「フラワー、サン、アンド・レイン」#2 ――『ニンジャスレイヤー』二次創作小説

サイバーパンクニンジャ活劇『ニンジャスレイヤー』(@NJSLYR )の二次創作小説です。 第一回(http://togetter.com/li/705461 ) 第二回(このまとめ) 第三回(http://togetter.com/li/734011 )
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うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「しかしそれでは彼らも納得はすまい」ソードモンガーが無精髭を撫でながら言った。「ラスティネイルとスカウトマン、彼らはソウカイヤのエンブレムを戴いている」「そこはもとより私どもの範疇で」恰幅のいい男が答える。「交渉はお任せ下さい」 19

2014-09-24 00:32:37
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「フム……どうするね、ソードモンガー=サン」ブラックヘイズが訊ねた。「貴様が動かねば俺も動かん」「同感だ」ソードモンガーが答えた。「一人で倒せる相手とも思えん。お互い野良犬、徒党を組もうにも仲間がおらん」二つの闇が探り合った。「やるか」「やろう」どちらともなくそう言った。 20

2014-09-24 00:35:10
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「ありがとうございます」恰幅のいい男がテーブルに両手を突きオジギした。ボブカットの美女が契約書を差し出した。二人のニンジャはこれを受け取りサインとハンコをした。美女がハンドヘルドUNIXでデジタルスキャンした契約書のハードコピーが、携帯巻物プリンターから出力、装丁された。 21

2014-09-24 00:38:55
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「これで契約成立ですな」恰幅のいい男が契約書を収めたアタッシェケースを指紋ロック、クロムモリブデンの手錠で自らの左手につないだ。その間に、ボブカットの美女が二人に携帯IRC通信機を渡した。「暗号化された専用回線です」受け取るブラックヘイズの指に、美女の指が触れた。 22

2014-09-24 00:42:56
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「……ウメノカ」ぽつりとブラックヘイズが呟いた。「エッ?」「趣味のいい香水だ」「ありがとうございます」美女がそつなくオジギし、美しくカットされた髪がさらりと鳴った。「先程の録画データをもらえるかね」ブラックヘイズが言った。美女が上司を振り返り、恰幅のいい男が頷いた。 23

2014-09-24 00:45:25
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「他に必要なものがございましたら、そちらからご連絡ください。二十四時間対応いたします」恰幅のいい男が言って立ち上がるのと、屋形船が微かに揺れるのは同時だった。フスマが開き、サイバーサングラスを掛けたポニーテイルの男が顔を出した。「着きました」 24

2014-09-24 00:49:18
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「新型だな。さっきの映像で見たものと同じだ」男を見たブラックヘイズが言った。「Y-12型です。ご入用でしたら一体からリース致します」「考えておこう」ブラックヘイズ、恰幅のいい男、ボブカットの美女、ソードモンガーの順で、四人は屋形船を下りた。 25

2014-09-24 00:52:26
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「相手の現在位置がつかめ次第、お二人にご連絡します。今後は彼女が窓口となります。ご了承くたさい」恰幅のいい男がボブカット美女を手のひらで示した。「よろしくお願いいたします」美女がオジギした。「ウメコ=サン、だったな。よろしく」差し出したブラックヘイズの手を美女が握った。 26

2014-09-24 00:55:56
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……ノビドメ・シェード・ディストリクトのマンゲキョめいた喧騒を離れた波止場に、ブラックヘイズとソードモンガーは残った。高級セダンに乗り込んだ二人……ヨロシサン製薬経営戦略部部長ヤマジロ・ヨウイチとその秘書ハナゾノ・ウメコを見送る。テールライトが角を曲がり、闇に消えた。 27

2014-09-24 00:58:26
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「……行くか」闇が声を発した。「当てがあるのか」別の闇が訊ねた。「このケースをスキャナにかけてから、一杯やろう」「よかろう」連れ立って歩き出した闇のうち、ひっそりと手をかざして残り香を嗅いだ一人を、もう一人は黙って見ていた。 28

2014-09-24 01:01:14
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篠突く雨を貫いて走る高級セダンの後部座席。ヨロシサン製薬経営戦略部長ヤマジロ・ヨウイチが、秘書ハナゾノ・ウメコに語りかける。「やつらは」「指定の場所にて潜伏中です」ハンドヘルドUNIXの情報を読み上げるウメコの膝に、ヤマジロの分厚い手が触れた。「連絡を絶やすな」「ハイ」 30

