モーサイダー!~Second Lap~Episode IX
- IngaSakimori
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(さすがに悪いことしちゃったかな……) いささかの罪悪感を覚えながら、ライダーにとって忌まわしきサイン会場と化している、鹿ケ谷公園駐車場を通過すると、志智の眼前に広がったのはなだらかな下り坂だった。 #mor_cy_dar
2014-10-05 23:24:11「おっ……これ、すごいな」 感嘆の言葉を漏らした理由は、その傾斜ではない。視界の果てまで続くのではと思われるほどの直線━━その距離だった。 #mor_cy_dar
2014-10-05 23:24:20(500メートル……いや、そんなもんじゃない。1km以上はあるんじゃないか、これ……) 直線の終点からこちらへ進んでくる対向車が、まるで豆粒のようだ。 #mor_cy_dar
2014-10-05 23:24:30羽田あたりの湾岸線か、あるいは常磐道でもなければ、なかなか見られない、超ロングストレート区間である。およそ志智の知っているワインディングというものとはかけ離れた光景だった。 #mor_cy_dar
2014-10-05 23:24:37「玲矢の……W800ならリミッターいっぱいまで出るんだろうな」 スロットルを煽ろうとする右手を、意志の力で押さえつける。 #mor_cy_dar
2014-10-05 23:24:48対向車線では不意に一台のハイビームが追い越しをかけた。 そして、速度を増して、ぐんぐんこちらへ近づいてくる。一体何キロ出ているのだ。100、150? いや、そんなレベルではない。 #mor_cy_dar
2014-10-05 23:24:57「━━━━━━!!」 すれ違う瞬間、轟々と空気が逆巻く。最新式のGSX-R1000が放出したエキゾーストノートは、主砲の一斉射にも似た猛烈な圧力で、志智の鼓膜を揺らした。 #mor_cy_dar
2014-10-05 23:25:06(200km……それ以上、出てるか? こんな山奥で……) 冷たいものが背中を流れる。 #mor_cy_dar
2014-10-05 23:25:17それでいて、胸の奥ではわくわくとする何かも踊っている。あんなスピードを、ここの場所では出せてしまうのか。大多磨周遊道路では、絶対に到達できない速度域まで、やすやすと手が伸びてしまうのが。 それが━━この伊豆スカイラインという道なのか。 #mor_cy_dar
2014-10-05 23:25:34「ははっ……なんてところだよ……我慢するだけで大変だな」 前方を進む玲矢は、何事もなかったかのように、時速50km少々を維持し続けている。 それは志智にとって、甘い果実を目の前にぶら下げられても、黙として動かぬ修行僧のようにも見えた。 #mor_cy_dar
2014-10-05 23:25:42「ふわ~!! 危なかったねえ、志智くん!」 「そうだな……確かに危なかったな」 超ロングストレート区間を抜けると、すぐに見えてきたのは亀石PAである。 #mor_cy_dar
2014-10-05 23:26:02玲矢のW800がゆっくりと速度を落とし、そこに滑り込むのを確認した志智は、一人で先行していたらどうなっていたものかと、安堵の溜息をついてしまった。 #mor_cy_dar
2014-10-05 23:26:18広大な駐車場には観光バスや一般車が多数停まっているが、それにもまして存在感を放っているのは、大量のモーターサイクルである。 #mor_cy_dar
2014-10-05 23:26:26「玲矢が追いついてこなかったら、このままずっと先まで行っていたかもな」 「ふえ? そうじゃないよ、志智くん。 あそこでねずみ取りしてたでしょ! 結構有名なポイントなんだよ~」 #mor_cy_dar
2014-10-05 23:26:48「あたしが誘ったツーリングなのに、そのこと言い忘れちゃって……ほんと、気が気じゃなかったよ~」 「ああ……そ、そうか。そういえば、そうだったよな」 はぐれる危険とスピード違反で捕まる危険。 真逆どころではない思考のズレに、思わず志智は視線をそらした。 #mor_cy_dar
2014-10-05 23:27:11「いや、俺こそ悪かったよ。せっかく先導してもらっていたのに、いきなり前に出ちゃってさ」 「ううん。速い人がいたら、追いかけてみたくなるのは仕方ないよね。 男の子ってそういうものだもんね。おとーさんが言ってたから、あたしは大丈夫だよ」 #mor_cy_dar
2014-10-05 23:27:23「玲矢のおやじさんは、ずいぶんバイクに理解があるんだな……」 「WもZも最初の頃から乗ってる自慢の父ですっ」 えへん、と胸を反り返らせるそのふくらみは、千歳ほどではないにしても、志智が普段見慣れている金髪の誰かさんとは、明らかにボリュームが違う。 #mor_cy_dar
2014-10-05 23:27:37「で、でも、志智くんのこと先導するのは楽しかったよ」 「そうかな。気をつかわせていたら、どうしようかと思っていたけど」 #mor_cy_dar
2014-10-05 23:28:18「だ、だって、背中にすっごい視線感じたし……ああ、志智くんに見られてるんだなあ……って思うと。 えへへ。なんだか、興奮しちゃいました。です」 #mor_cy_dar
2014-10-05 23:28:30「……まあ。他のバイク乗りに観察されてると思うと、ライディングにも気合いが入るよな」 「そういうことじゃなくて~……もう、志智くんったらぁ」 ぐったりと肩を落として、玲矢はまるで責めるような瞳で志智を見る。 #mor_cy_dar
2014-10-05 23:28:41(そんな顔されても、な) 彼女の真意について、思いを馳せることをあえて怠けつつ、三鳥栖志智はPA狭しと並ぶモーターサイクルの群れに視線を移した。 #mor_cy_dar
2014-10-05 23:28:54「それにしても、すごい数のバイクだな。いつもこうなのか?」 「うん。お天気のいい休日はこうだと思うよ。 あたしは来たことないんだけど、伊豆は真冬でも走れるんだって。だから、一月とか二月でも結構いるみたい」 #mor_cy_dar
2014-10-05 23:29:12「へえ……冬でも走れるワインディングがあるんだな」 例年、真冬は凍結で走れたものではない大多磨周遊道路しか知らなかった志智にとって、玲矢の言葉は驚きだった。 #mor_cy_dar
2014-10-05 23:29:22