天上院照樹の憑魔録 1~GOOD END~

あらすじ:狗神に取り憑かれた少年、天上院照樹は『怪異』と呼ばれる異形と遭遇する。狗神に操られるがまま交戦するが、一瞬の不意を突かれ絶体絶命の窮地に……その状況下、狗神から放たれる言葉。彼の選びとる選択とは!?※こちらには18禁描写はありません。
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たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

「こんなに早く、アンタに話す事になるなんてね……とはいえ、ここまで来て隠し通すなんてできる訳ないし…」 そんな風に前置きして、読詠は照樹君の方へと向き直ります。 「…わかったよ。照樹、あんたにゃ全部話す。そこの狗神の事も…アタシら、『天上院』の一族の事もね」 #憑魔録

2014-11-14 20:13:48
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

「アタシら『天上院』の一族は、代々伝わる退魔師の家系なのさ。それも、江戸の頃からの記録が残っているぐらいの古株な、ね。高い霊力と魔に対する抵抗力を有する天上院は、当時のお偉方から相当重宝されてたらしいよ」 始まった読詠のお話は、照樹君の想像を遥かに越えたスケールでした。 #憑魔録

2015-02-01 19:29:19
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

しかし先程までに起きた事象の全てが、母の真剣な表情が、照樹君にこれがまぎれもない真実なのだと容赦なく語っています。 「一族の者も、頼られる事を何よりの誇りとして代を経ながらも途切れる事無く退魔を続けていったそうなんだがね…何代か続けていったある時に、問題が起きたんだよ」 #憑魔録

2015-02-01 19:33:32
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

「ある子供の霊力がね……非常に弱かったんだよ。それも、親には産まれた時から当たり前のように認識できた怪異の存在を、ぼんやりとしか見えない程に。それでも、当時の天上院は強さを誇りとして退魔を続けてきた一族だ。子の才能を信じて、親はその子供も退魔師として育てたが……」 #憑魔録

2015-02-01 19:36:56
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

「……結局、その子供は怪異に対する抵抗力さえ殆どなかったらしい。怪異に取り憑かれ、その強さを引き出す依代として利用され暴走し……最後には、同じ一族の者によって祓われたそうだよ」 ふぅ、と複雑な感情を秘めた溜息が読詠の口から吐き出されました。 #憑魔録

2015-02-01 19:42:34
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

「普通の人間ならばね、そんな事はまず起こらないんだよ。怪異に対する抵抗力……それを『融合適性』と呼ぶ奴らもいるがね、とにかくその力と霊力は全くの別モンだ。霊力を持たなくても気合や精神力のみで怪異を取り除く事は、難しいが不可能じゃない……病は気から、とよく言うだろう?」 #憑魔録

2015-02-01 19:48:37
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

「しかし、アタシらだけは違った。怪異に取り憑かれ、暴走した一族の者を同じ一族が祓う……そんな悪夢のような事が、代を経る毎に何回も続いたんだ。やがて、一族は悟ったんだよ。天上院は、強さを誇る一族なのではない。ただ、霊力と抵抗力の強さが比例するだけなのだ……とね」 #憑魔録

2015-02-01 19:54:47
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

「外様の退魔師やら無関係の一般人を、いくら家系に呼び込んでも無駄だった。強い者が無類の強さを誇る分だけ、どうあがいても弱い者が現れる…その内に、一族の中で弱い者への風当たりは徐々に強くなっていくのは当然だろうね。産まれた時に強者か弱者かを決められる…当時は酷い有様だったらしいね」

2015-02-01 20:00:26
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

……っ。 照樹君は、ごくりと唾を飲み込みます。自分の家の持つ暗い歴史を知り、身体を流れる嫌な汗が止まりませんでした。 そんな照樹君の心情を知ってか知らずか、読詠は深刻な表情を崩さずに言葉を続けます。 #憑魔録

2015-02-01 20:05:13
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

「……まぁ、それもどっかの馬鹿な狗神が大名に取り憑いて城から脱走するなんて悪目立ちする事しでかした挙句アタシらに捕まるなんて事があるまでの短い間だけの話らしいがねぇ」 ……へ。 ……かと思えば、次の瞬間にはおどけた表情で読詠は思いっきり笑うのでした。 #憑魔録

2015-02-01 20:07:48
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

あ、あの。母さん、まさかその狗神って…… 『あー、あの時の事じゃな。あれは当時、随分と楽しかった記憶があるの』 先程までとは違う意味で震えた声をあげる照樹君の頭に、悪びれる素振りのない声が響き渡ります。 照樹君は、肩に入った力がどんどん抜けていくのを感じていました。 #憑魔録

2015-02-01 20:10:32
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

『いやー、当時はあんな高い建物めったになかったしの。そこから一度飛び降りる感覚を味わいたかったのでな、高い所におった奴に取り憑くのが手っ取り早かったのよ』 「そんなバンジージャンプ感覚で気軽に大名を行方不明にされたらそりゃアタシら一族の者総出にもなるだろうねぇ……」 #憑魔録

