空想の街・灯りの樹の夜'14 最終日 #赤風車

#空想の街 (http://www4.atwiki.jp/fancytwon/)さんの「灯りの樹の夜」最終日(14/12/14) #赤風車 。公式様参加者様、お疲れ様でした。 時系列順に並んでおります。何か問題など御座いましたら、お手数をおかけして申し訳ないのですがご一報頂けますと幸いです。すぐに修正いたします。 他本編や番外などはこちら→http://nowhere7.sakura.ne.jp ※文章や画像の無断転載及び複製・自作発言等の行為はご遠慮ください。
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不可村 @nowhere_7

「お前様、今日は何時頃帰る予定でいた」一文字が口火を切る。そこで徒華は呆けたように、友はそういえばもう元居た町には帰らないのだと思い知った。連絡を取らないことも多かったが何だかんだで数年は同じ町にいたのだ。 まず答える。「ええと、夜には帰路につくつもりだよ」 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 12:51:47
不可村 @nowhere_7

徒華の声は続く。出掛けに長姉が寄越した言葉を思い出したのだ。「姉さんは出かけること自体は弟のためだと許してくれたんだが、三日だけだと口を酸っぱくしていたから。きちんと帰らないと、ラジオが直撃かな」実際にあの姉はやる。 苦々しげに姉を思う徒華に、一文字は問う。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 12:55:47
不可村 @nowhere_7

「なにゆえ姉君はそんなに早く帰るようにいったのかね。そこまで事務所は困窮しているのか」 受けて徒華は黙る。確かに貧窮、困窮してはいるが。そうではなく、姉にも気懸りがあるのだ。 「姉さんもきっと今、悩みがあるんだ。どうも最近向こうの町でおかしなことがあって」 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 12:58:59
不可村 @nowhere_7

「おかしなこと」一文字が復唱する。「おかしなことが続けばあの町なら騒ぎが大きくなるだろう。俺だって気づくように思うが」一文字は知らない。徒華は訝しそうに首巻を正す相手を見る。「仕方がないよ。まだ一件二件の話だ」 「成程。騒ぐ程多くもないが、穏やかでもないと」 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 13:02:41
不可村 @nowhere_7

何があった、と促す一文字に徒華が説明をする。「実際に刃傷事件があったわけではないんだ。盗難でもないし。悪戯や愉快犯なんかだとまだ見られているから、君には言わないでいたんだけど」 短い沈黙を挟み、徒華は続けた。 「隠れた路地の壁に、赤い線が書かれているんだ」 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 13:07:14
不可村 @nowhere_7

徒華が続ける。「あとは空き家の壁だったかな、とにかく人の普段通らない場所に――」そこで言葉は打ちきられる。 一文字の相貌が奇妙だった。 生気のない絵画のようだ。総毛立った徒華が思わずじりと体を離す。少し向こうに一文字の顔があるのに、彼の目も口も希薄だ。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 13:12:50
不可村 @nowhere_7

暗がりや樹木の中で一文字が希薄になることはよくあるのだが、こんな日の高い内にこうなることはなかった。相手のいる場所だけ視認できない不可思議なものが居座っているようで、徒華はその長い睫をしばたたかせる。 数回目をこすれば、一文字の顔は既に渋面に戻っていた。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 13:16:00
不可村 @nowhere_7

「それで」一文字は渋面を戻さない。「本当にそれだけか。何かあったのではないのか」 何故一文字がこんな反応をするのか露程も知らない徒華は戸惑って答える。「それだけだ。やけに大きく太い筆か何かで真直ぐ横に引かれているだけ。赤いのは木の実の染料らしい」 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 13:18:42
不可村 @nowhere_7

「染料?」一文字が小声で呟きそのまま口を押さえる。徒華は心配になりだした。妙だ。 「一文字、まさか君、何か知っているのじゃないか。抱え込むなよ」徒華の声にも一文字は直ぐには反応しなかった。 冬の海の音が落ちる。ややあってから、漸くその口が割られた。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 13:23:13
不可村 @nowhere_7

「いや。今の時点では何とも言えん。知っているような気がしただけだ。不確定すぎる」 ここに来て幾分素直になった一文字だ、嘘ではないと徒華は受け取る。一文字は続けた。「ただ用心するに越したことはないだろうな。何があってそういう行為をしとるのかは分からんが」 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 13:27:33
不可村 @nowhere_7

「そうだな」素直に徒華は頷いた。「分からないことをする者ほどおかしい者もいないというし。うん、でも、多分平気だ。知っての通りあの場所は、そういった事件にも厳しいから」 生返事をし、一文字は眼鏡を羽織りのふちで拭っている。徒華は気にはなったが彼を問い詰めない。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 13:30:21

