筍提督と僻地の泊地 (6) 2014夏

海軍大将でありイージス艦である提督兼艦雄・筍の、平成のミッドウェーに挑む、ちょっとだけ日常を飛び出した日記。
2
前へ 1 ・・ 39 40 次へ
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

「提督、そろそろ……」 翔鶴の声がして、振り向けば、私の艦娘らがこちらに集まり始めているのが見えました。いつの間にか傍まで来ていた翔鶴には肯いて見せ、しかし、すぐには足が動きませんでした。 そして、次に私が向かったのは、単冠湾の赤城の方でした。そう、再びです。 #僻地の泊地日記

2014-11-25 23:39:32
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

まだ何か? と言いたげな赤城の前で、私は無事に残った右肩のファランクスを外し、手渡しました。 「これは……大事なものなのでは?」 『だからこそ受け取ってほしい。リンガでは量産できるしな』 「しかし、私たちに使えるかどうか……」 『いや、使う必要はない』 #僻地の泊地日記

2014-11-25 23:41:16
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

『CIWSは近接防御火器だ。まだ発展途上だが、防空のお守りとして、執務室にでも飾っておいてくれ』 「……はい。ありがとうございます」 今度の赤城の笑みには、寂しさは見られませんでした。私のせめてもの償いだと察してくれたようです。 #僻地の泊地日記

2014-11-25 23:44:49
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

『また会う日が……いや、会わなければならない日が来るだろう。その時は、また宜しく頼む』 「ええ。お元気で」 『そっちもな。皆に宜しく伝えてくれ』 歪んだ微笑を作り、私はとうとう赤城に、いえ、単冠湾に背を向けました。US-2Cに向かう艦娘の列に交ざります。 #僻地の泊地日記

2014-11-25 23:47:46
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

別れの言葉を明確にしなかったのは、この件を有耶無耶にしたり、忘れたりしないようにするためです。ウェディングドレスと合わせて、私の記憶に二重に焼き付ける根拠とします。 情報統制が利いているらしく、機内に暗い雰囲気はありませんでした。 #僻地の泊地日記

2014-11-25 23:52:09
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

離水。二十六人の艦娘と一人の艦雄を乗せたUS-2Cは、思い出の泊地と悲劇の海から遠ざかっていきます。 トラックを発った時とは違い、私は振り返りませんでした。目の前のことから逃げず色提督への償いをし、あの惨事を再び引き起こさないように計画を前進させるためです。 #僻地の泊地日記

2014-11-25 23:58:09
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

台湾の蘇澳海軍基地を経由し、二十時間に迫る時をかけて飛んだUS-2Cは、何事もなくリンガへと近付いていきます。 空にいる間、一睡もせずに考えていたおかげで、心は決まりました。 帰ったら、しなければならないことが山積みです。 #僻地の泊地日記

2014-11-26 00:06:34

南の果て

筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

リンガに到着した私は、単冠湾の加賀らと同じく修復が中途半端になっている三隈や、小破した時雨らをドックに入れると、すぐさま管理棟へ向かいました。鳳翔も小走りでついてきます。二人の背は<ゆうばり>に呼び止められました。 「お二人共、艤装を拝借します」 『修理か』 #僻地の泊地日記

2014-11-26 23:12:21
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

<ゆうばり>は、鳳翔の艤装は全て受け取りましたが、私の場合は違いました。 「今は、主砲と肩当てだけをください。他は明日以降に」 『それはやっぱり、忙しくなるからか?』 「ええ。総勢二十七名の帰投ですからね」 仕事を前に笑う彼女は、口先だけで愚痴を言っています。 #僻地の泊地日記

2014-11-26 23:15:22
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

私を含め全ての新時代艦の肩当ては、フェーズド・アレイ・レーダーとファランクスを搭載する要となっています。加えて、主砲と同様、常に外界に晒されていますから、システム共々非常に繊細です。 追加で私の肩当てと主砲を手にした<ゆうばり>は、工廠の方へ去っていきました。 #僻地の泊地日記

2014-11-26 23:23:07
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

そこから管理棟に着くまで、歩きながら鳳翔と話します。 『これから忙しくなる。場合によっては秘書を増やす必要があるかもしれん』 「<しょうかく>に声をかけてみましょうか?」 『頼む』 「……それで、具体的には、何をされるのです?」 #僻地の泊地日記

2014-11-26 23:31:58
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

『まずは、会っておきたい子が何人かいる。大和とかローリーとかな』 「そういえば、日記の件で仰ってましたね」 『ああ。それから例の飛翔体の対策だ。実は、ミッドウェーの南東沖に出現した』 色隊の惨状と共にこの件は伏せていたので、鳳翔は声も出さずに驚いていました。 #僻地の泊地日記

