探偵小説の設計規範と後期クイーン的問題

後期クイーン的問題を、推理小説家が取り組むべき難問と位置づけ、これの安易な回避を批判する笠井の信念に対しての、個人的な感想をまとめました。
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@quantumspin

後期クイーン的問題を正面突破せよ - Togetterまとめ togetter.com/li/247954

2014-12-20 19:58:27
@quantumspin

小森は『探偵小説の論理学』の中で、探偵小説の限界と前提となる三つの公理(叙述の真実性の保証、探偵存在の保証、犯人の行動の合理性の保証)が存在し、この三つの公理は、作者と読者が相対し競争しあえる共通のフェアな土俵を構築するために要請されるもの、と述べている。

2014-12-17 18:51:32
@quantumspin

つまり、探偵小説の三つの公理は、フェア・プレイ原則に等しい、という事である。ところでフェア・プレイ原則は、すでにヴァン・ダインが二十則の中で言及しており、法月はそれを、手掛かりの完全性、独立性、無矛盾性という、三つの基準に対応するものと見なしうる信条としてまとめている。

2014-12-17 18:57:34
@quantumspin

二十則に存在した『読者は探偵と平等の機会を持たねばならない』、『問題の真相は終始一貫して明白でなくてはならぬ』といった項目は、小森の三公理では削除されている。という事は、読者に必要十分な手掛かりを開示せず、読者の知らない情報に基づく探偵の推理を、小森はフェアと見ていた事になる。

2014-12-17 19:15:56
@quantumspin

しかし一方で、小森は、『ワトソン役の存在は(…)ホームズが発見した証拠や手掛かりを読者に知らせない(…)ためにホームズ物語においてはしばしば、探偵と読者が公平に謎解きを競い合うフェアプレー空間が成立しなくなる』と述べており、ここでは読者への必要十分な手掛かりの開示を要求している。

2014-12-17 19:44:47
@quantumspin

小森の三公理はさておき、二十則が理想的な探偵小説の設計規範を完備していたかについては疑問が残る。さしあたり筆者は、そのひとつとして、真相の意外性の欠落を挙げる事ができると思う。真相の意外性は、探偵小説においては不可欠である。自明に過ぎない謎物語を、探偵小説と呼ぶには抵抗がある。

2014-12-20 14:50:40
@quantumspin

恐らく探偵小説に最低限求められる設計規範は、次のようなものではないだろうか。即ち、1、手掛かりの完全性・無矛盾性、2、推理の論理性、3、真相の意外性、がそれである。ここに加えて、作品構造に関する規範や、過去の探偵小説群が形成した、ジャンルの伝統文化に関連する規範が含まれると思う。

2014-12-20 15:02:51
@quantumspin

作品構造や伝統文化に関する設計規範が、意外性の追求や、物語性の追求に奉仕するため、時代とともに逸脱され続ける運命にさらされているのに対して、さきの3規範は、ある作品が(フェアな)探偵小説として分類される為の、最低限の規範を与えているように思われる。

2014-12-20 15:13:04
@quantumspin

手掛かりの恣意性(偽手掛り)を排除してもなお、手掛かりの真偽判断は探偵には不可能である、という意味での後期クイーン問題は、原理的に不可避であるし、そこに探偵小説の根拠の不在を見る向きがあっても別段構わない。作者がどれだけ『真である』といおうと、探偵にはその声は届かないのである。

2014-12-21 08:44:54
@quantumspin

だが、探偵が懐疑主義的に真摯にその問題を深堀していくと、恐らく科学的捜査それ自身の根拠の不在に辿り着く。探偵は、科学的分析行為それ自身が、反証可能性と可謬性をもっている事を思いだす必要がある。後期クイーン的問題を乗り越えるとは、反証可能性に立脚した科学を乗り越える事に他ならない。

2014-12-21 08:57:43
@quantumspin

後期クイーン的問題に関する完全無矛盾な手掛かりを配し、後期クイーン的問題に関する論理的推理を展開し、後期クイーン的問題に関する意外な真相を明らかにする。後期クイーン的問題を論じ、同時に探偵小説の条件をクリアする為には、このような厳しい条件が課せられる。ぜひ正面突破いただきたい。

2014-12-21 09:06:37
@quantumspin

そしてその際に懐疑主義者たる探偵がとるべき模範的態度は、後期クイーン的問題に関する完全無矛盾な手掛かりそのものの信憑性に対する不信的態度である。この無限後退に対する合理的解決として、反証主義的態度以外にどのような態度をとり得るだろうか、興味深い問題である。

2014-12-21 09:46:15
@quantumspin

笠井の主張する『正面突破』がどのような突破を想定しているのかは不明だが、1、手掛かりの完全性・無矛盾性、2、推理の論理性、3、真相の意外性、をクリアしつつも、それでもその解決に満足しない懐疑主義的探偵が登場する物語を描くべきである、という事を主張しているということかもしれない。

2014-12-21 10:25:24
@quantumspin

(それ面白いですかねー)

2014-12-21 10:49:32
@quantumspin

まとめを更新しました。「続・"後期クイーン的問題の正面突破"が何を意味するか?」 togetter.com/li/761053

2015-06-07 11:07:27