不知火に落ち度はない その13

@yamoto 氏の #不知火に落ち度はない をまとめました。 以下本家より抜粋 【不知火に落ち度はない】 続きを読む
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yamoto @yamoto

「三つ目。俺が負けたら、お前の好きにしろ。ただし──」 これは譲れない最後の絶対条件だ。 これを守る保証はないが、こいつを信じよう。 なんだかんだでこいつは侍みたいな奴だから。 誇りには人一倍うるさいはずである。 「その時は俺で最後にしろよ」 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 04:45:26
yamoto @yamoto

「……当たり前です」 「そりゃなにより。ちゃんと守ってくれよ」 俺がそう言うと、神通は布袋を手に言う。 「命に代えても」 その言葉は信頼できる気がした。 俺はそれで憂いを断ち、全力を出せる。 とはいえ、死ぬ気も殺す気もないがな。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 04:54:33
yamoto @yamoto

「それじゃ着いてこい。夜が開ける前に終わらせよう」 「…ッ…は、はい」 そうして俺は道場へと向かう。 あそこなら練習してたで済むはずだしな。 万一の事でも、不知火なら旨く処理をしてくれる。 俺はそう信じて、空を見る。 月は皮肉なほど綺麗だった。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 04:58:14
yamoto @yamoto

暗い道場の中。 俺と神通は向き合った。 相手は抜き身の真剣を持ち、俺は素手だった。 最初は一応武装も考えたんだが、相手は艦娘以前に女だ。 俺から見ると女の子だ。 傷つけるのとか、正直勘弁なんだわ。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 05:01:20
yamoto @yamoto

「宜しいのですか、提督」 「本気なんだろ。そうじゃなかった、って理由にされても困る」 構えは八相。いかなる動きもここから出せると思って良い。 一手間違えるだけで確実に死ぬ。 相手はあの年齢で既に達人の粋にある。 神経が研ぎ澄まされていく。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 05:07:25
yamoto @yamoto

「では──お覚悟を」 ぶっちゃけやだ。 死にたくない。 殺すまで恨まれる理由が思いつかな──いや。あったか。 そいや、見ちゃったからな。 この侍ガール的な神通なら、それが理由とか充分考えられる。 ああ、よかった。下手打っても俺だけで済みそうだ。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 05:09:28
yamoto @yamoto

「いいぞ。いつでも来い」 「はい──参ります」 かちり、と刃が一瞬鳴り。 ──神通の姿が消えた。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 05:10:34
yamoto @yamoto

そう見えたのも無理はない。 深く沈み込むように重心を移動させ、無拍子での移動。 無音な上、迫る速度は恐ろしく速い。 ったく、怪物が。 こちとら右目も見えてないってのに。 毒づきながら後ろへと飛ぶ。 銀閃が遅れて、俺の腹の位置を薙いでいった。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 05:21:07
yamoto @yamoto

そのまま逃がすはずもなく、再度刃が振られる。 気づいたんだが、神通は真剣の方が圧倒的に早い。 木刀はどうやら、あくまでも代用品らしい。 袈裟懸けの刃をかわすと即、横薙ぎへと変化する。 柔らかい柄の握りがこの変化を産むのだろう。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 05:26:44
yamoto @yamoto

その変化が始まる瞬間を見きって前に飛ぶ。 虚空を薙ぐ銀閃の音に、刃を避けた事実を知る。 ──無茶苦茶すぎるよな、やっぱ。 床の軋み、空気の流れ、呼吸の音。 全感覚を総動員し、あらゆるものから軌道を読む。 名の通りの、神通の刃を避ける唯一の術だ。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 05:39:53
yamoto @yamoto

「提督」 一言の間に刃が三度降りかかる。 袈裟、横薙ぎ、逆袈裟。 避けきれずに、髪の毛が数本持って行かれた。 「なんだ」 「今度は勝たせて貰います」 二度。同じ軌道で閃く白刃を避ける。 今のはほとんど幸運でしかない。 冷たい汗が首を滑り落ちた。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 05:48:09
yamoto @yamoto

「ですので、提督も本気をご存分に」 「はは。冗談、出してるっつの」 「本気を出してなかった、と後で言わないでくださいね」 再び刀が八相に戻される。 そう言えば、こいつ抜いたあと、鞘を床に置いてたな。 「鞘、使わないのか?」 「心配無用です」 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 05:55:10
yamoto @yamoto