2014-11-26 23:35:00
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

「本当ですか……?」 『トラック沖で見たものよりも性能が上がっているらしい。<ゆうばり>や<ゆら>と協力して、軍備計画を念入りにせねばならん』 それから、と続けようとした時、唐突に左腕を引っ張られました。私はバランスを崩し、危うく躓くところでした。 #僻地の泊地日記

2014-11-26 23:36:57
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

「しれーかーん? 分かってるよねー?」 腕の先には、清霜がぴったりくっついていました。 『……ま、イージスが増えた以上、汎用駆逐艦の増強も必要だろう』 私が苦笑いしながら言うと、鳳翔がふふっと笑います。 「懐かれていらっしゃって」 『俺じゃなくて、俺の艤装がな』 #僻地の泊地日記

2014-11-26 23:52:29
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

私も、何処かで感じていたのかもしれません。鳳翔に艦娘の意志の話を説かれたとは言え、新時代艦隊を大きくしていかなければならない、と。 清霜には、後日執務室に来てもらうよう言って、一旦駆逐艦寮に戻ってもらいました。 そして、私たちは漸く、管理棟に帰ってきました。 #僻地の泊地日記

2014-11-26 23:54:55
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

早速、軍備増強計画の草案だけでも練ってみようと、勇んで執務室に入った私ですが、途端に疲労感が押し寄せ、溜め息と共にそれまでのやる気が抜け出てしまいました。 艤装、特に背面構造物が邪魔で、背凭れのある椅子には座れません。私は執務机に力なく腰を下ろしました。 #僻地の泊地日記

2014-11-27 00:04:26
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

「何かお飲みになりますか?」 『燃料が欲しい』 あの燃料に栄養ドリンクのような効果があるかは分かりませんが、気休め程度に飲んでおきます。 鳳翔から受け取った300ml缶を一気に空け、机上に無造作に置きました。効果があるにしても、すぐには現れないでしょう。 #僻地の泊地日記

2014-11-27 00:09:25
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

首や肩を巡らせていると、鳳翔が口を開きました。 「そういえば、単冠湾の赤城は指輪をしていましたね」 『指輪を?』 私は驚いて、咄嗟に彼女の顔を見ました。鳳翔のことだから当然ですが、嘘を吐いている風ではありません。 『……ケッコンしたなんて話は聞かなかったがな』 #僻地の泊地日記

2014-11-27 00:11:58
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

ふと、飛翔体による攻撃を行った重巡リ級との戦闘を終えて、色隊に合流した時のことを思い出しました。 飛翔体は、色提督の四人の空母に確実に命中していました。復活した後のレーダーが捉えていましたから間違いありません。 しかし、次に見た赤城は、無傷でした。 #僻地の泊地日記

2014-11-27 00:15:32
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

そういえば、赤城は「色提督が飛翔体を幾つか撃墜した」とは言いましたが、「色提督が、私に集中した飛翔体を幾つか撃墜した」とは言っていません。 ならば、迎撃できなかった飛翔体によって赤城らが被弾した後に色提督も痛手を負ったが、大破した赤城のために指輪を渡して……? #僻地の泊地日記

2014-11-27 00:21:44
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

状況証拠ですが、辻褄は合います。いえ、色提督のことです、そういうことなのでしょう。艦娘想いの提督が起こした行動で間違いありません。 「提督?」と声をかけられ、私は顔を上げました。鳳翔がこちらの顔を覗き込んでいます。 『いや、なんでもない』 #僻地の泊地日記

2014-11-27 00:24:08
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

『艦娘を大切にする人だから、あの人らしいなと思ってな』 「そうですね。でも、提督も……」 『まあな。そのためにこれを背負ってるわけだ』 机に座ったまま、背面構造物を揺すります。この重さが、私自身が海に出ることに懸かっている責任の重さです。 #僻地の泊地日記

2014-11-27 00:30:20
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

微笑した鳳翔は、「私のことは」まで言って、首を横に振りました。 「いいえ、何でもありません」 『何だよ。気になるなぁ』 「忘れてください」 恥ずかしそうに背を向ける鳳翔。耳が少し赤らんでいます。その姿が可愛らしくてたまりません。 #僻地の泊地日記

2014-11-27 00:34:24
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

そして、ケッコンしたばかりの頃はまだ鈍かった私も、今は違います。 『行動で示してもいいけど?』 その背から目を逸らさずに言うと、鳳翔は体ごと向き直りました。 「でしたら、今……」 『今でいいの?』 私の最後の問いに、鳳翔は赤い顔で肯きました。 #僻地の泊地日記

2014-11-27 00:38:15
前へ 1 ・・ 39 40 次へ