- treeofevil
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何事か考えていた『拒絶』がくると振り向いた。その口から紡がれた言葉をひとつずつ理解する。 「うん。ありがとう、『拒絶』」 存在を赦されている、認められている。それが不思議なくらい嬉しくて、――ここに来たときから囁き続ける胸騒ぎに見ない振りを決め込んだ。
2014-08-23 02:41:17「じゃあまあ、とりあえず──広間にでも向かうか」 そう物質主義に告げ、戻ってきた書斎を出て、広間を目指す。しばらく歩いていると、広間に通じる廊下に青いものが見えた。 あんな置物あったか──と見直す。よく見るとそれが置物ではなく、見知った人間の纏う衣服であると気づいた。
2014-08-23 18:31:42「──『無感動』?」 おそらくそうと見える彼女は、だがしかしうずくまったままだ。「うちの人間の一人だ」と物質主義に一言説明を投げてから、足早に近寄った。 「……何があった」 声をかけてから、彼女のそばに散らばるものに気づく。手紙、裏返った写真、そして果実のようなもの。
2014-08-23 18:31:51とりあえず、全てを拾い上げる──手紙の文面や写真の表にはまだ、目を通さなかった。無感動がうずくまったままである理由がもしここにあるのなら、それなりの心構えが要るのかもしれない。 手紙と写真を伏せ、果実が壊れないよう持ち、立ち上がる。
2014-08-23 18:31:57そして、物質主義と無感動との間に重なるように移動しておく──彼女にとってみれば突然『異性』が現れたようなものだ、警戒して攻撃する可能性もあるだろう。迂闊だったかな、と今更思いながら、物質主義と無感動、双方に対し気を向けておいた。
2014-08-23 18:37:48覚えのある声が聴こえ、はっとする。 顔を上げると、そこには知っている仲間の顔。 「……『拒絶』…」 彼女の顔をみると、襲っていた身体の痛みは嘘のように消えた。 だが記憶にはある…思い出したくもない、記憶。 一瞬またあの痛みが襲い掛かってきそうになったが、首を振り、忘れようとした。
2014-08-23 20:31:46手にしていた一枚の写真はくしゃっと握りつぶす。 「嫌な事を思い出しただけです…もう、大丈夫…。」 いつの間にか流していた涙をぬぐう。 「それより貴方も無事だったのですね、よか―――…」 顔をあげると、【拒絶】の後ろに見知らぬ人がいることに気づく。
2014-08-23 20:32:13ここに来る可能性がある人と言えば元々この屋敷に住んでいた五人と、あともうひとつ、 「いせ……い?」 自分と同じように連れてきたのだろうか。 だが違和感しか感じない。 なぜなら彼女が連れて帰ってきた異性とは全く違う体型なのだから。
2014-08-23 20:32:29もしかしたら【残酷】のようにまだ子供なのかもしれないと理解しつつ、異性は大きくなったらあの連れて帰ってきた男のようになるのかな、と不思議そうにその『異性の子供』を見つめていた。
2014-08-23 20:33:20「嫌なこと──な。大丈夫ならいいが、無理はするな」 見た目、無感動は無傷のように見えた。が、内傷や、この手紙からならずとも先の戦いで心的外傷を負わなかったとも限らない。仲間の中では一番、おそらく性格的に怪我に耐性があっただろう自分が無傷で帰ってきたことに、やや悪さを感じる。
2014-08-23 21:33:45「なんか用があったらちゃんと言っとけよ、こっちは体力が有り余ってるからな」 そう釘をさしてから、物質主義のことをどう説明すべきかと少し悩んだ。 ──やっぱり驚くよなぁ…… 現在の所、敵意らしきものを無感動に与えずに済んではいるようだが、きちんと説明しなければならないだろう。
2014-08-23 21:34:03「あー、こいつはな。今ちょっと生きるための自分探ししてるとこだもんで、連れて帰ってみた。特に害意はないから安心しろ」 ……なんだか説明が大雑把になった気がするがまあいいか、と落ち着ける。補足したければ物質主義が補足するだろうし、質問があれば無感動が的確な問いを投げてくるだろう。