ある逸話をその言葉で思い出す。 「宮本武蔵、知ってるか?」 「ええ。鞘を捨てれば生きて戻るつもりがないというお話ですね」 少し、口に笑みが宿った。 「元より、戦場ではそのつもりです」 「そりゃ怖いね」 華の二水戦。その看板に偽りなしかよ。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 05:58:31
yamoto @yamoto

そこまで常に覚悟してるとか、どんだけだよ神通。 一度やり合えば、自分の意思で刃を手放すことは無さそうだ。 こりゃ、関節を取って腕を破壊するか、意識を刈り取るかしかないじゃん。 重心を前に。両腕を構える。 「無刀取り──ですか」 「どうかね」 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 06:09:39
yamoto @yamoto

こないだ木刀を取ったやり方を示唆した。 うん。お前にあれもう通じないだろ。 あれは意識が外れない限り、絶対使えないからな。 だからこうする他ない。 そのまま一気に床を蹴って駆け出す。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 06:14:31
yamoto @yamoto

間合いが一気に詰まる中、神通は冷静に刀を構える。 そのままなら突き、飛べば袈裟。 横に流れれば即薙ぎ。 そんな様子が構えから見えていた。 だからこそこれは使える。 俺はさらに床を強く蹴り──バランスを崩すように床へ滑り込む。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 06:27:21
yamoto @yamoto

そのまま俺の身体は一気に、床を滑っていく。 バカみたいだろ? よりにもよってこの場面でヘッドスライディングだぜ? 「え──」 予想を完璧に外されたらしい。 一瞬対応が遅れるが、それが致命傷だ。 もうすぐそこにほら──神通の細い足が並んでる。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 06:29:51
yamoto @yamoto

「あ──!?」 それをなぎ払うように腕を動かし、絡め取る。 体勢を崩した神通がそのまま転倒する。 激しく背中から倒れ、どすんと音が一つ。 もつれ込むようにその身体にのしかかり、腕を押さえ込む。 グラウンド勝負になれば、残念ながら俺の方に利がある。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 06:34:59
yamoto @yamoto

暴れるものの、神通は刀を決して手放さない。 この間合いにおいて、それは捨てるべきものだ。 遠慮なくその弱点を突いて、刀のある方の腕を封殺する。 もっと抵抗するかと思ったが、それだけで神通は動くのをやめた。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 06:43:37
yamoto @yamoto

「お見事です、提督。用意した手が台無しでした」 「言うなよ、無様だとは思ってる」 組み敷かれた神通が、悲しげに言う。 ヘッドスライディングなんざ、正直俺もないと思う。 逆に言えばそんな手でもなきゃ全部封殺されたのだ。 真剣神通、怖すぎる。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 06:49:38
yamoto @yamoto

「手を……離していただけますか、提督」 「刀を捨てたらな」 未だに刃は握られている。 木刀の際の事もあるし、神通は二水戦の親玉、不知火の教官だ。 武器が手元にない限り安心できない。 言葉に従い神通は、刃を手放した。 床を滑って届かない場所まで行く。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 06:54:07
yamoto @yamoto

「………これで……いいですか?」 「おう。ありがとな」 緊張が一気に抜けていく。 むっちゃくちゃ 怖かったです はい。 次、万一同じ事があったら、遠慮なく拳銃使ってゴム弾を不意打ちでぶち込んでやる。 っていうか最初からそうしろよ俺。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 06:56:12
yamoto @yamoto

「じゃあ……これで俺の勝ちということで、いいか?」 「………はい。……提督の勝ちで、私の……」 ぽろ、と。 神通の目から涙がこぼれた。 「私……っ……私の……負け…です」 後から後から。 神通の涙がでて、声がどんどんと涙声に変わる。 え、おい。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 06:58:48
yamoto @yamoto

いや待てよ、待ちましょうよ。 ブッ殺せなかったのそんなに不満ですか。 そんな泣くほど悔しいショックですか君。 そんな涙見せられて、提督の方がショックですよ。 ちょっとロープないロープ。 今から吊るから。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 06:59:41
yamoto @yamoto

「あー、そのな。うん。ごめんなさい」 「……いいんで……す……。身の程知らずで……私っ」 ぐす、ぐすと鼻を鳴らして、溢れる涙を止められない神通 いや、え? うん? ちょっと待て。会話に何か齟齬がある。 俺は神通を押さえていた手を離し、身体を離す。 #不知火に落ち度はない

2014-07-29 07:03:26
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