天上院照樹の憑魔録 1~GOOD END~
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「……それで、だ。アンタは、どっちを選ぶ?」 真っ直ぐに照樹君の目を見つめて。読詠は、静かに問いかけました。 #憑魔録
2016-11-17 22:12:28………………。 照樹君は、考えます。 おそらく、そう選べば本当に今日起きたことの全てを忘れられるのでしょう。今までありえない事ばかりが起こっていたのです、今更記憶を消されるぐらいじゃもう驚きません。 けど、それは……怪異という存在を、どうする事もできないという事です。 #憑魔録
2016-11-17 22:19:05今日は、ミコトのおかげでたまたま助ける事ができました。けれど、明日は?明後日は?誰かが、怪異に傷つけられてしまうかもしれません。 そんなのは、t「あぁ、忘れてた。一つ、忠告しておくがね……」 急に耳に入ってきた母の声が、照樹君の思考を寸断しました。 #憑魔録
2016-11-17 22:21:32何だ、と照樹君が疑問に思ったのは一瞬。二人の間の距離が、瞬きの間に詰まりました。 「あんたは、こう思ってるかもしれない。最弱とは言われながらも、自分は今まで怪異に取り憑かれた事なんてない。だから、実際にはミコトさえいれば危険なんてないんじゃないか……って、ね」 #憑魔録
2016-11-17 22:27:54照樹君は、その言葉に思わず息を呑みます。ドキリ、としてしまったからです。照樹君は、さっきまで、こう思っていたのですから。 怪異がきたら、自分がなんとかした方がいいんじゃないか。 それはすなわち……自分なら、なんとかできる。そう思っていたという事に、他ならないのです。 #憑魔録
2016-11-17 22:28:35「それは違う。あんたが今まで取り憑かれなかったのは……」 そこまで言うと、目と鼻の先にいた読詠が、照樹君の胸ぐらを掴んできました。 うわわっ……!? 突然の母親による力まかせな行為に、照樹君は戸惑います。 #憑魔録
2016-11-17 22:30:14引き剥がそうにも、読詠の力は照樹よりも遥かに強いのです。この体のどこに、筋肉があるのでしょう……とは、口にしたらそれこそ殴られそうですね。 読詠は掴んだ胸ぐらの、ボタンを外します。照樹君がいつも着ている、学ランの。 そして、その裏地を見えやすいようにひっくり返しました。 #憑魔録
2016-11-17 22:30:59読詠はそこで、何かをブツブツとつぶやきます。日本語のようではありましたが、聞き慣れない単語ばかりで何を言っているのか照樹君にはわかりません。 大した時間はかからずにそれが終わると、読詠は顔を上げます。掴んだままの服の裏を、見せつける為に。 「……こいつのおかげ、だよ」 #憑魔録
2016-11-17 22:34:58見せつけられた服の裏には……照樹君の身に覚えがない、お守りがありました。 え……これ、は…… 照樹君は、今日はこれ以上驚く事など無いだろうと思っていました。しかし、その考えはこの瞬間、打ち砕かれてしまったのです。 そのお守りは、明らかにおかしかったから。 #憑魔録
2016-11-17 22:38:47当然ですが、この学ランは照樹君が毎日のように学校へと着て通っているものです。ですが、照樹君はこんなお守りを見たことは一度もありません。 なのに、どうしてこのお守りは……学ランに、『縫い付けて』あるのでしょう。 #憑魔録
2016-11-17 22:39:33「これはね、怪異があんたの存在に気づかないようにする護符だよ。ただし、あんたに見えないよう特殊な術をかけてあったけど……ね」 な、なんで、そんな事…… 震える声で、照樹君は尋ねます。それだけ言うのが、精一杯でした。 #憑魔録
2016-11-17 22:46:02「勿論あんたが日常生活を何も気にせず過ごせるように、だよ。あんたには、怪異を見る力さえ存在しないんだ。こうでもしないと、学校に行ってる間にあんたは怪異に憑かれてたかもしれない。それとも、あんた……怪異にビクビクしながら毎日を過ごしたかったのかい?」 #憑魔録
2016-11-17 22:47:27でも!!学ラン以外を着てる時は、どうしてたんだよ!!別に、俺はこればっか着てたわけじゃ……!! 必死に照樹君は言いました。けれど。 「なーに甘っちょろい事言ってんだ。そんなの簡単だよ。照樹の洋服全部、そいつを縫い付けておいてるだけの話さ」 あっさりとした、返事でした。 #憑魔録
2016-11-17 22:49:37…………。 けれど、今度こそ。照樹君は、何も言えなくなりました。今まで、当たり前だと思っていた日常。人間として平穏に過ごす、どこにでもよくある日常。 それが……当たり前だと思っていたのは、自分だけだったのです。 じゃあ、俺は……本当に…… 愕然と、それだけが漏れました。 #憑魔録
2016-11-17 22:51:58「……理解したようだね。そうだ、あんたはそれだけの『最弱』って事なんだよ。そんなあんたが、退魔師をやろうとすれば……どれだけ危険か、良く考えるんだね」 脅すような物言いの、神妙な読詠の言葉。しかし、今の照樹君にはそれが本気なのだという事がわかってしまいました。 #憑魔録
2016-11-17 22:52:30――――自分は簡単に怪異に取り憑かれてしまう、弱い人間なのだと。 退魔師になったところで、誰かが怪異によって傷つけられる前に……自分が傷つける側に回ってしまうかもしれないのです。 しかし、退魔師にならないという事は。 ミコトとは、もう会えなくなるという事でもあります。 #憑魔録
2016-11-17 22:56:55それでも……相手は、今日会ったばかりの人間ですらない異形の者。そんな彼女と会えないことよりも、自分の身の安全の方が遥かに大事でしょう。 照樹君は、思い出してしまいます。先ほど自分を襲った、恐るべき怪異の事を。それに追い詰められた時の、どうしようもない恐怖を。 #憑魔録
2016-11-17 22:57:32退魔師になるということはこれから先もあんな思いをしなければいけないと、そういう事なのです。嫌でも、背筋に冷たいものが走ってしまいました。 俺、には。退魔師は…………………… 悩んで、悩んで。そうして照樹君は……結論を、だしました。 #憑魔録
2016-11-17 22:58:33俺に、退魔師は…… →俺には、できない事だ →俺一人じゃ、きっと無理だ ……おや?もう一度、選択肢が出てしまいましたね。さて、ここに至った照樹君は一体どちらを選ぶのでしょう…… 一つだけ、分かる事としては。この物語は、既にグッドエンドであるという事です。 #憑魔録
2016-11-17 23:01:40~~~~~~~~~~~~ 俺に、退魔師は…… →俺には、できない事だ 俺一人じゃ、きっと無理だ #憑魔録
2016-11-29 21:16:33~~~~~~~~~~~~ 俺に、退魔師は…… 俺には、できない事だ →俺一人じゃ、きっと無理だ #憑魔録
2016-12-22 20:20:23