心の臓から千の草

不可村 @nowhere_7

束の間、また海を見る。 弟は本当にこの海で鳴る風車を釣っていたのだろうか、どんな心境で、とつらつら思っていた徒華はふと思い出した。横にいる一文字を見る。「そうだ一文字。君、あの廃屋を直して住んでいくつもりなんだろう? ああ、というより商売は決まったのか」 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 13:35:33
不可村 @nowhere_7

「決まったよ」 即答だった。瞬きを数回する徒華とは対照的に一文字の瞼は微動だにしない。余り瞬きをしない男ではあるが、少し違和感を覚えつつ、徒華は祝福する。 「それは良かった。そうだ、商売道具と昨晩も言っていたな。おめでとう」一文字は有難うよ、とだけ返す。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 13:39:25
不可村 @nowhere_7

「それでどういうものにしたんだ」徒華も一応は商売をする姉の下にいるのだ、職を気分で変えてきた一文字が今度はどう見定めたのかは気になった。 一文字の三編みの楓葉型の毛先と挿してある赤い風車が冷たい潮風に揺れた。唇が一度開き、閉じ、また開く。 「かざぐるまだ」 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 13:43:03
不可村 @nowhere_7

徒華は目に見えるほど身じろいだ。か、の形に口を開けたまま言葉が続かない。喉から言葉をひりだす。「一文字。聞いておくが、それは、弟のものか?」 否定がすぐに来ると踏んでいた徒華が甘かった。一文字は沈黙を守ったままだ。 「君は……」それきり徒華も首を振って黙る。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 13:47:34
不可村 @nowhere_7

「君が何を考えているのか私には本当に分からない」ようやっと徒華はそれだけを空気に出す。「分からないことは不安だ。心配にもなる。不安を疑いに変えて苦しむのは厭だ、それにそのせいで誰かを嫌いにもなりたくない」 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 13:51:11
不可村 @nowhere_7

芥子色のショールの下に徒華が着ている白いワイシャツが、一文字には寒く映った。勿論、一文字は徒華の声を確りと聞いている。聞こえている。 他人をいたずらに不安にさせたくないとは一文字とて思うのだ。 ――徒華といるとこうなる。一人でいてもこうなる。逃れられない。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 13:54:56
不可村 @nowhere_7

徒華には海が沼に見えていた。この街の海は地元の沼と違い、産まれたての赤子のように穢れを知らない色だが、それでも静けさが被る。 突き刺さるのは風車ではない。それの発する音だ。否その鳴き声、泣き声そのものが風車の形をとっているのだ。 徒華には、そう、感じられる。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 14:23:58
不可村 @nowhere_7

硝子球を鈴の形にして軽く転がしたようなあの、鳴き声。子供らが笑うような、それなのにどこか神妙になるあの音色。言語で到底表現できない。出来るとすればそれは、失われた、人間の使えない言語。 項垂れている徒華に、長く黙っていた一文字がやっと話し出す。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 14:26:48
不可村 @nowhere_7

「俺はな、お前様の弟が本当に死んでいるとは決め付けてはおらんよ」直接的に言われ徒華の黒髪が揺れた。一文字の薄い伊達眼鏡が海の向こうを反射している。「無論これからも捜すよう努める。だがな」 一旦声は止まった。「だが、これは弔いだ。俺の勝手な」 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 14:31:13
不可村 @nowhere_7

対する徒華は矢張り何度聞いても一文字の言う事が判然とせずもどかしくなっていた。地元のあの町で会話をするときは、一文字はいつもいつも徒華の悩み事をうまく誘導し簡潔にし、どうすればいいか何が一番問題なのかをそっと教えてくれたのに。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 14:33:52
不可村 @nowhere_7

分からないから、徒華には何も言えない。「死んだと思っていないのに弔いだなんて分からない。本当に、勝手だ」としか。 隠し事はなしだといった。約束した。だから一文字はこれでも何か悩んでいて、これしか今はうまく言葉に出来ないのであって、急かしてはいけないと思う。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 14:36:25

いのちの値段

不可村 @nowhere_7

「分かった、一文字」問い詰めないよ、と暗に含んだ声音で徒華は声をかけた。ただ徒華には言いたいことがある。 「けどな、一つ言わせてほしい。君は弟から聞いたか分からないが、風車、特に弟自身が釣り上げた鳴る風車に対して、弟がどんな風に思っていたか。それを言いたい」 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 14:39:22
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