筍提督と僻地の泊地 (6) 2014夏

海軍大将でありイージス艦である提督兼艦雄・筍の、平成のミッドウェーに挑む、ちょっとだけ日常を飛び出した日記。
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筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

夜が二度明けると、いよいよ出航用意が整いました。 色提督と艦娘らを降ろした〈はしだて〉は、〈こんごう〉と〈あきづき〉に挟まれる単縦陣でトラック諸島のある方角へ消えました。そして、修理を受けたか否かにかかわらず、損傷して無理ができない子らは〈ありあけ〉に乗ります。 #僻地の泊地日記

2014-11-24 23:16:21
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「司令官、乗艦!」 〈ありあけ〉のラッタルの上で響く号笛を、私は海面から見上げていました。 色提督が担架で丁重に運ばれていきます。〈はしだて〉の衛生科員が手を施した甲斐あって、最悪の事態は免れました。しかし、未だに目を覚ます気配はないのです。 #僻地の泊地日記

2014-11-24 23:24:58
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色提督の意識は、一体、何処を彷徨っているのでしょうか。 乗艦の誘いを拒否した私は、回収されるラッタルから目を逸らし、宙を見上げました。その辺にいるのなら、取っ捕まえてやる――。 CIWSの片割れがいなくなって軽くなった体ごと見回していると、不意に声を聞きました。 #僻地の泊地日記

2014-11-24 23:31:34
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――お疲れ様。もう、大丈夫ですよ。 私は首を巡らせるのを止め、案外冷静に、〈ありあけ〉を見上げました。 この作戦中、散々聞いた声。あらゆる局面で、ヴェールヌィのすぐ傍から発せられ、機動部隊を元気付け、私にも、いつも勇気と自信をもたらしてくれた声。 #僻地の泊地日記

2014-11-24 23:36:34
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〈ありあけ〉に向き直った私は、自然と敬礼をしていました。貴官こそお疲れ様です。そしてありがとう。 「提督――」 呼び声に振り向けば、鳳翔がこちらに向かってきていました。久し振りに会った気がして、そんな気分でもないのに、頬が綻んでしまいます。 #僻地の泊地日記

2014-11-24 23:48:03
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「MI作戦、お疲れ様でした」 そう言って労わってくれる彼女の顔に、暗さはありません。 色隊の惨状を、鳳翔隊の面々は今も知りません。私が情報統制をかけました。すなわち、あの海を見た艦娘たちに、同じ泊地の者であれ、口外するなと釘を刺したのです。 #僻地の泊地日記

2014-11-24 23:49:35
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あの海戦を説明するのには、例の飛翔体のことまで伝えねばなりません。ですがそれは、リンガに戻り、艦人会議のような場を設けて、皆の前で話したい。それに、今話せば、作戦は終わったのに、余計な混乱を招くだけです。 私は努めて明るく、『鳳翔もお疲れ』と答えました。 #僻地の泊地日記

2014-11-24 23:53:33
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「帰投されたら、まず何を致します?」 『仕事が溜まってるだろうさ。陸の奴ら、容赦ないから』 「ふふ、そうですね。私もお手伝い致しましょう」 『それは助かるな』 鳳翔に釣られて笑いますが、少なくとも色提督を送り届けない限り、胸の痞えは消えそうにありませんでした。 #僻地の泊地日記

2014-11-24 23:57:27
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間もなく、〈ありあけ〉の砲雷長が第1甲板まで下りてきました。 「筍司令、お時間です」 『そうですか。では、出航しましょう』 砲雷長は小さく敬礼すると、通信機に向かって怒鳴るように「錨揚げ、出航用意!」と吹き込みました。 #僻地の泊地日記

2014-11-25 00:03:09
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とうとう、この島と別れる時が来たのです。 〈ありあけ〉が後進を始め、周辺海域の見張り役となる〈あけぼの〉から、ミッドウェー島から離れていきます。私はその動きを見守りつつ、マイクを通して、〈ありあけ〉を中心とした輪形陣に移るよう指示しました。 #僻地の泊地日記

2014-11-25 00:06:50
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第1国防隊群と共に横須賀からやって来て、ミッドウェーに残ることとなった六人の艦娘が敬礼で見送ってくれます。私がそれに応えてすぐに、〈ありあけ〉は機関音を止めたかと思うと、前進に移行しました。 『両舷前進微速、2ktにつけ。針路、〈ありあけ〉に合わせ』 「了解!」 #僻地の泊地日記

