彷徨う三日月:胡蝶の夢

“建造ドック”で目を覚ました三日月。混乱する記憶の中で……
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彷徨う三日月 @DD_crescent

……ああ。眩しい…… 「おはよう。ようこそ、墓島ブイン基地へ。これからよろしくね」 え……? 「まだ頭がはっきりしない? 私は叢雲。あなたは……睦月型よね。自分が誰だかわかる?」

2014-10-13 05:11:08
彷徨う三日月 @DD_crescent

どういうこと? ここは…… 「ちょっと、大丈夫?」 「……はい。私は三日月です。どうぞお手柔らかにお願いします」 かろうじて平静を装って、答えを返す。

2014-10-13 05:11:44
彷徨う三日月 @DD_crescent

ここは。 建造ドックだ。 ……私は、今、“建造された”の? だとしたら、この記憶は何?

2014-10-13 05:12:01
彷徨う三日月 @DD_crescent

叢雲に案内されながら、基地の中を見て回る。 たぶん、記憶と同じ……少なくとも違和感、記憶との差異は、感じない。 それは提督と引き合わされたときも、艦娘たちに紹介されたときも。

2014-10-13 05:12:16
彷徨う三日月 @DD_crescent

「……叢雲。少し、一人で基地の中を見て回りたいのですけれど」 「いいわよ。この後は明日までゆっくり休んでもらうだけだし、好きにしてちょうだい」 「ありがとうございます」 私は基地の中を彷徨う。 何処か、何かヒントがないのか……何か……

2014-10-13 05:12:29
彷徨う三日月 @DD_crescent

「あ……」 空母たちの寮……それに、野外に作られた、仮設弓道場…… ここは、なかった……ような……いえ、見たことはある気がするけど…… 「……そう、ここはなかった。弓を使う艦娘は、赤城がくるまではいなかった」 弓道場とは名ばかりの、空き地に的を据え付けた杭を立てただけの場所。

2014-10-13 05:12:47
彷徨う三日月 @DD_crescent

「……」 なんだろう。ここがなかったことを憶えているのに、私はここを憶えている…… 「なんなの……これ……」 「どうしたのかしら」 唐突にかけられた声に、私はびくりと身体をこわばらせる。

2014-10-13 05:13:06
彷徨う三日月 @DD_crescent

青い袴と……横で結った髪…… 「……加賀?」 「どうしたのかしら。顔色がすぐれないようだけど」 「……これは、夢なのですか」 「おかしなことを言うのね」

2014-10-13 05:13:19
彷徨う三日月 @DD_crescent

加賀は、私を空き地の片隅に置かれている古びたベンチに座らせると黙って続きを促しました。 私は全てを話すことはできないと思いつつ、ぽつりぽつりと混乱した自分の状態を断片的にこの寡黙な艦娘に話して聞かせたのです。 「……よくわからないけれど。なんとなく、“胡蝶の夢”を思い出す話ね」

2014-10-13 05:13:43
彷徨う三日月 @DD_crescent

「コチョウの、夢?」 加賀は少ない口数で、その説話について語ってくれました。 「……加賀は、この説話を聞いてどう思いましたか……?」 「……そうね。頷けるものがあると思うわ。どちらが夢でどちらが現であろうと、すべきことをすればいい。それでよいのではなくて?」 「すべきこと……」

2014-10-13 05:14:09
彷徨う三日月 @DD_crescent

「艦娘であるならば、海を取り戻す。そのために生まれたのですもの」 「では……もし、別の何かだったら」 「……今までそんな夢を見たことはないのだけれど。そうね。仮に海を取り戻して、使命から解放された生があるのなら……」 加賀は少し考えると、空母寮に目をやり……

2014-10-13 05:14:36
彷徨う三日月 @DD_crescent

「あのひとと、共に生きてゆきたい……それが叶う道をさがしてみたい。そう思うわ」 「すべきことを成して、自分の望むことをすればいい……そういうことでしょうか」 加賀の視線の先を追って、そう問いかける。 返事は、なかった。

2014-10-13 05:15:01
彷徨う三日月 @DD_crescent

「加賀?」 加賀の、姿もなかった。 「え……?」 それどころか、的も、杭もなくなっていました。 「今のは……」 夢?幻覚?

2014-10-13 05:15:20
彷徨う三日月 @DD_crescent

「……違う……これは、きっと“記憶”なんだ……」 たぶん、私は自分で思っているよりも多くのことを忘れている…… 少なくとも、私は3回、この世界――あるいは時間――に生まれている。 何故、どうやって、なんのために。 わからない。けれど……

2014-10-13 05:15:35
彷徨う三日月 @DD_crescent

「ありがとうございます、加賀……そしていつかの自分。あの会話は、私の支えになる」 そう。すべきことをすればいい。 それさえ忘れなければ、きっと大丈夫……

2014-10-13 05:15:49