rsbs日誌#28

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　…―――！！歯を食いしばって目の前の島を鋭く駆け抜けていっているのに、背後から感じる悪寒が止まらない。ボイラーもタービンも速度計もレッドゾーンギリギリを示しっぱなしだって言うのに、まるでスピードが足りない様な恐怖感。ゴールラインまであと少し。だけどそう…これは…

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#rsbs日誌　『あの時の感覚に似ている』…そう、激しい音を立てて。一筋の黒い風が、私を追い抜いていく。微笑みと共に。激しく白い水飛沫を撒き散らして、歪で野性味溢れる艤装を背負った背中を、自分へとありありと見せ付けていきながら。「チャーオ」ぽつりと呟く重巡リ級の声が良く聞こえた…

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#rsbs日誌　youtube.com/watch?v=jL9e6P… (イメージソング)

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#rsbs日誌　離されていく…！追いつけない！スロットルは全開で、機関部の妖精さん達だって全力で必死に暴れまわる機関を宥めすかして、蒸気漏れを抑えてくれているというのに…！夕張…龍驤…木曾…工廠の皆…提督…！嫌だよ！私、ここまで皆に助けて貰ったのに、また負けるなんて嫌だ！

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#rsbs日誌　涙目になった世界で、不意にちらりと艤装に取り付けられた紅いボタンが眼に入る。使用禁止と黄色と黒で彩られた、危険を知らせるモノ。「緊急出力稼動（スクランブル・フルブースト）ボタン…」島風はぽつりと呟き、前日の夜の事を思い出していた。偽装の最終チェックをしていた時を…

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#rsbs日誌　「よいか？島風。これは本当に、本当に己の力では如何しようも無い時にだけ使うんじゃぞ」「如何しようも無いって…嫌な言葉だね」島風は呟いた。そう、あの時重巡リ級に抜かれた時だってどうしようもなかったのだから。「応とも、嫌な言葉じゃ。じゃがな島風…避けて通れぬ道もある」

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#rsbs日誌　「スピードを追うと言う事は理不尽の連続じゃ。些細な出来事で最高のレコードを逃す羽目になる。そして時として…自殺にも等しい行為をしなくては我慢が出来ん。ほんの些細な自尊心を満たす為だけに、大怪我を追うのじゃ」「…提督も、だよね」「おう。何度やらかしたか判らん」

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#rsbs日誌　「しかし、しかしじゃ…恐ろしい負債を膨大に抱え込んだとしてもスピードを追い求めるモノは覚悟を持ってして危険な一歩を踏み出そうとする。お主にその力を授けてやろう」「…でも、明らかに危ないよ？」島風は危険なオーラが漂うボタンを少し怖そうに見つめながら呟いた。

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#rsbs日誌　「ああ、わしが趣味丸出しで技術力を注ぎ込みに注ぎ込んだ緊急出力稼動（スクランブル・フルブースト）じゃからな…覚えておくが良い島風よ。コレを一度押せばおぬしは紛う事なき『世界最速の駆逐艦』となるじゃろう…ただし、１００％必ずぶっ壊れる。ぶっ飛んでバラッバラじゃ」

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#rsbs日誌　「壊れても良い。と言う覚悟が無い限り絶対に押すではない。お前さんが後悔のどす黒い海に溺れてしまうじゃろうからな」　…――-―島風は葛藤した。そして提督に悔しさを語ったあの時を思い出す。【一歩間違えれば、お主は大火傷に大怪我じゃ】と…だが、無念を抱えるのならば…

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#rsbs日誌　考えている暇はもう残されていない。今もぐいぐいと、マージンが広げられていく。島風は決断した。「妖精さん！緊急退避！艤装の制御系を全部私に回して！」「如何する気ですかお嬢さん！」機関部の釜炊き屋の妖精さんが、ススで顔を真っ黒にしながら偽装から顔を出した。

