天上院照樹の憑魔録 1~GOOD END~

あらすじ:狗神に取り憑かれた少年、天上院照樹は『怪異』と呼ばれる異形と遭遇する。狗神に操られるがまま交戦するが、一瞬の不意を突かれ絶体絶命の窮地に……その状況下、狗神から放たれる言葉。彼の選びとる選択とは!?※こちらには18禁描写はありません。
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たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

確かに、その顔は照樹君の知っている天上院読詠で間違いありません。 一児の母にしては若い顔立ちに細い目つき、後ろで短く纏まった黒髪。 しかし、照樹くんの中で母の姿はいつも動きやすい洋服でした。それなのに今、彼女が着ているのは和服…しかも、それは巫女服と呼ばれるものです。 #憑魔録

2014-10-28 20:51:59
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

それに加えて頭に白い鉢巻を巻いている姿はそれだけでも異端でしたが、それを通り越して照樹君に異常だと思わせるものがありました。 細い右腕が握る、棒のようなもの……その先端に付いているのは、銀色に光る曲がった刃。 彼女はその手に、薙刀と呼ばれる武器を携えているのでした。 #憑魔録

2014-10-28 20:53:50
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

「はぁっ、はぁっ……!!ったく……!!」 そんな、見慣れない姿に身を包んだ母、読詠は息を切らしながらも照樹君の方へとゆっくり近づいていきます。 その服装に呆気に取られていた照樹君でしたが、ふと自分の服装も似たようなものであることに気づいてようやく我に返りました。 #憑魔録

2014-10-28 21:01:14
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

そして……自分の姿が異形となっている事にもようやく考えが回ります。 そうなのです、今の自分は狗のような毛が生えた全身に女性の体。 まだ自分の顔を直接目にはしていませんが、鼻が突き出て耳もとんがった顔を見て照樹君だと思われるような事はまずないでしょう。 #憑魔録

2014-10-28 21:05:18
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

それだけでも、充分に辛いことではあるのでしょうが…その時、照樹君の頭に恐ろしい想像が浮かびます。 も、もしかしたら…手に持っているあの武器で切られちゃうんじゃ… 一度頭に浮かんだものを、すぐに消すのは難しく。恐ろしい想像に、照樹君の体はすくんで動かなくなってしまいます。 #憑魔録

2014-10-28 21:12:27
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

そんな照樹君の心情を知ってか知らずか、巫女服の彼女はずんずんとこちらに向かって歩いてきます。 その表情は心なしか、怒っているようにも見えて…照樹君の恐怖も高まっていきます。 しかし、動けずにいた照樹君の前に立った彼女はピタリ足を止め、全身を眺めるように観察すると… #憑魔録

2014-10-28 21:25:49
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

「こんの……馬鹿息子がぁぁぁぁぁぁっ!!」 照樹君の頭に、思いっきりチョップを食らわせたのでした。 #憑魔録

2014-10-28 21:31:33
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

「あれだけ蔵には入るなって口を酸っぱくして言ったじゃないか!!そりゃアタシも鍵忘れたまま出かけるなんてうっかりしてたけどさ、だからって入る馬鹿があるか!!大体お前は昔っから……!!」 星が浮かびそうな痛みに続いて、怒鳴り声。照樹君は、目がグルグルしてきます。 #憑魔録

2014-10-28 21:42:32
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

え?え?どうなってんだ、これ……? 突然やってきた母が変な服を着ていたかと思えば、いつものように照樹君のイタズラに対してのお説教。これでどんな状況か理解しろという方が無茶でしょう。 照樹君の頭には、?マークばかり浮かびます。 訳のわからない内に、お説教の方は終わり…… #憑魔録

2014-10-28 21:48:13
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

…その体は、唐突に抱き寄せられるのでした。 「…心配かけさせるんじゃないよ、全く」 ポン、ポン。 白い狗の頭、その柔らかい毛並みに優しく手が置かれます。 不器用ながら、温かみを感じる手つき、悪戯する自分を咎めながらも最後には気遣ってくれるその言葉。 …母の、ぬくもり。 #憑魔録

2014-10-28 21:54:40
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

俺が……わかるの……? 泣きそうな声には、優しい声色が返ってきました。 「馬鹿だねぇ、あんたは。自分の息子がわからない親なんて……いるもんかい」 ぎゅっと、その腕はより強く彼女を抱きしめて… ひ、ぐ……うわぁぁぁぁん!! 照樹君は、こらえきれずに泣きだしてしまいました。 #憑魔録

2014-10-28 22:31:53
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

それから泣き止むまでの間……照樹くんはずっと、母の腕に優しく抱かれ続けていたのでした。 #憑魔録

2014-10-28 22:45:32
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

「……ったく。いつまで経ってもガキだねぇ、アンタは……」 うるさいよ、もう…… あれからしばらくして、泣き止んだ照樹君は今度は恥ずかしそうにそっぽを向いてしまいました。状況が状況だけに先程はつい甘えてしまいましたが、本来照樹君はまだまだ反抗期真っ盛りなお年ごろなのです。 #憑魔録