2014-08-23 21:34:11頭を抱えて蹲り『異性』――『無感動』というらしい――に『拒絶』が声をかける。それに反応して顔を上げた彼女の声は、『拒絶』とは質感が異なるが、やはり『男性』より高くざらつきが少ない。 僅かに揺れて濡れているのは、泣いて、いたのかもしれない。
2014-08-23 22:12:12何かできないだろうかと白衣のポケットを漁れば、金の小鳥と銀の薔薇、書くものと刺すもの、千代紙がたくさん。 こちらを不思議そうに見ている『無感動』とざっくりした説明を終えた『拒絶』の方へ足を進める。
2014-08-23 22:16:40片膝を突いて視線を合わせ、にこりと笑んで話しかける。 「初めまして、『異性』の方。僕は『物質主義』、『智の剣』のひと振りだったよ」 もっとも今は鈍らだけどね? と首を傾げ、白衣から取り出した銀の薔薇を『無感動』に差し出す。 「あなたは、花は好きかい?」
2014-08-23 22:24:25「生きるための…自分探し…」 【拒絶】の言葉を【物質主義】と名乗ったその男を見つめながら反芻する。 生きるための…今まで考えもしなかったことだ。 既に生きているというのにどこかぽっかりと空いた心は、やはり何かが足りないのかもしれない。
2014-08-23 22:57:11屋敷で何の変哲もなく過ごしていた時と、あの戦いの後では随分変わったと自分でも感じる。 私にとっての生きるための自分探しは戦いになるのだろうか…と少し思考した。 だがしかし連れて帰ってくる、だなんてなんとなく【拒絶】らしいと感じた。
2014-08-23 22:57:32「花…」 差し出された花は見たことないほど綺麗で輝いている。 受け取ろうと手を伸ばすが、はっとしてその手を引っ込める。 これはこの男の禍罪なのではないか。 その【物質主義】という名からするに、おそらくそうだろう。
2014-08-23 22:58:13触れることで何か起こるかもしれない…。 だがもしかしたら本当にただの厚意かもしれない。 害意はない、と【拒絶】は言ったが、先程嫌な事があったばかりというのもあってどうも警戒してしまう。 困ったように【拒絶】を見つめる。
2014-08-23 22:58:28無感動の当惑したような視線に、彼女の言いたいことをなんとなく察する──確かに、自分とて物質主義と初めて会った時は、彼の薔薇に触れるのを『拒絶』したのだから。 しかし、ここに来る決意をした彼は、もう戦う気はないだろう。その理由がない、と彼自身言っていたほどだ。
2014-08-23 23:26:12泣き笑うような顔をしていた物質主義を思い出す。あれが演技ではない、と完全に言い切る事はできないだろうが、信用するタイミング──というのは大事だ。そして自分は信用する、と決断した。 動揺していた所に突然引き合わされた無感動が警戒するのは当然だが、その決断が伝われば、と口を開く。
2014-08-23 23:28:30「俺はな。こいつの手を引いてここまで来た。背後もずっとこいつに任せてた。こいつに何かする気があったら、きっと今頃とっくに俺は死んでるよ。だから、大丈夫だ。……なにより」 無感動に、ふっと微笑む。
2014-08-23 23:28:45「その花を飾ったおまえを、俺が見たい。──きっと似合う」 結局自分は、武器や本や無骨なものがいい、と物質主義に言ってしまったけれど。 黒に蒼が波打つ彼女になら、銀の花はきっとよく映えることだろうと思った。
2014-08-23 23:30:36「…うん。」 【拒絶】の言葉に嘘はないだろうし、そもそも屋敷の仲間のことを疑う要素など始めからない。 戸惑っていた手を再びすっと差しだし、その銀の薔薇を受け取る。 そして大事そうに胸元に掲げて、 「…ありがとう、ございます…。」 と、すこし照れながら、【物質主義】に言った。
2014-08-23 23:56:12胸元に花を掲げた【無感動】の美しさは神々しささえ感じさせた。 「僕こそ、ありがとう。」 受け取ってくれて、信じてくれて。 あふれる気持ちのままに笑う。先ほどの笑顔より柔らかく見えるかもしれない。 「【拒絶】も。ありがとう」 彼女の言葉が、背を預けてくれた信頼がなければ、きっと。
2014-08-24 15:25:31