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#rsbs日誌　「理由はあとで！お願い！妖精さんたちを怪我させたくない！」彼女の切羽詰った声を聞き入れて、妖精さんは頷いた。「緊急退避！お嬢さんから脱出しろ！」拡張艤装からワラワラと妖精さん達が溢れ出てぽちゃぽちゃと海へと飛び込んでいく。「機関長も早く！」「怪我しないでね！」

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#rsbs日誌　最後の一人の妖精さんが脱出して、艤装の制御系が全部自分自身にコネクトされるのを確認した。…ごめんなさい。と島風は一言呟く。涙を振り払うように呼吸し…そして「うわあああぁぁぁ！！！」握り拳を作り、紅いボタンを叩く。緊急出力稼動（スクランブル・フルブースト）、稼働…！

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#rsbs日誌　『どうしたのでしょうか！島風、艤装から妖精さん達を退避させます！無謀にも近い！細かな制御は如何する気なのでしょうか！』「あー…島風の奴。あれを使う気じゃな」カキ氷をしゃくりしゃくりと食べていた提督が呟く。そして携帯電話を取り出した。「夕張よ。救護班を用意じゃ」

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#rsbs日誌　『救護班を用意って…まさか！』突然の言葉に夕張は驚きを隠せなかった。「使う気じゃ。あやつ、艤装の妖精を逃がしおった。自分ひとりだけが痛い思いをすれば良いと思ったのじゃろう」『非常用の修復ドッグを用意！救急修復液も準備して！早く！』破滅へのカウントダウンは封切られた

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#rsbs日誌　スピーカーから驚愕の声が聞こえた。「…始まったかや。死ぬでないぞ。島風」提督は静かに中継テレビを眺める。周りに居た艦娘達もまた、島風の行く末を見守った。限られた時間の中で出来る事は全てしてやったのだ。後はただ無事にゴールラインを駆け抜けてくれる事を祈るばかり。

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#rsbs日誌　艤装が悲鳴を上げる。竜骨が歪む。科学と魔術の粋を集めた金属で作られた骨格が軋む。燃え滾るボイラーが送り出す蒸気パイプが圧力で歪められる。タービンが絶叫する。そこら中から破壊と崩壊の旋律が聞こえ、蒸気が溢れ出してくる。爆発寸前だ。メーターの殆どが振り切れている。

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#rsbs日誌　スロットルは全開だ。いいや、もう戻せない。台風の様に吸い込むファンネルの空気量があまりに膨大で閉じる事が出来ない。だけど…最早関係ない。目の前にあるのは殆ど直線と言ってもいい。スピードが伸びてくれさえすればそれでいい。負ける絶望よりも速くチェッカーを振られればいい

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#rsbs日誌　島風の体に響き渡る。嘗て提督が語った言葉。血肉の様なパワー。女神の息吹きの様な風を感じる。バルブが、カムが、まるで生命の様な温もりを持って力を与えてくれる。それは暴力的でもあった。だが酷く愛おしかった。「いっけぇぇぇぇ！！」ただ一言。何物にも勝る絶唱が轟いた。

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#rsbs日誌　それは余りにも古臭く、余りにも洗練されていて、余りにも矛盾していた。不要な摩擦をゼロにまで削ぎ落とし、熱効率を限界に引き上げ、はち切れんばかりに圧縮を高めて、トルクを高める為の絶妙な排気干渉を与えられたマフラー。三段膨張式４気筒レシプロ蒸気エンヂンが唸りを上げる。

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#rsbs日誌　ぐんぐんと、目の前の背中が大きくなる。限界が目の前にまで押し迫る。島風は叫んだ。「お願い！もう少しだから！もう少しだけ！私に力を！貴女の力を！」涙声の、悲鳴にも程近い願いの言葉を艤装へとぶつける島風。煙突が吼え、黒煙から紅蓮の火の粉が巻き上がる。暴走機関車の様だ…

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#rsbs日誌　加速が乗る。最早航行ではない。滑走に程近い。喫水はギリギリまで上がってしまい、辛うじて船底が海水に浸っている。スタビライザーと舵とスクリューが海から離れてしまったら、島風は空へと舞い上がってしまうだろう。速度計は、当の昔に１００ノットを振り切っていた。