宵の血に依る契約城：一日目昼

アルカ @Conces_arca

「済まない、遅れただろうか」 中へ入ると同時。確認する前に声を発し、それから見回す。 人影一つ。 「……遅れたという程でもなかったか」 呟く。

プレリ @Conces_prairie

響いた自分のものではない声に、一瞬肩が跳ねた。 腰の細剣を周りにぶつけないように――壊しても弁償できる自信がないからだ――気を付けて振り返る。 自分の目と髪が似ているその姿に、少しだけ、親近感を抱く。 「どうやら私たちは早い方のようだよ」 私は笑って肩をすくめてみせた。

プレリ @Conces_prairie

「挨拶は……皆揃ってからの方がいいかな？」 二度手間になるし、と付け加えて提案。 どうだろう、首をかしげると背中で切りそろえてある髪が揺れる感触がした。

コロル @Conces_color

「あ、アルカだ！」 不躾だと思われるほどに明るい声音。広間の開け放された扉から、ひょこりと見せる顔は、まだ成熟しきらないが決して幼くはない少年の面立ち。 「やっほー、久しぶりー」 きゃらきゃら笑いながら、片手を振る。 「そちらのお嬢さんは、初めまして――だよね、当たり前か！」

アルカ @Conces_arca

「遅れるよりは良いな」 近づく。動きに合わせ、右に帯びた剣が小さく音を立てる。 「揃ってからで構わないだろう。が、まだ二人だ。名を交換しておくくらいは不足ないかと思う。私はアルケーディアス。アルカとでも呼んでくれ」 近い色を持つ少女を見る。距離は、４歩ほど。

コロル @Conces_color

「自己紹介って、もうしちゃった？　それともまだ？　ああ、僕なんだかどきどきしちゃって喉渇いちゃって、なにか飲み物ないかな！」 るんたるんた。革靴の底が厚い絨毯を叩く。 「あっ、忙しなくてごめんね！　ほんと、ほんとに緊張してるんだ僕」 ずれたミニハットを直しながらはにかむ。

ソテル @Conces_lanatus

――まずい、まずいっ！ じぃ達に耳が蛸になるまで聞かせられたマナーも全て頭の中からトばして、その青年は廊下を駆ける足音をころすことなく駆けていく。 趣向を凝らした城の調度に目もくれず、両手に抱えた八輪の白いバラだけは大切に抱きしめて。

ソテル @Conces_lanatus

動きにくい服装をこの時ばかりは鬱陶しく払いながら急げば広間は意外と近かった。扉の前で慌てて立ち止まり。辛うじて頭の隅に残っていた小言に開いたままの扉を三回ノックする。

ソテル @Conces_lanatus

「すいません！遅れまし、た？」 焦りながら、周囲を見渡せばあるのは三つの人影。 半数も揃わぬ広間の様子に、赤い瞳を瞬かせ。 真面目な青年は、思わずその場にあった時計の針の位置を確認した。

アルカ @Conces_arca

「今、名だけは聞こうとしたところだ、が」 一気に騒々しくなったような空気に振り返り、軽く呆れたような返事を返す。 「コロル。少しは落ち着いたらどうだ？」 声音に嫌味はなく、それなりに面識がある様子を窺わせる。

プレリ @Conces_prairie

「アルカ」 音を口で転がして確認する。 「じゃあ遠慮なくそう呼ばせてもらうよ。よろしく、アルカ」 自分からは距離は詰めない。でも、逃げはしない。 近づいてくる姿を見ながら自分も名乗ろうとして、 「私は、」 明るい声音が飛び込んできた。

プレリ @Conces_prairie

コロルと呼ばれた彼の、落ち着きがないその姿がまるで子供のようで、思わず頬が緩む。 二人に聞こえる大きさで名乗りの続きをする。 「私はプレリ。プレリ・ニュイルーナ。よろしく、二人とも」 そう告げたところで、新しい来訪者の声。

コロル @Conces_color

挨拶をと口を開き掛けたところで、聞き覚えのある声に振り返る。 「ソテル、だめだよー！　こう、もっとらしくしなきゃ！！」 あれだけ忙しなかったコロルに言えた話じゃない。 「やだなあ、僕はこの上なく落ち着いているよ！」 謎の見栄である。胸を張りつつ、プレリには笑顔を向けた。

