこんな晴れが続くのは異常気象と言っても良い。 15

2016-08-11 22:22:10
アナ・イゴール @KNPITNG

「これなら明後日の夏祭りも上手くいくだろうな」カンタロが席に座ったまま言う。「夏祭りねえ……」オーボンの夏祭り。宗教的伝統が希薄なネオヨコスカにおいて数少ない伝統行事の一つだ。テンプルで篝火を焚き、その周りを人々が一晩中踊る奇習として海外にも広く知られている。屋台も多く出る。16

2016-08-11 22:25:12
アナ・イゴール @KNPITNG

「こんな歳になって夏祭りなんて」祭りなど昔両親に連れられたきりだ、シュンジは無愛想に言った。「ヤブサメ部の連中はチア部と一緒に行くらしいぜ」「ウェ?……僕達には誘う相手もいないだろ」脳裏に浮かんだ彼女の顔をかき消し、視線を空からグランドに落とす。サッカーで遊ぶクラスメイト達。17

2016-08-11 22:28:11
アナ・イゴール @KNPITNG

「ま、確かに俺達には関係ないか」「……だろ」曖昧に相槌をうつシュンジの目線は、しかしグラウンドで揺れる黒髪のツインテールに釘付けになっていた。「暑いし窓閉めてくれよ」「おう……」どれだけ目が良いのか、グラウンドからシュンジの姿に気づき、ニッと笑いながら手を振る彼女の姿に。 18

2016-08-11 22:32:00