2015-02-01 20:15:15
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

楽しそうに笑うミコトの言葉を照樹くんが伝えれば、読詠からは呆れ返ったような声が帰ってきます。 「…まぁ、とにかくだ。アタシらはその狗神を追い詰めたが、いつものように退治するのではなくあくまで捕縛した。そして…ある契約を結んだんだよ。今でも続く、大事な契約を……」 #憑魔録

2015-02-01 20:25:50
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

契約……? 「あぁ、それがそいつを蔵に封じ込めてた理由でもある。ま、簡単にいえば『お前を見逃してやるから代わりに力を貸せ』、ってところだね。さっき、抵抗力は『融合適性』とも呼ぶって言っただろう?抵抗力の低さは、そのまま取り憑いた怪異の力を引き出す事に繋がる……」 #憑魔録

2015-02-01 20:34:49
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

「一族は、融合適性を利用する事を考えたんだよ。あらかじめ怪異に取り憑かせておけば他の奴に取り憑かれる心配もないし、怪異の力は味方ならば戦力として充分な利用価値がある。元々退治を生業としてきた一族だから、反発の声も少なくなかったみたいだけどね…最後には丸く収まったそうだ」 #憑魔録

2015-02-01 20:44:04
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

「勿論、ある程度行動を封印する事は条件としてあげられたけどね……だから、その札の中にそいつは封じ込んであるのさ。用がない時以外に暴れられても困るからねぇ」 読詠はそう言って、照樹君の鼻に貼られた絆創膏……ではなく、封印の札を指さして言います。 #憑魔録

2015-02-01 21:01:28
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

けど…… そこに、照樹君は言葉を加えます。 ミコトは、それでよかったの?それって、ただ利用されるだけって事じゃ…… 『確かに逃げる事は出来んこともなかったがの、ビクビクしながら生きるなんぞ性に合わぬのでな』 照樹君は慎重に問いかけましたが、ミコトの返事は軽いものでした。 #憑魔録

2015-02-01 21:09:10
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

『抵抗力の弱い者に次会うまで数十年といったところじゃったが、儂にとって大して長い時間でもないからの…なんじゃ、同情してくれておったのか?』 だ、誰が!! 愉快そうに聞こえてくる声につい反発してしまう照樹君。ですが、本当は言う通りに彼女の境遇に同情を感じてもいたのでした。 #憑魔録

2015-02-01 21:39:53
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

「…さて、照樹。ここまで話したら…もう、わかるね?」 そこに挟まれる、神妙な読詠の声。照樹君は、母の言いたい事に察しがついていました。 霊力の低さと融合適性がの高さが比例する天上院家の体質。そして、ミコトの力を彼女以上に引き出す自分の体質。 ピースはもう、揃ったのです。 #憑魔録

2015-02-01 21:44:35
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

「照樹。アンタはね……歴代の天上院の一族の中でも、"最弱"だよ」 そして、照樹君がたどり着いた答えと同じ内容をはっきりと読詠は告げるのでした。 #憑魔録

2015-02-01 21:46:53
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

「本来の退魔師ならばわずかでも認識できる怪異の存在を、感知する事さえできない。怪異に取り憑かれても、自力でどうにかする術がない。その上怪異の力を極限まで引き出してしまい、凶暴化させてしまう……アンタはね、そういう奴なんだよ」 厳しい表情で、読詠は照樹君へと語ります。 #憑魔録

2016-11-17 22:03:29
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

「だから、アンタは選ばなくちゃいけない。今日この日から、そこの狗神と一緒に退魔師として生きていくか……それとも」 そんな彼女が照樹君に突きつけたのは、選択肢でした。 「……今日の事は忘れて、今までどおりの日常を過ごすか――――」 それは、一見すればとても優しいような。 #憑魔録

2016-11-17 22:05:27
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

わ、忘れるって……どう、いう…… 「言葉通りの意味さ。今日の事は、悪い夢だった。封じられている狗神なんて、うちにはいない。アンタは、今日が終わったらそう思えるようになる。昨日までと同じ、平穏な日常に……戻れるんだよ、照樹は」 #憑魔録

2016-11-17 22:05:52
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

「退魔師になったら、そうは行かない。この街に現れる怪異と、戦わなければならなくなる。それも、力のないアンタはそこの狗神と協力して、だ。当然、ミコトの力を借りるだけじゃなく、自分で体を動かす修行だって必要だ。そうなれば、放課後に遊ぶ事だってできなくなるかもしれない……」 #憑魔録

2016-11-17 22:06:39
たんがん@R-18創作垢 @monoeyeforging

「少なくとも、命の保証なんてものはされない。この道を選ぶっていうのは、そういう事なんだよ」 本当はもっとアンタが大きくなってから言うつもりだったんだけどね。そこまで言って、読詠はそうこぼしました。そして、改めて照樹君に向き直ります。 #憑魔録

2016-11-17 22:11:49