コロル @Conces_color

「僕はコロリュニエンテア・リベルタース。長いし、僕でも噛むし、コロルって呼んでね。よろしくっ」 胸に手を宛て一礼。ミニハットの造花の中心、青い宝石がきらりと輝いた。 「――あ、プレリは僕が近付いて大丈夫？　近付かれたくなーい？」 そうであることがあると知っているように問い掛けた。

アルカ @Conces_arca

「プレリ、で構わないか」 確認するように。 詰めようとはしない様子に何も言わず、自分もそれ以上に近付こうとはせず。 対面で話すにはやや遠い距離を保ったまま。 ――まあ、そんなものだろう。 人間と吸血鬼だ。仕方ないと言えるし、場合により逃げられる可能性すらあることも知っていた。

ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

着の身着のまま。どうにも綺麗なこの城じゃあ、襤褸にしか見えない格好で、廊下を歩き渡り、ようやく広間に辿り着く。俺は、左の片方しかない目の上で眉を寄せて、不機嫌を隠そうともしていなかった。 見るからに重そうな扉に触れてみれば、見た目に反してそれは、氷が滑るほどの音しか立てなかった。

ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

そのとき、俺が指先を強張らせて、眉間の皺を深くしたのを見たやつは、いるだろうか。ろくに手入れもできない髪は、傷みに傷んでいて、伸ばしたってみすぼらしさに磨きがかかるばかり。それでも、こんな時に表情を隠すのと、寒さを防ぐには役立った。 「……契約をしに来た。俺はウィータスラーウァ」

ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

言った声には、甚だ不本意だという本音が滲んでいた。もとから、取り繕うつもりもない。名を告げてしまえば、既に集まっている幾人かから顔を背けて歩き出す。磨り減って潰れている靴底が、ひと足毎に床を擦り乾いた足音を立てる。そうして俺は壁の柱に背を預け、両の腕を組んで構えた。

プレリ @Conces_prairie

「いや、まだ……半数だ。ぎりぎり早い方じゃないかな？」 だから大丈夫。そう笑顔で答えながらも私は少し困ったように眉を寄せる。 ――この人も吸血鬼か。 すこし居心地が悪い気持ちになりながら、つられて私も視線を時計へ向ける。 まだ時計の針はほんの少し、進んだだけ。

プレリ @Conces_prairie

「コロル」 本名の長さに驚愕しながら名を確認する。 「お言葉に甘えさせて貰うよ。私もその長さは噛みそうだ」 アルカの名も長かった。やはり名のある吸血鬼は名も豪華なのだろうか。 そして言われた言葉には少し、考え込む。 「近づかれるのは平気だ……でも、自分からは少し、ね。すまない」

ソテル @Conces_lanatus

「ふ、普段は頑張ってるんだよ？」 コロルの指摘に拙かったと自覚はしているのか、口元をへの字に曲げながら自己弁護。

ソテル @Conces_lanatus

「あ、コロル以外は始めまして。だね。」 改めて姿勢と青いブローチの位置を正す。 今更取り繕うのも恥ずかしくて、少し顔を赤くしながら。 「僕はソテル。『楽園』のソテル。長いほうは上手く言える自信が無いから、ただのソテルでいいよ。」 そういって、室内を見渡しながらへにゃりと笑う。

フェヌス @conces_rs

「思ったよりも賑やかだな」 広間へと繋がる道を、かつかつと靴音を立て。左手で腰に吊った剣を押さえる拍子には、青鋼の甲冑の鳴る軽い音と独り言。視線の先、大きな扉の先からは声が。 白い裾をばさりと揺らしながら、それでも整った所作でその扉へ。豪奢なレリーフを施されたそれに手を掛け——

プレリ @Conces_prairie

女性だ！　あの人は、人間だ！ 少し嬉しくなったのも束の間、来るなり壁際へと行ってしまって寂しくなった。 「うぃーたすらーわ、さん？　私はプレリ。女一人だと心細いんだ、一緒にこっちで話さないか」 彼女の全身からは近づくなという気配を感じるので、 おいでおいでと手まねきしてみる。

ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

呼びかけられれば、その声が女――人間のものであることに密かに安堵し、顔を向ける。返すのは、やんわりとした拒絶。首を横に振る。 「結構だ。俺はその輪には入れん」 殊更場を荒立てようとは思わない。この上不愉快にはなりたくない。 「それに、お前が話しに来た相手は俺(ヒト)じゃないだろ」