2014-11-25 00:09:54
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〈ありあけ〉は段階を踏んで航速を上げます。それについていくにつれて、心に穴が増えていく感覚が強くなっていきました。きっと未練とか後悔とか、そういったものが渦巻いているのでしょう。 そんな私にはお構いなしに、艦隊は単冠湾に向けて航跡を刻みます。 #僻地の泊地日記

2014-11-25 00:18:28
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再び、あの飛翔体で攻撃してくる深海棲艦が出て来やしないか――。 私の心配も杞憂に終わり、それどころか、不審な艦影すら一つも認められないまま、私たちは単冠湾に到着しました……。 #僻地の泊地日記

2014-11-25 00:20:47

思い出の泊地

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単冠湾泊地には、ここに来た時に乗ったものと同型のUS-2Cが来ていました。リンガの誰かが気を利かせて、本土と連絡を取ってくれたのでしょう。 〈ありあけ〉からは、まず重大な損傷を負った色隊の空母らが降りてきて、何処かへ行ってしまいました。きっとドックへ行くのです。 #僻地の泊地日記

2014-11-25 22:47:49
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それから、やはり号笛に見送られ、担架に乗った色提督が降ろされます。単冠湾の艦娘らの希望で、あとの治療はここの施設でやらせてほしいとのことでした。意識不明の人一人を治せる設備があるのかは、私は知りませんが。 色提督と一緒に、付き添いの赤城も陸までやってきます。 #僻地の泊地日記

2014-11-25 22:50:40
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〈ありあけ〉の乗組員の手によって鎮守府へ運び込まれる色提督と、それについていく赤城。私が『赤――』と言いかけたのと同時に、赤城は弾かれたように顔を上げました。 「ええ、覚えています。少々お待ちを」 私は話の調子を崩されて、『お、おう』と曖昧な返事をしました。 #僻地の泊地日記

2014-11-25 23:02:23
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数分後に鎮守府から出てきた赤城は、両手に大小のスーツケースを持っていました。 「こちらの大きい方にウェディングドレスが、小さい方には紺のシャツと白のスカートが入っています。どうぞ、お持ちになってください」 そうでした。私は色提督からプレゼントを貰っていました。 #僻地の泊地日記

2014-11-25 23:08:10
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US-2Cでここに飛んできたばかりのことです。色提督やその艦娘ら手製のウェディングドレスと洋服の上下のセットを巡って一悶着ありました。MI作戦に忙殺されて、すっかり忘れていました。 そして、ケースを差し出して「どうぞ」と言う赤城を、私は直視できませんでした。 #僻地の泊地日記

2014-11-25 23:10:16
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色提督から意識を奪った者として、受け取ることはできないと思ったからです。 徒に頑ななその意思を抱えて逡巡していましたが、次第に、色提督の好意を摘んでしまっていいのかという疑問も芽生えます。それでは、色提督が体を張って守った、単冠湾の艦娘ら以外のものまで水の泡。 #僻地の泊地日記

2014-11-25 23:14:39
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結局私は、「これを受け取ることでMIの悲劇を忘れないようにしよう」と自分を納得させて、ケースを二つとも受け取りました。 『ありがとう。大事にするよ』 「ええ」 赤城ははっきりと、しかしごく短い返事をして、寂しく微笑みました。 #僻地の泊地日記

2014-11-25 23:17:11
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

時雨と夕立を呼んでケース持ちを頼んだ直後、〈ありあけ〉から声がぶつけられます。 「本艦の護衛、誠に感謝します」 見上げれば、艦橋のウィングから、艦長か副長と思しき男がこちらに向かって脱帽敬礼をしていました。 #僻地の泊地日記

2014-11-25 23:19:23
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

私は思わず訊いていました。 『これから、どうされるのですか?』 「大湊で補給を受け、再びミッドウェーを目指します」 それは大変な航海だ。しかし、まさか単艦ではないでしょう。 『護衛はいらっしゃらないので?』 そう問うと、幹部の男はUS-2Cを指しました。 #僻地の泊地日記

2014-11-25 23:23:24
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

見れば、US-2Cから、艦娘が続々と降りてきています。なるほど、ここに来るにも、空っぽでは来ないというわけですか。 そのグループの中から筑摩がやって来て、私の前で立ち止まります。 「私たちは、横須賀・第27重水雷護衛隊です。お後はお任せください」 #僻地の泊地日記

2014-11-25 23:30:47
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

私の鎮守府に筑摩はまだいないので、新鮮な気分でした。私はもちろん、敬礼を返します。 『海路を拓いたとは言え、何が出るか分からない。対潜、対水上警戒は怠らぬように』 「はい!」 筑摩は快活な返事をすると、他の艦娘と共に、〈ありあけ〉の方へ向かいました。 #僻地の泊地日記

2014-11-25 23:34:23
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