2014-09-24 01:08:19
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「彼らには気づかれていないな」ヤマジロの分厚い手がウメコの太ももを這い上がる。「体質によりますが、あと二日は何事もないでしょう」ウメコは、ハンドヘルドUNIXをスリープし、目を閉じた。ヤマジロの手が浮き上がり、耐酸性ストッキングの感触を楽しむように五指で撫で上げた。 31

2014-09-24 01:11:36
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「なんとしても先にアレを取り返さねば。今後のビジネスに関わる」ヤマジロの手は、今やウメコのタイトスカートに達し、指先がその暗がりに侵入していた。「ハイ、部長」「頼んだぞ、ウメコ」「ハイ」ウメコのボブカット頭がヤマジロの分厚い肩にもたれる。ポニーテイルの運転手は無言であった。 32

2014-09-24 01:14:09
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一時間後。二つのケースと二つの闇が、二つのグラスを前に並んで座っていた。軽く打ち合わされた逆三角に、とろみのあるギムレットにトビッコが踊った。「うまいな」「だろう」湿った唇が讃えるのへ、バーテンダーは無言で小皿を差し出した。六本のスモーク・メザシがダートめいて並んでいる。 34

2014-09-24 22:05:07
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『カクレガ』はカウンターのみのバーであった。おっとりしたジャズが流れる薄暗い店内にはバーテンダーと人型の闇が二つあるばかり。バーテンダーの背後、設えられた棚に並ぶボトルは、下からのライトに照らされ、ムーンプリンセス・レジェンドのバンブー林めいたワビ・サビを湛えていた。 35

2014-09-24 22:08:20
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「どう思う」出し抜けにブラックヘイズが切り出した。「七・三といったところ」ソードモンガーは逆三角のカクテルグラスにゼン庭めいて佇むトビッコを見つめながら応えた。「それほどか。俺は八・二だ。スキャナになんの反応もなかったのが怪しい」カキン、シュボッ。紫煙が立ち上った。 36

2014-09-24 22:11:32
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「それくらいは想定済みだろう。無駄な小細工を弄するほどの暇はないはずだ」ソードモンガーはスモーク・メザシに手を伸ばした。細長い干し魚を手の中でひっくり返し、尾を囓った。「ソウカイヤも動いているだろうしな」「なるほど」ブラックヘイズがグラスを持ち上げ、唇を湿らせた。 37

2014-09-24 22:14:27
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「そちらの動きは俺が調べよう」スモーク・メザシを逆さに食いきったソードモンガーが言った。「……うまいな」「だろう」ブラックヘイズがメザシに手を伸ばした。頭を食いちぎる。「時に……」「なんだ」ソードモンガーはトビッコ・ギムレットで唇を湿らせた。「あれは、ソウカイヤの仕業か」 38

2014-09-24 22:17:29
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

ソードモンガーはブラックヘイズの横顔を見た。正面を見据えるブラックヘイズの目が、いつを見ているのかを理解し、頷いた。「そうだ」「やはりな」ブラックヘイズが呟いた。「気づいていたなら、なぜ依頼主を見限った」ソードモンガーは訊ねた。「なぜ俺にキヨキ=サンを任せた」 39

2014-09-24 22:20:14
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「俺は臆病者だよ、ソードモンガー=サン」ブラックヘイズが応えた。「貴様もそうだろう」「そうだな」応えたソードモンガーの目を、振り向いたブラックヘイズの視線が射た。「だから、あの時助け舟を出してくれた」「そうだ」ソードモンガーは頷いた。「殺したくなかったのさ」 40

2014-09-24 22:23:12
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「死にたくなかったとは言わないのかね」「貴様も自分が死ぬとは思わなかっただろう」「いよいよご同輩というわけか」ブラックヘイズが笑って目をそらした。「貴様は義理を果たした。死ぬべきではない」ソードモンガーは新たなメザシを手にした。「俺たちは、そういう稼業だろう」 41

2014-09-24 22:26:12
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「俺は死んでいたかね」ブラックヘイズが葉巻をくわえた。「わからぬ。だが、あの一手のみでは先がない」「ほう」ライターが鳴り、火が立った。「見えぬ糸は見えぬとわかっては見えてしまう」「……なるほど。センセイを思い出すな」「貴様のセンセイはいいセンセイだな」 42

2014-09-24 22:29:37
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

ブラックヘイズが立ち上がった。クレジット素子を置き、葉巻をくわえたまま器用にブランド耐酸性コートを羽織った。「行くのか」ソードモンガーがメザシの頭を口に押し込んで言った。「残るかね」アタッシェケースの一つがカウンターを離れた。「もう少しワビ・サビを味わっていきたい」 43

2014-09-24 22:32:50