ケンペイ天狗「ドント・ウェイト・サマー・スターゲイザー」

◆忍殺風艦これ二次創作◆ ケンペイが出てブラック提督を殺す! エピソードリスト:http://togetter.com/li/679544 続きを読む
7
アナ・イゴール @KNPITNG

◆   ◆   ◆    19

2016-08-11 22:34:11
アナ・イゴール @KNPITNG

ゴォーン。ポン、ポン、ポン……。夕刻のチャイム。一日中猛威を振るった太陽が口惜しげにビル街の向こうへと落ちていき、焼けつくような夕焼けが校舎を染めていく。いまだだ鳴き声衰えぬセミ・ドローンの高周波音をBGMに、シュンジは本の詰まったダンボールをようやく全て図書室に積み終えた。20

2016-08-11 22:37:19
アナ・イゴール @KNPITNG

「まったく、図書委員なんて……」毎年気弱な奴が押し付けられる仕事というのも分かる。すっかり遅くなってしまったもう部活がある生徒ですら帰っている時間だ。シュンジは汗が流れる首筋をタオルで拭いながら、教室へと赤く染まった廊下を急ぐ。 21

2016-08-11 22:40:12
アナ・イゴール @KNPITNG

「夏祭り、か……」カワウチを誘うことを考えないでもない、だがそれが無残な結果を招くであろうことをシュンジは恐れていた。ウカツなアクションをすれば気味悪がられ、学級会(訳注:日本特有のクラスで行う模擬裁判。しばしば苛烈なムラハチを伴う)で吊るされる。ナードとはそういうものだ。 22

2016-08-11 22:43:14
アナ・イゴール @KNPITNG

実際今日彼女とどんな接触があった?朝アイサツをし、昼休みグラウンドから手を振ってもらった。それだけだ。それだって快活なあの子が誰にでも優しいからだ。昨晩、あの天体観測の夜が特別な幸運だったのだ。シュンジは自分にそう言い聞かせながら教室の扉を開けた。 23

2016-08-11 22:46:20
アナ・イゴール @KNPITNG

夕陽で赤く染まった教室には、川内がいた。「!」シュンジはその姿を見て思わず息を飲んだ。窓際の机の上にアグラしたまま、窓の外、昼と夜の狭間をボンヤリと見つめている彼女が余りにも儚げだったのだ。その横顔は教室と同じく夕陽で赤く染められ、黒曜石めいた瞳には紅の光が揺らめいている。 24

2016-08-11 22:49:47
アナ・イゴール @KNPITNG

「ん……ンン!」このまま見惚れているわけにもいかずシュンジが小さく咳払いすると、川内は意外そうに目を丸くした。「あれ……まだ残ってたんだ?」「こっちの台詞――」シュンジはそこまで言いかけて、目を逸らした。机の上にアグラ姿勢した彼女の姿を前に、目のやり場に困ったのだ。 25

2016-08-11 22:52:21
アナ・イゴール @KNPITNG

「ウェー……教室で、何を?」「夜を待ってたんだ」川内は窓の外を見ながら答えた。「今日はよく晴れたから、星が綺麗だろうって」昼とは違う穏やかな笑み。その時シュンジは背筋に電撃が走ったような気がした。今ほどの幸運が訪れるのは、恐らく人生で二度と無い! 26

2016-08-11 22:55:19
アナ・イゴール @KNPITNG

シュンジはありったけの勇気を動員した。「夏祭り、行きませんか。僕と一緒に」「え?夏祭り?」川内が再び目を丸くする。「私と?」「ハイ」「いつ?」「明後日、です」「……」川内が目を伏せる。 27

2016-08-11 22:58:28
アナ・イゴール @KNPITNG

そして僅かな間の後、川内はシュンジへはにかんだ笑顔を見せた。「うん、いいよ」 28

2016-08-11 23:01:04
アナ・イゴール @KNPITNG

「よ、良かった!」シュンジは内心踊りだしたいのをこらえ、努めて冷静に言った。星は遠くて手が届かないなどと誰が言ったのか! ……そして、その時シュンジは忘れていた。『今日はよく晴れたから、星が綺麗だろうって』例え夜まで待とうともネオヨコスカでは肉眼で星が見えないことを。 29

2016-08-11 23:04:49
アナ・イゴール @KNPITNG

(「ドント・ウェイト・サマー・スターゲイザー」#2おわり#3へつづく) #ケンペイ天狗

2016-08-11 23:07:10