2014-11-13 17:50:59
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

そんな照樹君を見ても、母親は愉快そうにからからと笑うだけでした。自分の母が人の不幸を見て笑う性悪な性格をしていることに、照樹君はため息をつきます。 「はー、笑った笑った。で……アンタ、いつまでその姿でいるつもりなんだい?見られたくなきゃさっさと戻んな」 ……は? #憑魔録

2014-11-13 17:54:02
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

え、い、今、なんて… 母親があっさり言い放った言葉の意味を、照樹君はすぐに理解できませんでした。 「はん?だから、アンタに取り憑いたその狗神を札の中に押し戻せって言ってんだけど…ふむ」 しばし、お母さんは何か考えるような素振りをしながら照樹君に近づくと… #憑魔録

2014-11-13 18:04:48
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

「よっ、と」 バシン!! だっ!? 思いっきり、照樹君の突き出た鼻頭にデコピンを食らわせたのでした。 デコピンと言ってもそれは、女性から突き出されたとは思えないぐらいの強い衝撃のもの。痛みで一瞬視界が真っ白になり、思わず照樹君は尻もちをついてしまいました。

2014-11-13 18:14:30
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

何すんだよ!!…………っ!? 理不尽な痛みに講義の声をあげた時、照樹くんは気が付きました。 声が、明らかに低くなっているのです。落ち着いた大人の女性の声から、活発な男の子特有の低いものに。 バッ、と照樹くんは視線を下に向けます。そこには黒の学ランに、起伏のない平坦な胸。 #憑魔録

2014-11-13 18:31:39
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

手を動かして見ると、何の変哲もない肌色のものが目に入ります。思わずそれで顔に触れて見ても、鼻は突き出ておらずフサフサの毛も生えておりません。 こ……これって……!! 照樹君の姿は、何の変哲もない人間の男の子のものへと完全に戻っているのでした。  #憑魔録

2014-11-13 18:41:05
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

は、え、なんで……!? あれ程元に戻りたいと思っていたのに、いざ戻ってみると照樹君は困惑してしまいました。それはそうでしょう、照樹君ははっきりと自分の……ミコトの口から、「戻すことはできない」という言葉を聞いているのですから。 『あー……その、なんじゃがの……』  #憑魔録

2014-11-13 18:58:39
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

ばつの悪そうなミコトの声が、元の姿に戻ってなおも頭の中に響きます。 『……儂は、嘘は言うておらんぞ。儂はの、「儂には」元に戻せぬ、と言ったのじゃ。元に戻る方法がない、など……最初から、言うておらぬ』 言葉自体は挑発的でしたが、どこか申し訳無さも感じるような声音でした。 #憑魔録

2014-11-14 19:27:59
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

目が点になり、照樹くんはしばらく事態を飲み込むのに時間を要します。しかし、ようやくミコトの行動の意味に気づいて……声をあげました。 つ、つまり……俺をからかってただけ、って事? 『……そうなるの』 頭の中の声は、静かに照樹君の言葉を肯定したのでした。 #憑魔録

2014-11-14 19:34:02
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

は、ははは……なんだ……よかったぁ……!! 脱力した照樹君は、尻もちをついたまま路上に寝そべってしまいました。その笑顔に、さっきとは違う意味での涙をうっすらと浮かばせて。 「…ふん。大方予想はついてたけど、やっぱりそこの狗神に誑かされてたって訳かい。ったく……」 #憑魔録

2014-11-14 19:41:05
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

呆れたように言いながら、読詠は照樹君の腕をとって体を引っ張りあげました。 「この札の危険性、照樹にも理解できたね?もう二度と、勝手に蔵に入ったりするんじゃないよ。どれ……」 そのままもう片方の手を伸ばし、照樹君のつけていた絆創膏ーー札と呼んでいたものーーを掴みます。 #憑魔録

2014-11-14 19:46:05
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

ーーーー待った!! 今にも札が剥がされようとした時、照樹君はお母さんの腕を止めました。 その前に、ちゃんと説明しろよ!!天上院とか、怪異とか、狗神とか…とにかく、全部!!母さんなら、全部知ってるんだろ!? 照樹君はあらん限りの思いを込めて、叫びます。 #憑魔録

2014-11-14 19:58:52
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

ミコトから聞いただけでは半信半疑でしたが、彼女の一連の言動を見ている内に信じざるをえないと理解したのでした。 目の前の母は、何もかもを知っていると。 読詠は照樹君の威勢に最初は驚いていましたが、悩むように頭を掻いたかと思うと… 「…はぁ」 観念して、溜息をつきました。 #憑魔録

2014-11-14 20:05:01